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ムストルの沼地。

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 ムストルの沼地。そこには王国でも有数の湿地地帯であり、数多くの魔族が生息している。

 また希少な植物も多く自生していることから、人間の入植も進んでおり入植者と魔族との遭遇が増加。そのことは王国内でも徐々に問題になりつつあった。

 

 そしてウィルバルト達がそのムストルの沼地に向かい旅立ったその日、一人の少女が湿地の中を息を切らしながら走っていた。

 少女は走り続けながらも後方に視線を向けると、自分へと向かってくる魔巨人トロールの姿を確認し、さらに足に力を込める。


 「逃げるな小娘!! 諦めて捕まれ。そして俺の飯になるんだ!!」


 「ふ、ふざけるな!! そんなこと言われて止まる奴がいるわけないだろ! きゃあっ!!」


 ガサッ!!! しかし後ろに気を取られた少女は足元に倒れていた木に足を取られ地面に倒れこむ。

 すぐに体を起こした少女だったが、その背後にはすぐそこまで魔巨人が唾を口に蓄えながら迫っていた。


 「もう逃がさんぞ……。 うへへへ、人間の子供を食べるのは久しぶりだ。」


 「だ、誰か助けて……。え、なにあれ??」


 恐怖のあまり身動きが取れない少女に魔巨人トロールの手が触れようとした瞬間、少女は上空から近づいてくる何かに気づいたのだった。








 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ドンッ!! 大きな衝撃と共にそれは魔巨人トロールに激突すると、辺りは砂煙に包まれる。


 「ふぅ、どうじゃウィルバルト! 一瞬で到着したであろう??」


 「そ、そうだけど早すぎる……。うっ、吐きそう……」


 くそ、これだけはやっぱり慣れない。

 何でこいつこんなに小さい体なのにあのスピードが出せるんだ?

 だめだ、まだ目の前が回ってる。


 俺が目を回していると、体勢を立てなおした魔巨人トロールが声を荒げる。


 「グォォォォ! 何しやがる!!」


 「何じゃ、魔巨人トロール!! 私を誰だと思っているのだ!!」

 

 「なんだこの見るからに弱そうな奴は……。お前など知らぬわ!!」


 「な、何を? おいウィルバルト!! この緑のバカ魔族に私達の恐ろしさを教えてやるのだ!!」


 ……。しかし背中から頭の上に移動したヴェストニアの声に、俺は口を押えたまま何も言わなければ、ピクリとも動かくことが出来ない。

 魔巨人トロールはその様子をしばらく見つめた後、大きく笑い声を上げた。


 「ガハハハハハ、お前の仲間は俺に恐れを抱いて何も言えんようだぞ。いいだろう、小娘の前にお前達から食ってやるわ!!」

 

 魔巨人トロールは俺の体を掴み頭の上まで持ってくると、笑みを浮かべ口を大きく開けていった。

 やめて、これ以上俺の体を揺らさないでくれ!


 「お、おい俺、どうしたのじゃ!! このままでは食われてしまうぞ!! くそ、こうなったら私の変身を解いて」


 流石に慌て始めるヴェストニア。

 しかしそこで俺のダムが決壊する。


 「うっ、もうダメだ……。うえぇぇぇぇぇ!!!」


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ビチャビチャ!!! ヴェストニアが変化を解こうと頭から立ち上がった瞬間、俺の口から今朝食べたものが噴き出されそれは魔巨人トロールの鼻に直撃した。

 突然の出来事に魔巨人トロール叫び声を上げ俺を地面に放り投げると、鼻を押さえながら湿地帯の奥へと一目散に逃げ帰っていったのだ。


 「痛ててててて……。何なんだよ一体」


 「魔巨人トロールの嗅覚はかなり鋭いからな。お前のゲ〇が鼻を直撃してたまらなく逃げだしたんだろうな。クククッ……、少し可愛そうにも思えてきたわ」


 「ゲ〇って言うな、ゲ〇って」

 

 なんて失礼な魔巨人トロールだ! まるで俺が臭いみたいじゃないか、全く!!

 それにヴェストニア! 大体俺が吐いたの元はと言えばお前のせいでもあるんだからな!!


 俺は笑みを浮かべるヴェストニアに少しイラつきを覚えたが、その感情を何とか落ち着かせルと汚れた個所を叩きながら立ち上がると、後ろで腰を抜かしている少女の姿に気が付く。


 「君、大丈夫??」


 「えっ、あ、はい!! この度は助けて頂きありがとうご……」


 少女は俺が差し出した手を掴み立ち上がた瞬間、俺の胸に光る紋章を目にしたようですぐさま俺に頭を下げた。


 「竜騎士ドラゴンナイト様でしたか!! ということは魔巨人トロール討伐に来て下さったのですね。お願いします!! どうか村を助けてください、どうか!!!」


 「え、えっ!? す、すみませんが話が見えなくて……。最初から説明してもらえますか??」


 「…はい」


 少女はその言葉で頭を上げると、ゆっくりと説明を始めるのだった。













 



 「…ということなんです。」


 俺達は前を歩く少女 ミリの村に向かいながら、何が起きているのか説明を受けていた。

 

