(114)リリアンヌ王女の決意(2)
歓迎晩餐会の後、夜遅くに珍しくお父様から呼び出しがあった。
呼び出されたお父様の執務室には、お父様とジョアンナお姉様と私、お父様の後ろに控えているルベルテ宰相の四人がいた。
お父様の話に、私は驚愕した。
「────そなた達どちらかと、縁談話を進めようと思っている。
相手はブラーム国の現ロッシュ子爵、アルフォンス・デ・フレデリーグ殿だ」
「!?」
「まあっ!お父様!素敵ですわ!!
ロッシュ子爵といえば、次のフレデリーグ公爵になられるあの御方ですわよね?
ブラーム国王陛下の後ろ楯も素晴らしいですし、お見かけもとても素敵でしたわ………ダンスもお上手でしたし、私の夫として、未来のマキシム王に相応しい御方ですわね!
もちろん、私が妻になって差し上げますわ!」
「っ!………」
いつものようにジョアンナお姉様は、はっきりと自分がこの縁談を受けると言った。
アルフォンス様との縁組のお話…………。
あの、素敵な御方と結婚できるなんて…………。
あのアルフォンス様の妻になれる………そんな夢のようなことが!!
…………でも。
このままでは、ジョアンナお姉様がアルフォンス様の妻に……なる?
………嫌………嫌だ。
そんなの、絶対に、「────嫌っ!!」
思わず大声で叫んでいた。
お父様もジョアンナお姉様も、お父様の側近のルベルテ宰相も、一斉に私を見た。
大人しい私が突然大声で叫んだ事に、皆が目を見開き驚いている。
「リ、リリアンヌ、どうした?」
「────お父様……私も……いえ、私を、此度の縁組に、お願いいたします!」
「な、なんですって!?」
「………リリアンヌ。そなたはロッシュ子爵との縁組を望んでいるのか?」
「………はい。是非、是非にお願いいたします。お父様、私は、ロッシュ子爵様の妻に、なりとうございます。どうか、どうか………」
震える両手を胸の前で握りしめ、渾身の勇気を振り絞ってお父様に懇願した。
恐怖で震えながらもお姉様に逆らい、お父様に必死に伝えた。
「黙りなさいっ!リリアンヌ!この縁組は私が受けるのよっ!あなたは引っ込んでなさいっ!!」
ガッ!!!
「痛っ!!」
ジョアンナお姉様は怒りの形相で私に近付き、私の肩を思い切り強く押した。
私は肩に受けた強い力と痛みで座っていた椅子から落ち、その場にしゃがみこんだ。
「うっ…………」
「リリアンヌっ!大丈夫か!?」
掛け寄って来てくださったお父様に支えられた。
私は突然の事に驚き、肩の痛みに耐えながら顔を上げた。
こんなに近くでお父様を見た記憶は無かった。
ジョアンナお姉様は目を見開き恐ろしい表情で更に言葉をぶつけてきた。
「撤回しなさいっ!辞退すると言いなさいよっ!リリアンヌっ!早くっ!」
「止めないかっ!ジョアンナ!!」
「お父様!?きゃっ!痛いっ!!」
暴れるジョアンナお姉様の両後ろ手を元軍人のルベルテ宰相が掴み、何かで縛っていた。
「な、何をするのルベルテっ!い、痛いっ!離しなさいっ!」
「黙りなさい、ジョアンナ。妹を突き飛ばすなど、何たることだ!
ルベルテ、そのままジョアンナを掴まえておいてくれ」
「御意」
「お父様っ!!」
赤髪を振り乱しながら暴れるジョアンナお姉様が怖くて、私は下を向いた。
刷り込まれているお姉様への恐怖で、身体の震えが止まらない。
今まで私の全てをジョアンナお姉様の言うとおりに差し出してきた。
けれども、今回は絶対に撤回などしたくはない。
アルフォンス様は、絶対にお姉様に奪われたくない!
アルフォンス様だけは、絶対に諦めない!
震える私の身体を支えたままのお父様に、再度静かに問われた。
「リリアンヌ、そなた、本気であるな?」
「……はい、お父様。お願いいたします。他は何も望みません。どうか私を、ロッシュ子爵様との縁組に……」
「わかった。エルネストにはリリアンヌとの縁組を申し入れる。だが、もし、ロッシュ子爵がジョアンナを希望したらその時は」
「はい………その時は諦めます、お父様。………私はお父様とロッシュ子爵様のご意思に従います」
「今すぐ諦めなさいよっ!!平凡で暗くて美しくもないあなたなんて、あの御方には似合わないわっ!図々しいっ!下がりなさいっ!!」
「黙れ!ジョアンナ!!」
「っ!お父様!……ひ、ひどいですわ!何故リリアンヌの肩を持つのですかっ!?」
「何が酷いんだ?何もしていない妹を殴り罵るお前の方がよっぽど酷いではないかっ!」
「お父様っ!!」
「………陛下、今、お話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ルベルテ………許可する」
ジョアンナお姉様の後ろでルベルテ宰相が話し出した。
とても冷たい目でお姉様を見下ろしていた。
「先日お話致しました、ジョアンナ王女様の件の御報告でございます」
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