第13話 もう1人の仲間
俺とカノンさんとコトネちゃん。
この3人の即席チームで森の奥地に居るというコトネちゃんの仲間に会いに行くことになった。
ちなみにまだパーティー申請はしていない。というかできない。ほとんどのゲームでそうであるように、同時に2つ以上のパーティーには入れないからだ。
だからどうなるにしろコトネちゃんの仲間と話さない限りは動くことはできない。
「でもこれなんて説明したらええんやろ?」
「正直に言えば全部解決すると思うけど」
「包み隠さない方がややこしくなるケースでしょ今日のやつはどう考えても」
そんな風に雑談しながら歩いて行く。やがて俺とカノンさんがスライムと激闘を繰り広げた場所に着く。
倒し漏らしはかなりの数居たはずなのだが、今はそれが嘘だったかのようにスライムは1匹も居ない。
どこかに行ったのか、それとも誰かに倒されたのか、今は不明だがとりあえず消えたことは覚えておいた方が良いだろう。
「そういえばアンタらはこんな所で何しとったん? 散歩ってことは無いやろ?」
「レベリングのためのキャンプしてたのよ。スライムのせいで何かする前に中断になったけど」
「じゃあテント取りにいかなあかんやん。段取り悪いなあ……」
「レスバなら乗らないわよ」
「誘っても無いわ!」
そういえばテントも放置したままだ。本当はコトネちゃんの言う通り途中で回収した方が効率はいいのだが、まだ断られる可能性も残っていることを考えると現時点での完全撤収は早急であるというのが俺とカノンさんの考えだった。
「ねえ、アナタの仲間ってどういう人?」
「うーん…………スゴい人やね」
「語彙力どこに行ったの?」
「スゴい人かあ……何か緊張してきたな」
「真に受けなくていいから!」
1人増えると急に騒がしくなった。
男女1人ずつよりも、バランスが崩れた方が話が進むのはよくあることだが、コトネちゃんはとにかく元気なので余計に場の雰囲気がよくなった。
このコトネちゃんの仲間とは一体どんな人物なのか。期待と不安が俺の中で渦巻く。
そんな俺の胸中のざわめきが収まるのを待つこと無く、ついに対面の時が来た。
「あ、居った居った。おーい、姉ちゃーん!!」
コトネちゃんはその人物の存在を確認するなり、手を大きく振って呼びかけた。
地面にしゃがみ込んで何かを注意深く見ているのは鮮やかな緑色の髪を持った女性。
ただしカノンさんやコトネちゃんと違って、少女というよりは美女と呼ぶべき風格が漂っている。
長く伸ばした髪はストレートで、その顔に幼さが無く、代わりに余裕のある穏やかさを醸し出しているのも大人っぽく見える理由の1つなのかもしれない。
「あら、おかえりなさいコトネちゃん。……そちらの方々は?」
「紹介するわ。こっちがカノン。そんでこっちがアキトさんや」
「指ささないでよ。あ、カノンと言います」
「アキトです。よろしくお願いします」
「これはご丁寧にありがとうございます。私はヒビキ、そこのコトネのお姉ちゃんです」
ヒビキさんは立ち上がると、深々と頭を下げた。そのままの姿勢で名乗っただけの俺たちと比べるまでも無く礼儀正しい。
こういうのは見習うべきだろう。
「藪から棒に失礼なのですが、カノンさんというのはあのカノンさんでよろしいのでしょうか?」
「あの……ってどの?」
「βテストでコトネちゃんと仲良くしていただいたあのカノンさん」
「あー……仲良く?」
カノンさんの顔には疑問の色がありありと浮かんでいるが、構うこと無くヒビキさんはカノンさんの手を取った。
「ええ。コトネちゃん、いつも楽しそうにアナタのことを話してくれましたから。あんなに楽しそうに他人のことを話してくれたのは……そう、中学のは――」
「ちょ、ちょっと待ったコール!」
「あれ? どうしたんですかコトネちゃん」
「いや、今のはあかんって。それは恥ずかしいから言うたらあかんやつ!」
「そこまで言うならやめるけど……そんなに怒鳴ること無いじゃん」
