(39) 修行が足りない伯爵令嬢
「………はい。どう、ぞ」
がんばったけど、ちょっと声が上擦った。
まだまだ貴族令嬢としては及第点以下だ。修行が足りない。
「失礼いたします」
部屋に三人のメイドらしき女性達が静かに入ってきた。
「ラファイエリ伯爵令嬢。御加減はいかがでございますか?」
一番年長らしきメイドの女性が私に話しかけた。
とても美人だ。他の二人も。さすが王宮。
「ありがとう。大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました。
着替えたいので手伝っていただけますか?」
「畏まりました」
三人は慣れた手付きで着替えを手伝ってくれた。
途中から何かおかしい。
見たことがない、かなりシンプルだけど生地が豪華なエメラルドグリーンのドレスに着替えさせられる。
「え?ち、ちょっと、このドレスはわたくしの物ではありません」
「こちらで大丈夫でございます」
「いや、だから、ちょっと、え?」
知らない豪華なドレスを無理矢理着せられ、髪も緩く結い上げられ、
薄く化粧までされて完璧な令嬢に仕上がった私は、
テーブルでお茶を頂きながら、
年長のメイドさんから事の顛末を教えてもらった。
眠ってしまった私をお姫様だっこしたサイファー王太子殿下がここまで運んで来てくださり、着替え等は全て殿下の指示でこちらのお三方が面倒を見てくださったとの事。
起こそうと何度か呼び掛けたが、爆睡していて全く起きなかったらしい。
そう、普段の私はかなり眠りが深い。
かなりハードに揺さぶられてもなかなか起きないくらいよく寝る。
更に最近は寝不足気味だったので、起こすのは無理だっただろう。
メイドさん達に申し訳無くて、
穴があっても無くても、自分で掘って入りたいくらいだ。
「ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ございませんでした」
私は美人お三方に頭を下げて謝罪した。
「お、お止めください!ラファイエリ伯爵令嬢!
お顔をお上げください!メイドに頭を下げてはなりません!」
「関係ありません!」
「「「え!?」」」
「メイドだから等は関係ありません。
ご迷惑を掛けたなら、貴族でも誰でも人として謝らなければ。
元はと言えば、わたくしが熟睡して起きず、皆様にご迷惑を掛けてしまったため。
きっと只でさえ忙しい中、要らぬ手間を掛けさせてしまいました。
仕事帰りに何か予定があったなら、本当に申し訳無いです……。
急な残業に対応させてしまいました。
わたくしの不徳の致すところ、本当に申し訳ございませんでした」
「「「ラファイエリ伯爵令嬢!!!」」」
「サイファー王太子殿下にも、日を改めまして謝罪いたします。
大変申し訳無いですが、王宮内にまだわたくしの父が居るか確認していただけますか?
既に帰っているようでしたら、辻馬車で帰りますので呼んでください」
「くくっ!」
「?………サイファー王太子殿下!」
開いたドアの柱に凭れて、
金髪碧眼王子がこっちを見ながら笑っていた。




