(101)伯爵令嬢としての意地
とにかく、必死に歩いた。
自分勝手な醜い気持ちに心が支配されていくのを止められなかった。
悲しい、辛い、酷い、どす黒い嫉妬心。
それでも伯爵令嬢として鍛えてきた外側の表情には、そんな気持ちを微塵にも出さなかった。
ある意味、意地みたいなものだった。
私はサイファー王太子殿下から頂いた、この碧色ドレスの御礼をきちんとお伝えしていなかった事を今更ながら思い出し、殿下に話し掛けた。
何故私のお茶会の予定をご存知だったのかとか、何故私にドレスをくださったのか等は敢えて自分からは聞かずにスルーすることにした。
「サイファー王太子殿下。御礼を申し上げますのが遅くなりまして、大変失礼いたしました」
「ん?なあに?何のお礼かな?」
「この、素晴らしいドレスをお送り頂きまして、ありがとうございました」
「……うん。喜んでもらえた、かな?」
「……はい。もちろんでございます。大変驚きましたが、嬉しかったです。ですが……」
「ですが?」
「今後はこの様な豪華な贈り物はご勘弁頂きたくて……」
「……迷惑、だったかな」
「………未だデビューもしていない、一伯爵令嬢のわたくしには、殿下からの贈り物は畏れ多くて……。大変恐縮しております」
「………僕の、目の色を」
「?」
「………僕と同じ、君の目の色でもある、その碧色のドレス。
そのドレスを着ているクリスティーナを、どうしても見てみたかったんだ」
「!………」
「ごめんね、ワガママで。
本当に美しいよ、クリスティーナ。想像以上だ。誰よりも綺麗だ」
ん?え?あ、あれ?
ちょ、ちょ、ちょっと!なんかヤバいかも!?
空気感がピンク色になってきた!?
ちょっと!す、ストップー!!
慌てて咄嗟に離れようとしたら、殿下の腕に力が入って組んでる私の手がきつく挟まれて離れられなくなった!
何だか顔もかなり近い気がする!
いきなりの恐怖で殿下の方を見られない。
ど、どうしよう。横目でチラッと見るのが精一杯だ。
え?もしかして、み、耳に殿下の唇があた、当たるー!?
「王太子殿下、着きました」
「チッ」
え?
チッ??
舌打ち?え??
危なかった。
もう少しで人前で過剰なスキンシップを取られるところだった。
陽キャライケメンセクハラ王太子殿下。ほんと要注意だ。
ちょっとお父様!……ダメだ。
緊張MAXで魂が抜けてる。
ほぼ白目で色男が台無しだ。
さっきの殿下の顔近セクハラも、きっと見ていないだろう。
謁見の間に到着した事をナイスタイミングで知らせてくださった、執事さんに心から感謝!
その執事さんに案内され緊張しながら部屋の中に入ると、前室のような部屋で数人の侍女達が頭を下げて並んでいた。
更に奥のドアまで進み、今度はサイファー王太子殿下がそのドアをノックした。
「サイファーです。入ります」
「ああ、入れ」
「!…………」




