魔巨人は気持ち悪い
ヒラ村を出発した俺達は村の少女ミリの案内でムストルの沼地にある大洞窟へと向かい森の中を進んでいた。
「それにしてもこの辺りは本当に色んな生き物がいるんだね」
「そうなんです。ムストルの沼地一体は王国の中でも有数の生き物の宝庫。私達も村の周りで採れる薬草や動物の肉、毛皮を売って暮らしているんです。でも魔巨人が大洞窟を住処にしてからは動物達も魔巨人を恐れて少なくなったみたいで、以前よりも捕れなくなって村の人達も生活が苦しくなってきてるんです……」
そうだったのか……。
どうりで村人達に元気がなかったわけだ。
俺はそれでも目の前を行きかう多くの動物達に視線を向けながらミリの話に耳を傾けていた。
少なくなったとはいえ、これだけ多くの動物が生息しているこの森は、ヒラ村にとっては切っても切れない場所なのだろう。
「……だが、以前からも魔巨人はいたのでは? 魔巨人は人間にとっては脅威な魔族だろうが、特別珍しい魔族ではないからな」
俺達の話を聞いていたヴェストニアが口を開くと、ミリはこちらに振り返らずに話を続ける。
「確かに魔巨人は以前からこの辺りにも生息していました。でも人間が被害にあうことは殆ど無かったんです。それはこの湿地帯には餌となる他の動物がたくさんいたので、人間を襲う必要がなかったからです」
「ではどうしてこのような事態になっているのだ?」
「それは大洞窟に住み着いた上位魔巨人のせいです」
上位魔巨人……。確か魔族の中に現れるという変異種。
奴らは総じて通常の魔族よりも知能も魔力も優れているってアーセム先生が言ってたっけ。
俺は竜騎士学園で教えられた事をミリの話で思い出す。
そして、これから初めて目にするであろう上位種に少しの興奮を覚えるのだった。
「ふむ。上位魔巨人か……。確かに奴らがいると、通常は群れることがない魔巨人が巨大な群れを作ることがあるからな。人間には脅威だろう」
「へぇ、お前よく知ってるんだな。いつものお前からはそんな真面目な言葉が出てくる何て想像できないぞ」
「な、何を!! ウィルバルト、私を誰だと思っているんじゃ!! あまりバカにするとどうなっても知らんぞ??」
「そうなるって言うんだ??」
「…………それはな、こうなるんじゃ!!」
ヴェストニアは立ち上がると、俺の頭をその小さな腕で何度もたたき始める。
しかし俺には少しのダメージも与えられず、ヴェストニアは次第に息を切らし、最後には大きく息を乱しながら頭の上に仰向けに倒れるのだった。
「フフフフッ、お二人は本当に仲が良いですね! 私、竜騎士様ってもっと怖い人たちなのかと思ってました」
「仲良いのかな? でも、竜騎士は皆怖い人ではないよ? どうしてそう思ったんだい?」
ミリは笑みを浮かべながら俺達を見つめていたが、その質問に途端に表情が暗くなった。
あれ、俺何かまずいことでも言ったかな??
「実は、以前にも竜騎士様が村に来たことがあったんです。でもその時の竜騎士様は邪魔だからという理由だけで村の一部を破壊して去っていきました。だから、ここまで事態が深刻になるまで村の人達も竜騎士様に依頼するのが遅れたというか」
ミリは俺のを見つめると、少し申し訳なさそうに笑みを浮かべながら答える。
それはたぶん竜騎士協会を追放された暗黒竜騎士だろうな。
竜騎士が悪く言われる際の大きな理由は彼らの行いが殆どだ。
暗黒竜騎士は王国ではお尋ね者。いづれ対峙することもあるかもしれない。
「でもウィルバルト様もヴェスタ様もお優しい方だったのですごく安心しました!」
「そうであろう! 私は竜一優しいと評判だからな!!」
神殺しが何言ってんだか。
俺はミリの言葉に満面の笑顔で答えるヴェストニアにいつものように大きく息を吐くと、森の中をさらに進んでいった。
「……竜騎士様、お静かに。見てくださいあそこが大洞窟です」
しばらく進み森が開けると、俺の前にムストルの沼地が現れ、そのすぐそばに大きく口をあける洞窟が目に入った。
俺がさらに目を凝らすと、その中へと多くの魔巨人が入っていくのが見て取れる。
あそこが大洞窟か……。確かにかなりの魔巨人がいるみたいだな。
10、いや20はいるか?? どっちにしろ大洞窟の入り口を見張る2体の魔巨人を倒さないと中へは入れそうもない。
「ミリ、大洞窟の入り口はあそこだけかい?」
