(48)夜更けの侵入者(3)
「アルはっ!………私にそばにいて欲しいと言うけれど、私は何も知らなかった………。
私には………何も話してくれなかったじゃないですか!
私は、ずっと……ずっと、貴方からの連絡を待っていたのに……」
「っ!クリス……私を待っていてくださったんですね。嬉しい……」
アルフォンス様は私に一歩近付いた。
私は一歩後退る。
月明かりが二人を照らし、闇夜に目が慣れてきた。
アルフォンス様としっかり目が合った。
久しぶりに見たアルフォンス様は、
髪が伸びて少し疲れているように見える。
胸の辺りが軋むように痛む。
「………私のような者に話す必要など無いと……思います。
されど………私は貴方がマキシム国に行っておられたことも、
帰国されていたことも、そして他の事も………全て、父から聞きました」
「………連絡が出来なくて大変申し訳在りませんでした。
今回の訪問は、初めは内密の訪問でしたので………手紙も書けずお知らせ出来ませんでした。
けれども私は!………一日足りとも貴女の事を想わなかった日はありません。
本当に、クリスに会いたかった………」
じりじりと近付いてくるアルフォンス様の、
耳を疑うような言葉に驚きを隠せない。
今、アルフォンス様は何て言った!?
「っ!?…………国王陛下、更にマキシム国王も薦めておられる、
マキシム国の第二王女様との縁組のお話も………父から聞きました」
「っ!クリス、それは!」
「では、………その縁組は噂だけ、ですか?」
「それはっ!…………」
「………噂だけでは無い、のですね」
「………確かに、その話はあります。ですがっ!」
「………わたくしは、貴方のそばにいると確かにお約束しました。
けれど、それはアルフォンス様の奥様が決まられるまでの話。
………御結婚の話がおありなら、国王陛下が薦められるお話でしたら、もう決まったも同然です。
約束通り、わたくしはもう貴方のそばには………居られません」
「クリス!違うっ!それは!」
「アルフォンス様」
「っ!」
私は堪えている涙を絶対に溢さないように、
アルフォンス様を見据えた。
アルフォンス様の美しい漆黒の三白眼も、じっとこちらを見ていた。




