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(21) 市場に行った時のこと

アルフォンス様との衝撃的な初対面から、

早10年近くが経った。


当時7歳だった私は16歳になり、

6歳年上のアルフォンス様は22歳になられた。


アルフォンス様は心身共に想像以上の美青年に成長された。

黒目黒髪で聡明な彼は息をのむ程に美しい。

前世では地方プロレスが好きだった私はなかなかの筋肉フェチなので、目測190cm背丈のアルフォンス様の騎士団で鍛えられた実戦筋肉はものすごく好みだ。


ちなみに私は165cmくらい。

この世界では平均身長だ。

やっぱり中庸伯爵令嬢だ。




初めてお会いしてから、本当に色々な事があった。


現場見学と称して二人で庶民に扮装しては色々な場所に連れて行ってくださった。

いつの間にお父様の許可を取っていたのか、今でも不思議だ。

アルフォンス様は仕事が早すぎる。


アルフォンス様は庶民に扮装しても隠しきれない高位貴族のオーラが出まくりで、周りはかなりざわついていたけれど、本人は完璧に庶民化していると思っていて、そのギャップに私は何度も吹き出した。


王宮近くの賑やかな町や少し離れた村、農村や漁港にもアルフォンス様の愛馬に一緒に乗せていただいて訪れた。

後ろから私を護り抱きしめるようにして手綱を持つアルフォンス様は本当に格好良くて、何度も見惚れて落馬しそうになった。



アルフォンス様は市場も慣れた仕草で案内してくださった。

初めて市場に行った時、王宮や屋敷では絶対に食べられない屋台の食べ物を買って、嬉しくて早速歩きながら食べた。

私が何の躊躇もせずに肉の串焼きにかぶり付いた時、

アルフォンス様は黒目を真ん丸にして驚いていた。



「………クリス。こういうものは初めてじゃないのですか?もしかして、誰かと来」

「あー!申し訳ございません!あちらの方の食べ方を見て参考にしたんですが………いけませんでしたか?(やっばい!前世ぶりの串焼きにテンション上がって普通に串にかぶり付いちゃった!貴族の令嬢はしないわよね……)」

「クリス!……貴女は何て………そのまま召し上がってください。私が見守っていますので」

「アルフォンス様も食べてください!見守られたら食べにくいです。美味しいですよ。一緒に食べましょう!」

「一緒に……っ!ええ、食べましょう」



見守られたら食べにくいって言ってるのに、その後もアルフォンス様は美しい黒い目で私をずっとガン見しながら、品良く串焼きを食べていた。


実は、こういう時のアルフォンス様の目付きは、かなり悪い。

ちょっと三白眼っぽくなる。

はっきり言って怖い。

おい、美青年どこいった?

王宮や人前での嘘くさい……いや、高貴な貴族微笑の時にはアノ悪い目付きは見たことがない。

あれ?もしかして私、睨まれてる?

本当は嫌われてるのかな。

平気で串焼きにかぶり付くガサツな女の子は、

やっぱり苦手なのかも。


こんなこと、誰にも言えなくて、

相談する友達もいなくて、

私は地味に凹んだ。



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