(117)リリアンヌ王女の決意(5)
大国ブラーム国は、言葉通り本当に大国だった。
我がマキシム国の何倍もある国土は広く、主要な街はマキシム国の王都の様に栄えていた。
建物も道も整備され、人々の活気が溢れているこの大国には到底勝てないと思った。
ブラーム国ではとても歓迎して頂いた。
国王陛下も王妃殿下も、サイファー王太子殿下も、急な訪問にもかかわらず丁重にもてなしてくださった。
ブラーム国の王室の方々の光輝く美貌とオーラに圧倒された。
この国は全てが違い過ぎる。
我がマキシム国は、この大国ブラーム国とのつながりを決して絶ってはならないと思った。
滞在中アルフォンス様はいつも傍にいて私をエスコートしてくださり、本当に幸せだった。
たとえ、仮の婚約だとしても。
ごく稀に見せてくださる笑顔を失いたくなかった。
でも、気付いてしまった。
アルフォンス様の心には、私ではない、
別の女性がいることを。
アルフォンス様はその方を見る時、
見たこともない熱い眼差しでその方を見つめている。
私にその眼差しを向けてくださったことは、一度も無い。
アルフォンス様はその方を見た時、
私をエスコートしている腕に少し力が入る。
男性にエスコートをされているその方を、睨むように見つめていた。
アルフォンス様はその方の横を通り過ぎる時、
少し下げた目線をそちらに向け、その方が遠くなるまで全ての意識をその方に向けていた。
アルフォンス様はその方の事を想った時、
見たことがない微笑みを浮かべていた。
衝撃だった。
あんなに慈しみが込もった笑顔を向けられた事は、一度も無い。
私に向けてくださる笑顔には、心が無かった。
アルフォンス様がその方の元に行ってしまったらどうしよう。
不安で怖くて仕方がない。
心が無い笑顔でも、傍にいられたらそれでいい。
もう、アルフォンス様がいない未来なんて考えられない。
私はどうしても聞きたくて、
勇気を出してアルフォンス様に尋ねてみた。
その方の事を。
「………アルフォンス様。クリスティーナ様はお美しいだけではなく、大変聡明でいらっしゃるのですね?」
「………そのようですね」
「………アルフォンス様はクリスティーナ様と………お知り合いでいらっしゃるのですか?」
「………ええ。少し」
「………さようでございますか。………まだ14歳であの様に大変美しく、知的な御令嬢でしたら、それは皆様、ほおってはおかれないですわね………」
「………」
「サイファー王太子殿下も、とても嬉しそうに誉めておられましたね」
「………」
「国王陛下も王妃殿下も、大変気に入っておられるようで………。
私もサイファー王太子殿下とクリスティーナ様は、とてもお似合いだと思いますわ」
「………」
「………アルフォンス様は、どの様に……思われますか?」
「………他人の事は、よくわかりません」
「!………」
「自分はまだまだ未熟者で………自分の事で手一杯ですので」
「アルフォンス様……………」
アルフォンス様は、何も答えてはくださらなかった。
けれど、それが本心の表れだと思った。
アルフォンス様は本心を………あの方のことを隠している。
アルフォンス様の心の中には、
クリスティーナ様がいる。
それでも私は、今あるこの夢のような幸せを手離すことはもうできない。
やっと手に入れた私の大切な場所。
誰にも奪われる訳にはいかない。
絶対に、諦めない。
※お読み頂きましてありがとうございます!
この回でリリアンヌ王女編は一旦終わりです。
予定よりかなりドロドロした感じになってしまいました。
怖いのが苦手なお方、申し訳ございません!
次回からはクリスティーナ編に戻ります。
不定期ですが、どうぞお楽しみに!
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