 ミリの暮らす村、ヒラ村は希少な植物が発見される前からムストルの沼地の近くに入植している人々が作り上げた村らしい。

 しかし最近では新しく入植してくる人が多くなってきたため、その人達を狙って魔族も急増。その代表格が魔巨人トロールだそうだ。

 村でも既に何人もの人が犠牲になっているのだとか。


 「……なるほど。そう言うことだったのか」


 俺がちいさく呟くと、ミリは笑みを浮かべながら振り返る。


 「でも竜騎士ドラゴンナイト様がいらしてくれたのならもう大丈夫です! なんてったって竜騎士ドラゴンナイト様は王国で一番お強い人達なんですもん!!」


 「い、いやぁ~、そんな事ないよ?? 俺なんてまだ竜騎士ドラゴンナイトになったばかりだし……」


 「何じゃウィルバルト、鼻の下が伸びて気持ち悪いぞ」

 

 「うるさい、そんなことない!」


 「フフフフッ」


 ヴェストニアの言葉で俺が顔を赤らめながら口元を隠す姿にミリが笑みを浮かべると、ようやく目の前にヒラ村が見えてきた。


 「あ、竜騎士ドラゴンナイト様! 村が見えてきましたよ!! 私は先に村長に伝えてきますので、ここで失礼します」

 

 ミリは頭を下げると、村に向かい走り始める。

 あれがヒラ村か。俺なんかの力で助けることが出来ればいいんだけどな。

 

 俺は笑みを浮かべると、その後に続き村に向かい歩いていった。





 「ほう、なかなか良い村ではないか」


 「そうだな。でもどこか村人の顔には元気がないように見える……」

 

 村に到着した俺は村の中を歩く村人たちの暗い表情に事態の深刻さに改めて気づかされた。

 そう言えば村の周りには柵が作られていたし、見回りっている男性も槍を手に持っている。

 魔巨人トロールに対して警備を強めているんだろうな……。


 「あ、竜騎士ドラゴンナイト様ー! こちらです!!」


 俺が村の中を進んでいくと、ミリが白髪の男性を隣に連れこちらに手を振っているのを確認できた。


 「これはこれは竜騎士ドラゴンナイト様。このような所まで来ていただけるとは有り難いことです」


 「いえいえ。私は7級竜騎士ドラゴンナイトのウィルバルト・アストリアと申します」


 「ウィルバルト様ですな。しかしこんなに早く来てくれるとは思いませんでした。見ての通り我らの村は裕福という訳ではありません。冒険者組合ギルドに依頼するだけの資金は集められず、竜騎士ドラゴンナイト組合におすがりするしかないものだったので……」


 確か冒険者組合ギルドや冒険者に頼もうとしたら結構高いんだったよな……。

 逆に竜騎士ドラゴンナイト協会は王国直属だから依頼料は低いけど、竜騎士ドラゴンナイトの数は冒険者より圧倒的に少ないから順番が回ってくるのが遅い、って竜騎士学園ナイトアカデミーの授業で言ってたっけ。


 「それで、竜騎士ドラゴンナイト様の使役されているドラゴンは一体どこに……?」


 「ああ、それならここに」

 

 俺が頭の上を指差すと、ヴェストニアがそこから姿を見せた。

 

 「私が最強のドラゴン、ヴェス、、タじゃ!! 私が来たからには大船に乗ったつもりでおるがよいぞ!!」

 

 ヴェストニアは頭の上から地面に飛び降りると、大きく笑い声を上げる。

 しかしヴェストニアの姿を見た村長は、周りに集まっていた村人達と俺達から少し離れ、聞こえないように小さな声で話始めた。


 「お、おい。あんなのがドラゴンじゃと? 騙されてるんじゃないか??」


 「で、ですが、彼の紋章の色。あれは7級竜騎士ドラゴンナイトで間違いありませんよ。つまりそれなりに実力はあるということです」


 「そうですよ。それに今更冒険者に依頼する金もないですし、ここは彼に任せるしか」


 「うーむ、致し方ないか……」


 とか言われてるんだろうな。

 だってこいつのこの姿どう見てもドラゴンに見えないもん。

 かといって本当の姿を見せて正体がバレても面倒くさいことになるし……。

 はぁ……。俺がため息をつきヴェストニアの姿を見つめていると、話を終えたそんな村長達が俺の元に戻ってきた。


 「いやー、そうでしたか! 流石は7級竜騎士ドラゴンナイト様のドラゴン! その実力に違わないお姿! 私感動の涙で前が見えません!!」


 うわぁー、嘘くせー。

 しかしヴェストニアはその言葉に満足げだ。単純な奴め。


 「ではウィルバルト様。魔巨人トロール討伐の件はお願いいたします。奴らはムストルの沼地の奥、大洞窟をねぐらにしていますので、そこまではこのミリに案内させます」


 「いや、それは流石に危険では?」


 だが俺の言葉に村長が大きく笑い声を上げると、隣のミリが口を開いた。


 「大丈夫です! 先ほどは魔巨人トロールが突然現れたのであのような無様な姿を見せてしまいましたが、この辺りは私の庭のようなもの。本気で警戒すれば魔巨人トロールにも見つかりませんよ」

 

 「な、なるほど……」

 

 「うむ、ミリとやら、よろしく頼むぞ」


 「はいドラゴン様!」

 

 ハハハハハハ!! 俺は目の前で笑い合うミリとヴェストニアの姿に、いつものように大きく息を吐き渋々村長の提案に賛同するしかなかったのだった。 



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