(105)国王陛下と王妃殿下(4)
「恐れながら……国王陛下、王妃殿下、ひとつお尋ね致したい旨がございます。申し上げてもよろしゅうございますか?」
「ああ、もちろん良いとも。何かな?」
「ありがとうございます。………恐れながら、間違っていましたら大変申し訳ございません。………もしや、国王陛下は以前王宮の美術品を説明してくださったダ、ダレイル様、王妃殿下は王宮のお庭でお茶を御一緒させていただいたリー様、でいらっしゃいますか?」
「おお!ご名答!よくわかったね!あの変装をすぐに見破ったなんて、クリスティーナはなかなかすごいな!」
「いやだわ!もうバレちゃったのね!あの茶色のカツラなら変装は完璧だと思っていたのに!うふふ」
「俺なんか、爺さんに扮したのになあ!」
神々しい国王陛下と王妃殿下が、お二人で顔を見合わせてものすごく楽しそうに笑っている。
国王陛下は王妃殿下にぴったりと寄り添い、王妃殿下の細くくびれた腰にしっかりと手を回していた。
仲良しご夫婦なんだなあ。すてきだなあ。国王陛下はプライベートでは御自身の事を俺って言われるのね……キラッキラだけれどワイルドっていいなあ。
キラッキラな国王陛下が、ダレイル様だっただなんて……。
見た目も声も完全におじいさんだった。
ただ、ダレイル様もリー様も、瞳が国王陛下と王妃殿下と同じだった。
なんて、ぼやーっと考えていたら、いつの間にか隣に座っていたサイファー王太子殿下に頬を指でつつかれた!びっくりした!
なんとなく、見つめられる視線がこ、怖い。
「っ!?お、王太子殿下!?」
「ああ、ごめん。ふっくらしたほっぺが余りにも可愛くて、つい」
げっ!私、ほっぺた膨らんでた!?
国王陛下と王妃殿下の前でそんなブサイクな顔をお見せしていたなんて、なんたること!
「も、申し訳ございません!色々と驚く事ばかりで取り乱してしまいました」
「驚いた?おお!それなら重畳!実はね、ダレイル爺さんの他にも、随分前からクリスティーナに会っているんだよ?わかるかな?」
「っ!?以前から、でございますか……?」
『御令嬢、今日も馬にニンジンをあげますかい?』
「………あっ!厩舎のルネさん!?……はっ!」
「あっはっは!ご名答!」
「た、大変失礼いたしました、国王陛下」
立て続けに心底驚くことばかりで、つい普段の口調が出てしまった。
私は慌てて国王陛下に頭を下げた。
やばい!動揺が隠せない!
「父上、クリスティーナをからかうのはその辺りでお止めください。ごめんね、クリスティーナ。父上も母上も変装して人を驚かせる事が大好きなんだ。本当に困った趣味なんだ。どうか許してね」
「そ、そんな、許すだなんて、とんでもないことでございます。
大変驚きましたが、ダレイル様にもルネ様にも、リー様にもとても良くしていただきました。その節は本当にありがとうございました」
本当にそうだった。
幼い頃から両親と共に月2で王宮に来ていた私は、殆んど王宮図書館に入り浸っていたけれど、動物が大好きな私は時折こそっと厩舎に忍び込んでは王宮の立派な馬達を眺めて楽しんでいた。
溺愛される実家では馬は危ないからと厩舎に近付く事さえ禁止されていたから、本当に楽しかった。
そこで声を掛けてくださったのが馬丁のルネさんで、未だ幼い私に優しくしていただいた。
馬のおやつのニンジンを一緒にあげさせて頂いたり、少しだけブラッシングのお手伝いもさせていただいた。
馬達と触れ合えて本当に楽しくて、どの馬も本当に可愛くて、今でも馬は特に好きだ。
まさかルネさんと先日王宮の美術館でお世話になったダレイル様が国王陛下で、三人が同一人物とは!!今でも信じられない。
「こちらこそだよ、クリスティーナ」
顔を上げると、お二方が優しい眼差しでこちらを見つめていた。




