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(55)◇ 誰にも渡さない(アルフォンス視点)(6)
『………ということで、この矢印は…………は……は……はっくしゅん!あーあ。…………きゃ!し、失礼いたしました!』
『!?………』
『も、もうしわけございませんっ!
くしゃみを止めるのはわたくしの得意技ですのに、
こんかいは止められませんでしたっ!』
『は?…………ぶふっ!』
『!?』
『く、くしゃみを止めるのが、得意技……あーあ、って。ぶふっ!』
『……………』
少女は手書き地図の説明途中にくしゃみをし、
最後に『あーあ』と、男のような声を出した。
自分は思わず少女を凝視した。
くしゃみは良いが、『あーあ』は貴族の令嬢ではありえない。
難しい話を説明していたが、
きっとこれが素の少女なんだろう。
少女の自然な姿を見られて、何故かとても嬉しく思った。
その後の『くしゃみを止めるのはわたくしの得意技ですのに』と、恥ずかしそうに言うその言い訳に、止めの一撃を受けた。
どんな得意技だ。
可愛すぎるではないか。
気が付くと、自分は吹き出して笑っていた。
声を出して笑ったのは、もう記憶に無い。
笑いながら少女を見ると、
膨れっ面でこっちを睨み上げていた。




