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最強兄妹はじめました ~俺と義妹とVRMMO~  作者: 北橋トーマ
第1章 ゲーマー兄妹はじめました
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第6話 激突キングゴブリン

「ギギィイィィーー!!」


 そんなお世辞にも綺麗とは言えない鳴き声と共に、ゴブリンの内の一体が特攻を仕掛けてきた。手に持っているのは錆びついた剣。とても何かを切れるようには見えないが、ここはゲーム。当たれば何らかのダメージがあると見ていいだろう。


「あれ? 変わった?」


 俺が思わずそんな声を漏らしてしまったのは、目に映る景色が突如として変わったからだ。


 ゴブリンと遭遇する前までは視界に移っているのは目の前の景色と、キャラネームと簡易マップくらいの情報だった。

 けれど今はそれに加えて、パーティーメンバーのHP、ゴブリンのHP、使用可能なコマンドと自分が持っている武器の耐久値などが表示された。まあその内武器の耐久値は、壊れないようになっている初期装備においては必要無い情報だが。


 とにかく、システムが戦闘用に切り替わったのは確かだ。


「じゃあもう戦ってOKってことね」


 そうと分かれば話は早い。初めての戦闘だから全部倒せるかどうかは微妙だけど、死なないように立ち回ることはできるはず。


 さっそく剣を抜いてゴブリンの攻撃を弾く。更に隙を見せたところに追加で数発斬撃を加える。狙いは効き目が良さそうな首の辺り。

 しかしながらゴブリンのHPゲージは2割も減っていなかった。


「あれ?」

「いったん代わって!」


 後ろの方から鋭い声が飛ぶ。

 俺はそれに振り向くまでも無く、敵の居ない場所目掛けて飛び退いた。

 なんとなく、カノンさんが後ろから来ているのが分かっていたから。


「コマンド発動、《スラッシュ》!」


 さっきまで俺が対峙していたゴブリンにカノンさんが斬りかかる。ただしその威力は俺の攻撃とは比べものにならない。ゴブリンのHPを一気にレッドゾーン――つまり2割以下まで削り取った。

 これがコマンドを使った攻撃か、そうじゃない攻撃かの違いということだろう。


「今使えるコマンドは視界に見えてる5枚だけ! その内のどれかを念じるか読み上げるかでコマンドは使えるから!」


 言いながらカノンさんが通常攻撃でゴブリンを倒す。

 しかし一息つくような暇は無い。まだ敵は居るのだから。


「分かった!」

「それとコマンドカードに意識を向けたら効果は確認できる! まあモンスターの相手をしながらだと難しいと思うけど、そこは頑張って!」


 飛びかかってきたゴブリンを蹴りでいなしながらの補足説明だった。

 これ以上戦いながら説明させるのはかなりの負担を強いることになってしまう。

 その負担を減らすためにすべきことはただ1つ。俺も戦うことだ。


 今の説明で戦闘のやり方はだいたい分かった。あとは実践しながら慣れるのみ。


「ギギッ!」


 別のゴブリンがこっちに突っ込んでくる。今度のゴブリンは手斧を武器にしている。ゴブリンと一言で言っても細かい個体差があるらしい。

 とりあえずその攻撃は受け流して、言われたとおりに視界の端に表示されている5枚のカードに意識を向ける。


 今使えるのは《エアストライク》、《オーバービート》、《スラッシュ》、《ヒートスラスト》、《ハイダッシュ》。けれど問題はこれらがどんな技なのか分からないということだ。

