(126)レスロエンドで出会った御方(1)
青い空!白い雲!可愛い小鳥たちのさえずり!
ひゃー!田舎って良いわー!
王都の屋敷から馬車で一日程の此処、レスロエンドに着いてから一週間。
私は超快適にのんびりと過ごしていた。
最後までお父様は「僕も着いていくー!」と駄々をこねていたけれど、お母様に宥められて泣きながら見送って下さった。
我がラファイエリ伯爵家の領地レスロエンドの別荘は、この前発覚した国王陛下とお父様が幼少期に出会われた王家の領地レスロのすぐ隣にある。
とっても近い。ここから歩いて20分くらいレスロにお城みたいな王家の別荘がある。
国王陛下はあの別荘で療養されていたんだろう。
残念ながら、まだ声は出ない。
掠れた声さえ出ない。
心の声は叫びまくりだけど、何故か発声できない。
でももう、声が出なくても良いかなーと思うようになってきた。
声が出ないから周りに気を遣って伯爵令嬢っぽく話さなくても良いし。
肯定は首を縦に振れば良いし、否定やわからない時は首を左右に振るか、少し傾げていたら良いし。
ただ、首を傾げると皆が『はぁう!お嬢様っ!』と倒れそうになるから、なるべく左右に振るようにしている。
筆談で大抵のことは何とかなるし。
王都の屋敷から一緒に来てくれた腕利き従者達やメイド達と、元々ここレスロの別荘を管理してくれている執事とメイド達もかなり仲良くなっていて、何だか王都の屋敷よりもラクそう……いやいや、楽しそうで何よりだ。
上を見上げると、木の太い枝にメジロのつがいが仲良さそうに並んでいる。
メジロって、この世界でもつがいの仲がすごく良くて、ずっと一緒に居るんだよね。
可愛いなあ。うらやましいなあ。
あー。
平和だわ。
別荘の前には大きな湖があった。
私はその湖の畔にある大きな銀杏の木の下で、太い幹にもたれて座っていた。
つばの広い帽子を被ってるし、生い茂った葉が日を遮ってくれるから日焼けの心配はいらない。
ここは、ど田舎の別荘。
そうそう不審者なんて出ないから、今は付き添いのメイドも従者もいない。
木の太い幹に隠れて少し別荘からは死角になってるけれど、すぐそこに別荘があるし、私が一人の時間をお願いしたから皆そっとしてくれている。
外で一人、ぼーっと出来るなんて、王都の屋敷じゃ考えられない。
この場所は、小さい頃から私のお気に入りスポットだ。
ここから湖を見る景色が、前世の田舎の静岡とちょっと似ていた。
あの時みたいに湖で釣りでもして、獲った魚を焼き魚にして、湖畔のBBQっぽく焼き肉や野菜も追加して皆で食べようかと思ったけど、普通の伯爵令嬢はそんなことはしない。
読んでいた本を横に置き、陽の光でキラキラと光る湖面をぼーっと眺めていた。
はあ………。
ここ最近になってやっと、嫌な夢を見て魘されなくなった。
王宮の庭の四阿で突然声が出なくなったあの日から、私は夜に嫌な夢を見ては魘され、涙を流しながら起きていた。
悪夢は、泣きじゃくるリリアンヌ王女様を抱き上げたアルフォンス様が、私の事を冷たい目で思い切り睨んで去って行く……という、あの場面。
何日も繰り返し見る悪夢。
夢どころか、実際にされたんだからたまったもんじゃない。
あーあ。
ドラマやラノベみたいに記憶喪失にでもなったら良かったのにな。
あれ程厳しい目で睨まれたのは、さすがにショックだった。
怒っていた。凄く怖かった。
私がリリアンヌ王女様に酷い事を言って泣かせたと、アルフォンス様がそう思ったことが本当に悲しかった。
私は理由も無く、人を泣かせるような事なんて言わない。
王宮図書館で出会ったあの時から7年。
色んな事をたくさん話したのに、私の事なんて全然わかってなかった。
イケメンはやっぱりそう。人の事なんてちゃんと見てないんだ!
それに。
リリアンヌ王女様をあんな大事そうにお姫様だっこして。
……王子様かっ!
………ま、その後、私も本物の王子様にお姫様だっこされたんだけど。
………本当に大切そうに抱きしめてたなあ。
そりゃあ、あんなに清楚で白百合のような美しいお姫様なら、好きになっちゃうよね。
リリアンヌ王女様もいつでも可愛く、アルフォンス様が好きなんですオーラを出しまくってたしなあ。
『私たちの邪魔をしないで』
『もうすぐ私たちは結婚して、夫婦になるのです』
あー、そうですか。早く結婚したらいいじゃない!
邪魔なんてするわけ無いし、出来るわけが無い。
二か国の王命の縁談に、一伯爵令嬢が邪魔するわけが無い!
それに、根本が間違ってる!
嘘つきアルフォンスは私の事なんか好きじゃありませんー!絶対に!
好きな人に、こんな酷い仕打ちばかりするわけないじゃない。
ぐすん。
はあっ、しんど………。
その時。
カサッと草を踏みしめる音がした。
音がした方向を見ると、見知らぬ男性が立っていた。
『っ!?(誰っ!?えっ?熊!?あっ、不審者っ!?)』
「驚かせてすまない。道に迷ってしまい、人影が見えたので道を教えて貰おうと………っ!」
『?(み、道?あ、迷ったのね……ん?固まって、る?)』
その見知らぬ男性は目を大きく見開いて、文字通り固まっていた。
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