(112)◇ 諦めない (アルフォンス視点)(6)
───陛下はやはり、陛下だった。
あの時。
マキシム国で『シン国王からの申し出を受けたら、お前の想い人に俺は手を出さない』と、自分に宣言をした陛下。
確かに今のところはまだ、陛下は直接クリスに手は出していない。
だが、クリスの事を相当気に入っている。
聡明で美しく心の優しいクリスは、未来の王妃に相応しい。
貴族社会に於いて王妃の実家としては低く見られるであろうラファイエリ伯爵家の家格など、全く気にも掛けていないだろう。
陛下は、真に力の有る者を好む。
驚く程の知識と常識と発想を持つ少女を、陛下が見過ごすわけがない。
王妃殿下も陛下と同じ気持ちであろう。
更にサイのクリスへの気持ちを知った上で、陛下は自分との約束通り自らの手は使わずに、クリスを王室に引き入れようと考えているのだろう。
そうはさせない。
あの碧の宝石を見つけたのは自分だ。
花が開くまで今まで必死に耐えて、何年も待ち続けて来た。
クリスを妻にするのは自分であり、
クリスは俺のものだ。
たとえ相手が王であっても渡さない。
こんな茶番、一刻も早く終わらさなければ。
「────今年は大変残念ではございますが、姉の結婚式の準備もございますので………来年はぜひ、満月祭を見てみたいと思います」
リリアンヌ王女が自分の目を見ながらそう言った。
自分は黙って小さく微笑んだ。
リリアンヌ王女も嬉しそうに微笑む。
「そうだね。毎年あるんだから、リリアンヌ王女は来年アルとゆっくり見たら良いよ」
「はい……ありがとうございます」
「そうね、今年は残念だけど……そうだわ!リリアンヌ王女の帰国前にお茶会を開いて、クリスティーナを招待しましょう!
リリアンヌ王女もマキシム語で、お歳の近い令嬢とお話を楽しみたいでしょう?」
「!………」
「よろしいのですか?私、ラファイエリ伯爵令嬢とはもう少しお話をさせていただきたいと思っていましたので、とても嬉しいです………王妃殿下、ぜひお願いいたします」
「……」
「ええ!よろしくてよ。明日にでも早速使いの者を送りましょう。エレンにも必ず来てもらいましょうね。ああ、二人に早く会いたいわ!」
「決まりだね!楽しみだなあ」
「あら、珍しいこと。サイも参加するの?貴方の苦手なお茶会よ?」
「クリスティーナが来るならぜひ!公務の予定があってもずらします」
「なら、私も」
「陛下はだめですわよ。陛下は来週、大事な視察の予定がみっちりと入っているじゃありませんか」
「くっ!残念だ!」
「………」
穏やかな雰囲気ですすむ晩餐の中、
自分は茶会に参加するであろうクリスの事を考えていた。
王妃の前で必死で緊張を隠しながら、澄ました顔で茶を飲むクリスの姿を想像すると、つい、口元が緩んでしまった。
向かいに座るリリアンヌ王女が自分のその表情を見て内心驚き、
笑顔の下で強い恐れを抱いていたことなど知る由もなかった。
※これにて、一旦アルフォンス編はおしまいです。
いかがでしたか?イケメンアルフォンスの筈が、どんどんヘタレていくー(笑)
次話から不定期になりますが、リリアンヌ王女編をお送りします。
どうぞお楽しみに!
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