 詳細をすぐには確認できない以上は名前だけで大体の効果を推測するか、どうにかして隙を作り出すしか無い。


「とりあえずこれで!」


 ゴブリンの手斧目掛けて剣を振るう。

 2つの武器がぶつかり合って高音を鳴らすが、気にせずにゴブリンの手を狙う。


「ギギッ!?」


 俺の狙いが武器だと気付いたゴブリンは手斧を庇うために攻撃から防御へ転じた。

 おかげでコマンドカード1枚くらいは詳細を見ることができる。

 俺は目についたコマンド、《エアストライク》に意識を集中させた。すると視界の中に説明文が浮かびあがった。


「これなら使える! 《エアストライク》!」


 急ぎで読み終えると同時に早速発動。

 《エアストライク》は目の前の敵に強烈な跳び蹴りを喰らわせる攻撃技。俺の身体はシステムのサポートで宙に浮かび上がり、ゴブリンを勢いよく蹴り飛ばす。

 けれどこの一撃だけでは倒しきれない。だから着地と同時に急接近して追撃を入れる。


「《スラッシュ》!」


 この技だけはさっき見せて貰ったからわざわざ確認しなくてもどんな攻撃か分かる。

 最初に放った物よりも格段に強力な斬撃がゴブリンのHPを削りきり、その存在を消滅させた。


「アキト君後ろ!」


 1匹倒しても安心している余裕は無い。

 カノンさんが言ったように後ろからもう1匹のゴブリンが迫っていた。

今度のゴブリンの武器は錆びた剣。それを俺の頭に振り下ろそうと高く跳び上がっていた。

 けれどそれを易々と受ける訳にはいかない。


「《オーバービート》!」


 今度のコマンドは《スラッシュ》を使っている間に確認しておいたものだ。

 コマンドの使用中はシステムが身体を動かしてくれるのだから、こういう芸当もできる。


 そして《オーバービート》は腕力を加速強化させてパンチ攻撃を放つコマンド。勢いよく向かってきたゴブリンにぶつけるだけで、かなりのダメージを与えられる。

 剣をいったん逆手持ちで左に持ち、空いた右手で拳を振るう。

 拳が当たったのはゴブリンの顔面。まさしく期待以上の威力を出せたと言っていいだろう。


「あとはこれで!」


 ゴブリンのHPは3割を切っている。その上パンチの衝撃からかグロッキー状態だ。残りを削るのは剣による通常攻撃でいい。

 再び剣を利き手である右手に持ち替え、喉笛を5回引き裂いた。


 その攻撃は見積もった通りゴブリンのHPを全て削り取った。


「次は、と」


 まだ戦闘は終わらない。

 今のところ倒したゴブリンは合計3体。あと1体とボスが残っている。

 そう思って振り返ったが、カノンさんが残る最後のゴブリンを倒したところだった。


「よし、残りはあの大きいのだけだ!」

「OK、あとは2人で一緒に――え? 1人で2体倒したの!?」

「いやそうだけど……見てなかったの?」

「戦闘中にそこまでの余裕は無いって」

「それもそっか」


 俺の言葉にカノンさんはどこか呆れた様子だった。

 その態度に不満が無いわけでは無いが、雑談をしていられるのもこの辺りが限界だ。


「グガッ、グギギャァァァァ!!」


 それはキングゴブリンの怒りの咆哮だった。

 自分が治めていた集落を焼かれた上に、偶然鉢合わせた俺たちに仲間を全員倒された。怒りを覚えて当然だ。

 しかしこっちだってそう易々とやられる訳にもいかない。負ければデスペナルティーによって失われるものがあるし、何より俺は負けず嫌いなのだ。


「悪いけど、お前に仇は討たせない」


 キングゴブリンが鬼のような形相で向かってきたのはその時だった。

 今までやり合っていたゴブリンよりもその動きは洗練されている。素早く、そして力強い。


 けれど反応できない訳じゃ無い。


槍による突き攻撃を命中の直前で身体を反らしてかわす。

そして突き出された槍を脇に挟みこむことで無力化。これでキングゴブリンの一つしか無い武器は奪った。

 ……そう思ったのだが。


「アキト君! それはヤバい!!」

「え? やばいって――」


 言葉を言い切る暇も無かった。あろうことかキングゴブリンは槍を掴んだ俺もろとも槍を振り回し始めた。

 その圧倒的な遠心力が俺の身体を軽々と吹き飛ばした。しかも、どうやったのか俺の身体は狙ったように硬そうな木の幹に激突しようとしている。こんな経験、人生でも初めてだ。


「だったら、これで!」


 今のところダメージは入っていないが、流石にアレにぶつかったらHPをごっそり持って行かれる。初ダメージが木にぶつかったは嫌すぎるので、空中で身体を反転させて木の幹に足が着くように向きを変える。


「倍にして返す!」


 投げられた勢いも利用して、木の幹を思い切り蹴る。

 この突然の切り返しならキングゴブリンも反応できないはず。狙い通りに俺からの反撃を予測していなかったキングゴブリンの腹をすれ違い様に切り裂いた。

 とはいえ、通常攻撃だからそんなにダメージの通りは良くない。


「でも、隙は作った」


 さっきから薄々感じていたことだが、このゴブリン達は直前に自分が攻撃を受けた相手に執着する癖がある。

 今もキングゴブリンは俺の方しか見ていない。こっちにはもう1人、仲間が居るというのに。

「《コルドソード》!」


 キングゴブリンの背後からカノンさんが斬りかかった。その刀身が青白く輝いているのは今使ったコマンドの効果だろう。

 どんな効果なのかは今は分からないが、この局面で使っただけあって強力なものというのは疑わなくていいだろう。


「《スラッシュ》!」


 俺も俺でリザーブに補充されたコマンドカードを1枚使用する。この攻撃、効果は強化された斬撃を出すだけとシンプルなものだが、技の発動までが早いから使い勝手が良い。


「一旦離れて!」

「了解!」


 指示された通りにバックステップでキングゴブリンから離れる。

 それと同時にカノンさんも俺の隣に並び立った。

 2人でまとまっていたら一緒に倒されるのでは? なんてことを思ったが、キングゴブリンの様子が少しおかしい。

 なんというか、動きがかなり鈍くなっていたのだ。


「今のコルドソードは冷気によって敵の動きを鈍らせる技。見ての通り、今のあいつは俊敏には動けない」

「つまり?」

「今がトドメのチャンスってわけ。でも私はアイツの弱点の心臓を貫けるコマンドがリザーブに無い。そっちは?」

「ちょっと待って…………行けそうなのが1つある」

「なら決まりね。私が一発仕掛けるからその後に続いてヤツの心臓を狙って」


 作戦は決まった。あとは力の限り実行するのみ。


「《スパークソード》!」

「《ヒートスラスト》!」


 カノンさんの剣が火花を散らす。

 そのままキングゴブリンの懐に入り込み、横一文字に斬りつけた。


 そこにすかさず俺も飛び込む。

 使用したコマンド、《ヒートスラスト》は高熱を帯びた刀身で突きを繰り出す必殺技。

 完全に意識をカノンさんに向けたキングゴブリンの身体へと、赤く染まった剣を突き刺す。

 狙いは当然、打ち合わせ通りの心臓。


「グギャッッッッ」

「ハアッ――!」


 キングゴブリンのHPがしっかり0になったのを確認して剣を引き抜く。

 そしてキングゴブリンは、ほかのゴブリンとは違う派手なエフェクトと共に爆発し、光の粒子となって消えていった。


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