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(125)声を失った伯爵令嬢



医師の診断では、失声症とのことだった。



何らかの精神的ストレスや大きなショックが原因のため、先ずは気持ちを軽くすることが大切だと言われた。


声が出なくなった当日は心身ともに色々なショックが重なって取り乱し、医師に鎮静剤を処方されていつの間にか眠っていた。

翌朝起きてみると、以前王宮で泊まったあの部屋だった。


声は出ないけれど身体は元気だったので、お母様に筆談で『もう大丈夫ですので帰りましょう』とお伝えした。

なのに、何故か横にいたサイファー王太子殿下に「最低一週間は此処で安静にしないとだめ」と、笑顔で言われて帰宅は却下された。


王宮で休ませて頂いている間は、お母様が泊まり掛けでずっと付き添ってくださった。

私の身の回りの世話はメリーナがしてくれたのですごく安心した。

王妃様が気遣ってくださったらしく、ここ王宮で気心の知れたメリーナが居てくれるのはとても有り難かった。

涙目で心配してくれるメリーナは本当に優しい。お母様もメリーナをとても気に入っていた。



声が出なくなった翌日、国王陛下と王妃様がお二人で訪れてくださった。

終始、私がベッドの上で正座をしたまま恐縮しきりだったので、お母様が『お見舞いありがとうございます。陛下とリー様のお見舞いはティーナが必要以上に恐縮しますので却下』と、2回目以降を笑顔で断ってくださった。

お二方はブーブー文句を仰っていたけれど、その後は有り難いことにおみえにならなかった。

やっぱりお母様は最強だった。



サイファー王太子殿下は時間が空くと来てくださった。一日に5、6回は来られる。

申し訳無くて『どうぞ大切な御用事にお時間をお使いください(頼むから当分来ないで)』とお願いをしたら、手を握られながらまたにっこり笑顔で却下された。


無駄にキラキラさせながらの金髪イケメン王子のにっこりは、本当に目がチカチカする。

次回からは、特に昼間は窓際に座らないで頂こうと思った。


それはそうと、王太子殿下のお付きの侍従さんが日に日にお元気じゃ無くなっていた。

目の下のクマが尋常じゃない。ちょっと心配になる。

やっぱり王太子殿下は此処に来過ぎで、お仕事溜まって大変なんだろうなと推測した。



お父様も手作りのお薬を持って毎日来てくださった。

来る度に『寂しいから僕も王宮に泊まるんだー!』と、駄々を捏ねていたけれど、お母様に即却下されて毎日泣きながら帰って行かれた。


お父様のお薬は、気持ちを落ち着かせる優しいハーブだった。

カモミールの紅茶も持って来てくださり、飲むと心がほっこりした。

メリーナに頼んで、王太子殿下付きの『クマが尋常じゃない侍従さん』に、このカモミール紅茶をこっそり差し入れてもらった。

とても喜んでくれたようで良かった。



こうして周りに助けて頂いた私は、少しずつ落ち着きを取り戻していった。




一週間、ステイ王宮を我慢した私は、お母様に全力で屋敷に帰りたいと懇願した。医師からも馬車移動のお許しが出たので、お父様に迎えに来て頂いてそそくさと帰宅した。


医師のお許しが出た時、お決まりのようにその場にいたサイファー王太子殿下が、顔を(そむ)けて小さく舌打ちをしたのを私は見た。

キラキラ王子の舌打ちは、何故かアイドルの様なさわやかさを感じた。やっぱり見た目ってすごい。



ステイ王宮の間、リリアンヌ王女様はの母国のマキシム国に帰られたそう。

聞いてほっとした私は腹黒だ。


アルフォンス様はもちろんお見かけしなかった。

もう二度と、顔なんか見たくない。





屋敷に戻った私は、自分の部屋の窓からずっと庭を眺めてばかりいた。

声が出ない身体は元気だけれど、全くやる気が出なかった。

大好きな読書も刺繍もピアノも、一切何もしたくなかった。


けれど、私はこの心の病気を知っていた。

今は心が求めるままにゆっくりと過ごす事が大切で、そうしないとやがて心が完全に壊れてしまうことを知っていた。


私は前世の桐生里奈の時に同じ経験をしていた。

前世でとある医療法人で院長秘書をしていた時、その院長から酷いパワハラを受け続けていた。

ある朝、起きたら声が出なくなった。


病院で失声症と診断された。

声が出ない秘書なんて仕事にならないとまた叱責されて、仕事を辞めた。

まだ若かった私は戦う術を知らず泣き寝入りした。

今ならはりきって裁判をして、医療法人と院長両方からガッツリ慰謝料も労災も勝ち取るのに。


その数年後、その医療法人は他の大きな医療法人に吸収されて、全てが良い方向に変わったらしい。

馬鹿なパワハラ院長が、我が儘な一人娘と共に事件を起こして逮捕されたと噂で聞いた。女子高生を誘拐したらしい。本当に信じられない。最低な奴等だ。

逮捕は因果応報(いんがおうほう)だと思った。


前世で声が出なくなった私は、リハビリで通院をしたけれどなかなか声は出ず、家に籠りがちになった。

ある日思い切って夢だったひとり旅に出た。

日本各地の地方プロレスを観に行ったり、のんびりと観光してその土地の美味しいものを食べた。海外旅行にも行って乗馬にも挑戦した。


少しずつ(かす)れた声が出始め、半年過ぎた頃に(ようや)くまともな声が出せるようになった。

あの時、声を出せる幸せに涙が出た。




そうか……。

あの頃みたいに、ちょっと何処かに行ってみようかな。




私はお父様とお母様に、少し王都を離れたいとお願いをした。

初めは渋っていたけれど、領地のレスロエンドならと許してくださった。





※クリスが前世の桐生里奈の時に院長秘書をしていたとある医療法人は、拙作『うさみみのなみだ』に出てくる瀬田川病院です。

パワハラ院長は瀬田川、我が儘一人娘は百合奈です。

吸収した大きな医療法人は、流青の伯父の乾総合病院です。

気になるお方は、よろしければ『うさみみのなみだ』をお読みくださいませ。(桐生里奈は全く出てきませんが、、、)



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どうぞよろしくお願いいたします。



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