「ウチにはあんねん! ……あ、2人とも今のはオフレコやで。例の話進めたかったらな」
「「あ、はい」」
あまりの鬼気迫る表情に、俺たちは揃ってそんな返事をした。
脅迫してくるくらいだから、彼女にとってはよほど弄られたくないネタらしい。それだけに気になるけど。
「コトネちゃん、例の話って?」
「実はこの2人から提案があってな…………誰が話すんこれ?」
「コトネちゃんでいいんじゃ無い? この中で一番話すの得意そうだし」
「私も賛成です。ヒビキさんに面識あるのアナタだけですし。頼りにしてます」
「そ、そうか? じゃあウチがするわ」
「…………チョロッ」
最後にカノンさんが何かをボソッと言ったのはたぶん気のせい。
ちなみに言い出しっぺの俺が名乗り出なかったのは、ここに来るまで散々『アキトさんが話すとややこしくなる可能性がある』と言われ続けたから。円満な解決のためにも、ここは大人しく引き下がった。
やがてコトネちゃんによるヒビキさんへの説明が終わる。何だかんだで協力的なあたり、根はいい子に違い無さそうだ。
そして全部を理解したヒビキさんが一言。
「うん。いいんじゃ無い?」
「即答やん…………もうちょい何か無いん?」
「何もないよ。いいアイディアだと思うし。それに楽しそうでしょ、4人旅」
「いやまあそうかもしれんけど。まあええわ、姉ちゃんが良いならって言って連れてきたしもう文句は無い」
「それじゃあ決まりね」
ヒビキさんはコトネちゃんの頭を軽く撫でてからこちらを振り向いた。
……なんというか、スキンシップが恐ろしいほどに自然でびっくりする。ああいうのは例え同性が相手でも俺には真似できない。
「2人の提案受けさせてもらいます。せっかくのVRMMO、家族とばかり触れ合っていても仕方ありませんし、私も仲間が欲しいと思っていたんです」
「家族とばかりってことはやっぱりコトネとあなたは……姉妹になるんですか?」
「ええそうです。歳が少し離れていやり性格も違うとよく言われますけど、ちゃんと家族です」
「それじゃあヒビキさん達も俺たちと一緒になるんだ」
「一緒というのは? もしかしてお2人も兄妹?」
「実はそうなんです」
カノンさんがはにかみながら言った。
俺も正直、家族なんですと面と向かって堂々と言える自信はまだ無い。
目の前の2人みたいに『家族だからこそ』のような距離感は俺たちにはまだ無いし、それにこの2人を見ていると何かが足りない気がする。それが何かはハッキリしないけど。
「何やカノン、お前兄貴居るんや。なんか意外やったな」
「まあまあ良いでしょ。こういうのは詮索するようなものでも無いし。それはそうとパーティー申請とフレンド登録を済ませませんか? 善は急げと言いますし」
「そうですね! それじゃあ早速メニューを開いて――」
メニューコマンドを開いてパーティー申請をコトネちゃんとヒビキさんに送る。
その申請はすぐに2人によって受理され、俺たちはゲームシステムによって正式にパーティーとして認められることになった。
ちなみにABVRにおけるパーティーの最大人数は7人。
パーティーを組むメリットはパーティーメンバー間で念話と呼ばれる通信が可能になることと、戦闘で得た経験値がパーティーメンバー間に何割か振り分けられることらしい。
けどそれ以前に1つの集団にいるという意識は共に行動するならば必要なものになってくるはずだ。
「それじゃあとりあえずカイゼルスライムを倒すまで、このメンバーで張り切って行きましょう!」
「おー!」
拳を思い切り天に突き上げたのは俺とヒビキさんの年長者チーム。
「なんかこの温度感ついて行けないかもしれない」
「別についていかんでええやろ。私達もぼちぼちやればそれでええと思うで」
それを若干冷ややかに見守るのがコトネちゃんとカノンさんの年少チーム。
何はともあれ、この瞬間から2つの家族によるパーティーでの行動が幕を開けた。
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