(26) 遠い存在のアルフォンス様
お二人の葬儀は、王宮でしめやかに執り行われた。
貴族からも領地や城下の民からも慕われていた公爵夫妻の死に、
国中は悲しみに包まれた。
亡き公爵様の実兄である国王陛下と王妃殿下が、
涙を流しながら二つ並んだ棺の傍に跪いておられた。
アルフォンス様は凛とした佇まいで、
静かに涙を流されていた。
私はただ、涙で滲むアルフォンス様の姿を、
遠くから見つめる事しかできなかった。
葬儀の後、
アルフォンス様はフレデリーグ公爵を授爵され、
惜しまれながらも騎士団を辞められた。
その後、『意見交換会の開催は大変遺憾ながら、
暫くの間延期とさせていただきたい』と、
アルフォンス様の直筆で書かれた丁寧な謝罪の御手紙を頂いた。
多忙な中、本当に律儀な方だと思いながら、
了承と身体を大切にして頂きたい旨の返事を書いた。
返事を書きながら心は悲しく、
胸が苦しくなった。
今更ながら、私はアルフォンス様との時間を心から楽しみにしていた事に気が付いた。
二十歳で公爵を継がれたアルフォンス様は、
お若いながらも早々に幾つもの素晴らしい働きをされ、
周りの古参の貴族方からも既に一目置かれているとお父様からお聞きし、心から安堵した。
国王陛下の大きな後ろ楯もあり、
従兄弟である次世代の王のサイファー王太子殿下の右腕になられるのは間違いないとの噂が出ていた。
早速、国内外を問わず、膨大な数の縁談の申し込みが殺到しているらしい。
中には近隣の主要国の王女様とのお話もあると聞いた。
あっという間にアルフォンス様は、
遠い存在のお方になってしまった。
元々、そうだった。
私は一伯爵令嬢だ。
有力な家柄ではない。
勘違いをしすぎる前に軌道修正が出来てよかった。
これで良かったんだ。
葬儀の後、半年近く経った頃、意見交換会のお誘いがあり、
アルフォンス様と王宮図書館でお会い出来ることになった。
本当に久しぶりで嬉しくて、
前日の夜はなかなか眠れなかった。
半年振りにお会いしたアルフォンス様は、
少し痩せておられた。
そのお姿を見て胸がツキンと痛くなった。
でも、公爵になられたオーラが満ち溢れ、
やっぱり素敵な黒髪美青年だった。
今度は胸がぎゅっと痛くなった。




