(128)レスロエンドで出会った御方(3) ガイア・バティスタ・ズフタス第三王子
デンカ……?
でんか………?殿下っ!?
で、ブラーム語ではない、この言葉は………。
『殿下ー!』と叫んでいる人の方向を見ると、少し遠くに馬に乗った数人が見えた。
私は急いでメモに[貴方はグスタフ共和国の方ですか?]と書いて、ワイルドライオンに見せた。
『貴女はグスタフ語がわかるのか?』
ワイルドライオンは、驚いた表情で私を見た。
[はい、少々]
『……そうか。なら先程の』
『殿下ー!あーっ!いたー!皆の者、殿下を見つけたぞー!』
[殿下、なのですか?]
『………ああ』
観念した雰囲気で、ワイルドライオンは私に自己紹介をした。
『俺はガイア・バティスタ・ズフタス。
ズフタス共和国の第三王子だ』
[………(う、そ………)]
私は慌てて直ぐさま立ち上がり、正式なシルトで挨拶をした。
無言だったけれど。
『!』
ガイア王子は驚いた顔で私を見ていた。
私はまたメモ帳を取り、自身の事を書いた。
[御挨拶を申し上げるのが遅くなり大変失礼致しました]
[私はブラーム国のラファイエリ伯爵が娘、クリスティーナ・ドゥム・ラファイエリでございます]
『ラファイエリ伯爵令嬢……か』
[はい。此処、レスロエンドは我が家の領地でございます]
『そうか。勝手に入って申し訳無かった』
[あれは我が伯爵家の別荘でございます]
『そうか』
『殿下ー!はっ!』
馬から降りてガイア王子を呼びながら走って来た従者が、私を見て固まった。
その後ろの従者達も固まる。
「お嬢様ーっ!!お前達っ!何者だっ!」
別荘から慌てて走ってきた我が家の従者のリオネルが、私を背にして剣を抜いた。他の従者達もガイア王子に剣を向け、胡座のまま座っているガイア王子に立ち塞がった。
ガイア王子の従者達も私達を囲み剣を構えた。
『殿下っ!』
『待て!大丈夫だ』
ワイルドライオン……もとい、ガイア王子はゆっくりと立ち上がり、追ってきた自身の従者達を制した。
やっぱりこの人大きい。ここにいる誰よりも大きい。
「勝手に領地に入り大変失礼した。道に迷ったところ、其方のラファイエリ伯爵令嬢に助けて頂いた」
「えっ?お、お嬢様?」
私はリオネルに何度も首を縦に振って肯定した。
急いでメモに[このお方はズフタス共和国の第三王子殿下です]と書いて、リオネルに見せた。
「ズッ!?ええっ!?ズ、ズフタス共和国王子殿下、た、大変失礼致しました!」
元軍人のリオネルと我が家の従者達が、慌ててガイア王子に最敬礼をした。
「いや、此方こそ、いきなりすまなかった」
『『『『『『!?』』』』』』
ばっとガイア王子の従者達がものすごい物を見るような目で、ガイア王子を見た。
「??(え、なに??)」
『殿下が謝った……マジか………』
誰かの呟きが聞こえた、瞬間。
ドゴッ!
『ごふっ!』
殿下ー!と叫びながら走って来たあの従者が、ガイア王子にノールックで鳩尾を肘打ちされてその場に蹲った。
「『!!?』」
私は思わずリオネルの背に近付き、上着の裾を少し掴んだ。
何かにすがりたくなったのは仕方が無いと思う。
「ああ、お気になさらず」
そう言いながらガイア王子がリオネルをちょっと睨んだ。
「ひゅっ!」
何故か睨まれたリオネルが変な声を発した。
いや、気にするでしょ?
従者さん、めっちゃ苦しそうだよ?
ごふごふ言ってるよ!
あ、立ち上がった。
「ラファイエリ伯爵令嬢、丁寧な地図をありがとう。本当に助かった。是非この礼をしたい」
お礼!?なんていらないです!
私は顔を思いっ切り左右にブンブンと振った。
慌ててメモに[いえ、どうぞお気になさらないでください。どうか道中お気を付けくださいませ]と書き、ガイア王子に紙を見せた。
また極悪人みたいな目付きでメモを見たガイア王子の眉間に更にくっきりと皺が寄り、片眉が上がった。
「!(ひいっ!)」「「「「「ひっ!」」」」」
私もリオネル達も震え上がる。
こ、怖っ!何か私、怒らせるような事言った!?
別れの挨拶、どこ間違えた!?
「此度の我らの危機に、ラファイエリ伯爵令嬢は大いなる助けをしてくださった。グスタフの男としてこの恩義は必ず返さなくてはならない………そしてこの素晴らしい出会いを大切にしたい」
いやいやいや、道を聞かれたから教えただけですよ?
普通に町中でも迷ったら聞くし、聞かれたら教えるって!
ガイア王子が近付いてきて、びびるリオネルがさっと横に避けた。
ちょっとリオネル!避けてどうする!私を守って!
ん?目の前の巨人ライオン王子が、んんっ、ガイア王子が、跪いた!?
「「「「「「!?」」」」」」
『『『『『『!?』』』』』』
「ラファイエリ伯爵令嬢。どうかまたお会いする機会を頂きたい。
我らは今からマキシム国に参るが、半月後には帰国する予定だ。その時にまた此処に会いに来てもいいだろうか……?」
ガイア王子の従者さん達も、リオネルも、我が家の従者達も皆驚愕してる。
顎が外れそうな人もいる。
ここで断れる肝っ玉女子なんて、この世にいるのだろうか?
断って怒らせて、万が一こんな巨人ライオン王子に片手で軽くアイアンクローでもされたら私は即死だ。
私はコクコクと高速で頷いた。
「そうか……ありがとう。ラファイエリ伯爵令嬢」
にっこりとあの太陽のような笑顔で頷いたガイア王子は、おもむろに首にかけていた物を取った。
ゴツゴツした手でそっと私の手のひらを取り、その上に乗せた。
透明でキラキラと輝いて赤くて丸い物。
すごく綺麗。
こんなに綺麗で赤い物って珍しい………で、手のひらに小さく収まって重さがまあまあ、ある。
ん?…………こ、これって、もしかして、レッドダイヤモンド!?本物!?
がばっと顔を上げたら、ガイア王子は既に馬に乗っていた。
乗ってる馬も巨大だった。
「!!(ちょっ!ちょっと待ってー!これっ返すっ!これは無理ー!!)」
『ラファイエリ伯爵令嬢!次に会うまでそれを預かっていてくれ!では!』
「!?(うっそー!?)」
それぞれの馬に乗ったガイア王子御一行様は、土煙を上げて旅立って行った。
私にどえらい物を押し付けて。
※お読み頂きましてありがとうございます!
新しいキャラが出て参りました!ずっと書きたかった筋肉バカ系王子です。
お楽しみ頂けると幸いです。
※次回からは不定期に戻ります。申し訳ありません!
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