(127)レスロエンドで出会った御方(2)
背がとても高く、瞳が赤い。
髪はオレンジ色でライオンの鬣みたいだった。
我がブラーム国では珍しい瞳と髪の色だ。
旅人の様な服装だけど、なんとなく平民ではない独特の雰囲気。
日によく焼けていてガタイが良いから、プロレスラーみたいだ。
はっきり言って威圧感のある見た目が怖い。
けれど、襲って来そうな気配が無い。
「………」
「………」
暫し見つめあって十数秒。
あっ!忘れてた!
私、声出ないんだった!
私は慌てて筆談用のメモ帳を出して、紙に文字を書いた。
固まっていた旅人がはっと動き、私が書く様子をじっと見ている。
書き終わった私は、5mくらい離れている旅人ライオンに向けて書いた紙を見せた。
[道に迷われたのですか?
私は話せないので、筆談で失礼いたします]
旅人ライオンは、赤色の瞳の目をものすごく細く凝らして、私の書いたメモを必死に見ていた。
その顔はまるで極悪人だ。
「っ!(ひいっ!)」
座ったままの私は恐怖で後退りし、背中に銀杏の木が当たった。
それでも書いたメモを小刻みに震える片手で持ち腕を出来るだけ伸ばして、必死に旅人ライオンに見せた。
旅人ライオンは字が見えにくかった様で、極悪人顔のままジリジリと近寄って来た。
まるで凶暴ライオンが獲物を狙って静かに近付くかの如く、近寄って来た。
「──!───!!(きゃー!怖いー!!)」
「………話せないのか?」
「!?(え!?)」
極悪ライオンが喋った。
ものすごく低いけれど、意外と優しい声だった。
私はこくんと頷いた。
「そうか……すまない、驚かせてしまった」
「………(いいえ、すごく怖かっただけです)」
私は小さく首を横に振り、下から極悪ライオンを見上げた。
さっきより近いから更に大きい。
見上げると首が痛いくらいだ。
「っ!………」
また極悪ライオンが固まった。
何だか顔が赤い。
今日は気候が良いので少し暖かい。
暑いのだろうか?熱中症?少し心配になる。
そうだ!道案内しなきゃ。
あと数時間で日が暮れ出す。ここは山だから夜は冷えるし。
早くお教えしてお立ち去り頂こう。
私は慌てて紙に書いた。
[どちらに向かわれているのですか?]
「………ああ、マキシム国だ」
マキシム国。
リリアンヌ王女様の母国。
胸がツキッとした。
此処レスロエンドは、マキシム国とズフタス共和国の三国が接する国境にまあまあ近い場所にあった。
まあまあ近いと言っても三国の国境までは馬車で丸二日はかかる距離だ。
此処は特に栄えた産業が無く、山と川と湖があるだけの土地で食べ物には困らないけれど、わざわざ他国が狙う事もない様な穏やかな場所だった。
景色以外の唯一の自慢は、珍しい温泉だった。御先祖様は温泉好きで此処に別荘を建てたとお父様から聞いた。
私は紙に地図を書き、現在地やマキシム国への最短ルートを簡単に書いた。
書いている間、極悪ライオンはじっと私を見ていた。
気付いていたけれど知らぬ振りをした。
地図を書き終わりその紙を渡した。
赤い顔のまま受け取った極悪ライオンはもう極悪ではなく、彫りが深いかなりのワイルドイケメンだった。
「…………(あら、イケメンさんだったのね)」
「ありがとう。とても分かりやすい地図だ。女でこの様な地図が書けるとは」
「──────!?(はぁっ?何ですってー!?女でこんなって、なんて失礼な!)」
ワイルドライオンの女性差別発言にムカつき、思いっきり下から睨み付けると、ワイルドライオンは赤い顔を背けて口元に手をやった。
「───────!(ちょっと!すっごくムカつくから、その地図返しなさいよっ!)」
「………すまない。何故怒っているのかさっぱりわからんが……怒らせた俺が悪い。すまなかった」
ドサッとその場に胡座で座ったワイルドライオンは、私に深々と頭を下げた。
え?いや、うーん、もういいって。
そんな深く頭下げてもらっても困るし、もうわかったから、ちょっと!頭を上げてよ!
頭を下げたまま動かないワイルドライオンに焦った私は少し近付き、その膝辺りを指先でつんつんと軽くつついた。
ばっと顔を上げたワイルドライオンは、眉毛を下げながら申し訳なさそうに私の顔を見た。
「……許してくれるのか?」
座ってても小山みたいなご立派な体格の男性が、子猫の様に小さく見えた。
私はそのギャップに思わず少し笑いながら、何度か頷いた。
「っ!そ、そうか!よかった!」
ワイルドライオンは顔が赤いまま太陽の様な笑顔で嬉しそうに笑った。
『殿下ー!どちらにいらっしゃいますかー!?殿下ー!』
『チッ!アイツ……声がでかい。外では名前で呼べと言ったのに。馬鹿かアイツは』
「!?(え!?)」
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