(36) サイファー王太子殿下との出会い(2)
「!?」
「君、涙が……」
「え?」
サイファー王太子殿下に指摘されて、
頬に手を当てると、涙でびちゃびちゃだった。
涙の量が多くて顎から滴が落ちている。
「わっ!」
貴重な本に涙が落ちていないか慌てて見たら、
本には落ちてはおらず、自分のドレスの胸元に落ちていた。
胸元はびちゃびちゃだ。
「よかった、本は濡れてなかった…………はっ!」
サイファー王太子殿下は安堵している私を凝視していた。
それにに気付いた私は慌てて椅子から立ち上がり、
思いっきり頭を下げた。
頬に残っていた涙が床に落ちる。
余りのパニック状態に貴族の挨拶のシルトがすっかり抜け落ちて、
日本人的な深いお辞儀をしてしまった。
慌ててシルトを取りながら挨拶をした。
もう、グダグダだ。
「サ、サイファー王太子殿下、大変失礼いたしました。
私はク、クリスティーナ・ドゥム・ラファイエリでございます。
お見苦しいところをお見せしてしまいまして、本当に申し訳ございません。
直ぐに御前を失礼いたしま」
「待って!」
「!?」
借りていた2冊本を持ち、慌ててその場を去ろうとした私は、
いきなり殿下に手首を掴まれた。
「本を貸して」
言われるがまま本を渡すと、
殿下は受け取った本を傍の小さなテーブルに置いた。
「?」
手首を掴まれたまま固まっている私に、
殿下は上着のポケットから御自身のハンカチを出して、
私の頬の涙を優しく拭いた。
「!?」
「………こんなに泣いて。そんなにあの本は感動的だったの?」
「………えっ?……………ふぁい。涙が、ひっく、とまりません、でした」
殿下に優しくされて、パニックから解き放たれて、
でもまだ昨日の失恋のショックも引きずっていて。
何がなんだかわからなくなって、また涙がとまらなくなった。
泣き過ぎて引き泣きになってきた。
「ど、どうしよう、も、も、もうしわけ、ございませんっ、ひっく、涙が、と、とまらなく、なってし、まい、ました」
「ふふっ。いいよ、好きなだけ泣いてスッキリするんだ。おいで」
フワッとした感触が身体を包み込んだと思ったら、
私はサイファー王太子殿下に抱きしめられていた。