「はい。あの大洞窟は奥に巨大な空間が広がっているのですが、そこで行き止まり。入り口も今見えるあそこだけです」
俺はミリの言葉を聞き考え込むと、肩に移動していたヴェストニアに視線を移した。
「ここは正面突破しかないか……」
「うむ。お前の考えている通りそれしか手がないだろうな。洞窟内を燃やせば簡単かもしれぬが、あの中には捕えられている人間がおるかもしれん。それにいくら他よりも知能があるといっても所詮は魔巨人。罠を張ったりはしておらんだろうからな」
おぉ……、なんか今日はこいつまともな事ばっかり言ってるな。
俺は笑い声を上げるヴェストニアに小さく笑みを浮かべると、再度ミリに視線を移した。
「それじゃあ俺達はあの大洞窟に向かうよ。君は危険だからここで身を隠していてくれ。夜になっても俺たちが戻ってこなかったときはすぐに村に戻るんだ。分かった?」
「…分かりました。竜騎士様。どうかご無事で!!」
俺はミリに笑みを浮かべると、身を隠しながらさらに大洞窟へと近づいていった。
「あぁー、俺も中で飯を食いたいなぁー」
「ああ、俺もだ。早く他の奴らに交代してもらいたいぜ」
おぉぉ。流石魔巨人と言うだけあってなかなかでかいな……。
さっきは気分が悪すぎてちゃんと見てなかったもんな。
洞窟の近くまで到着した俺は、目の前の2体の魔巨人の姿に少々的外れな感想が心に浮かぶ。
俺自身自覚はあるが俺には少し抜けたところがあり、屈強な兵士でさえ逃げ出すと言われる魔巨人の醜い姿を目の前にしても緊張をしていないのはむしろ長所ともいえるだろうな。
「……ヴェストニア。ここまで来たのはいいけどこれからどうする?」
「どうするも何も、正面から堂々と入ればいいだろう」
「それもそうか」
俺とヴェストニアはお互いの顔を見合うと同時に笑みを浮かべ、ゆっくりと大洞窟へと進み始めた。
当然2人の姿に気づいた見張りの魔巨人は声を上げ、こちらに向かってくる。
「何だお前は!! どっから来やがったんだ!!!」
「いや、それよりも人間の子供だ。少しデカいがまだまだ肉は柔らかいはずだぞ」
2体の魔巨人は俺の前まで来ると、不気味な笑みを浮かべ始め、その口からはよだれがこぼれ落ちる。
うわぁ、気持ち悪っ!!
「ウィルバルト、さっさと片付けてしまえ」
「そ、そうだな。えっと、確か魔巨人は火の魔法に弱かったから……、火弾」
ボシュッ!!!
俺から放たれた火弾は、魔力検査の時と同様に黒い稲妻を纏いながら一直線に2体の魔巨人に向かっていくと、命中した瞬間大爆発を起こした。
叫び声をあげのたうち回る魔巨人。その声は森中に響き渡る程だ。
「なぁ、これ絶対洞窟の中の奴らにも気づかれたよな?」
「うむ。そうだろうな。お前が火弾なんぞ使うからそうなるんじゃ。もっと他の魔法もあるというのに」
いやいやいや!! 俺が知ってる魔法の中じゃ最弱の火魔法なんですけど!?
お前の魔力のせいでこんな高威力魔法になってるんだろ??
はぁ……。 俺は小さくため息を付くと、火弾によって未だ燃えている無数の肉片となった魔巨人を避けながら、洞窟内へと進んでいくのであった。
「た、助け……」
俺達が洞窟の中を進むと大きな空間が現れたため、姿を隠しながら近づいていく。
大洞窟内では、捕えた人間や動物を魔巨人達が自分達の口の中へと放り込んでいた。
その中でも中央に座るひと際大きな個体が口を開く。
「ところでさっきの音は何だったんだ???」
「それなら見張りの奴らが暴れてるんじゃ……、ギャァァァァ!!!」
ドンッ!! 隣で食事を続けながら答える魔巨人の頭を、上位魔巨人が握りつぶすと、周りの魔巨人達は一斉に手を止めた。
「お前らは本当にバカなのか!? さっきのは魔法の攻撃音だ。とっとと見に行かねぇか!!」
『へ、へい!!』
しかし、魔巨人達がその言葉で一斉に立ち上がり洞窟の外へと走り出そうとした瞬間、出口に通じる道に俺とヴェストニアが姿を見せる。
「なんだお前らは!! 見張りの奴らは何をしてるんだ!!」
「ハハハハハ、たくさんおるの! 全員まとめて私達が蹴散らしてくれるわ。なぁ、ウィルバルト」
「……そ、そうですね」
俺はヴェストニアの興奮度合いに若干気持ち悪さを感じるも、狼狽える魔巨人達に更に近づいていく。
こうして俺の初任務である魔巨人討伐戦、その激闘?が始まるのであった。
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