いざ竜騎士へ!
「……ん、朝か」
翌朝、自分の部屋のベッドから起き上がった俺は、朝日に照らされ目を覚ますが、しばらくしてあることを思い出す。
そう、いるはずのヴェストニアがどこを探しても見当たらなかったのだ。
「……あれ、ヴェストニアは??? おい、ヴェストニア! どこ行ったんだ!!」
俺は部屋中をくまなく探すが、ヴェストニアをどこにも見つけることができない。
もしかして全部夢だったのか???
そうだよな。神殺しと言われるヴェストニアが俺なんかと血の契約を結ぶわけないもんな。
「そうかあれは全部夢だったんだよ。考えて見れべ破壊竜が俺と契約するはずなんてないじゃないか。心配して損した……。朝飯でも食べるとするか……」
どこを見ても見当たらないヴェストニアの存在。
それが夢だということが分かった俺は笑みを浮かべると服を着替え部屋を後にし、既に家族がいるであろう広間へ軽い足取りで向かう。
だが、広間が近づくにつれある異変に気が付かずにはいられない。
ん……? なにやら騒がしいな……。
父さんも母さんも、いつもはこんなに騒がしくないはずなんだけど……。
しかしその声は、俺が広間へと近づいていくと更に大きなものへとなっていく。
そして広間に到着した俺が目にしたものは、自分の母親と父親、そして祖父と共に食卓を囲むヴェストニアの姿だったのだ。
「…………」
「あらウィルバルト、今朝は早いのね」
「……おお、ウィルバルト! お前が遅いのでな、先に頂いておるぞ」
……やっぱり夢じゃなかったー!!!
そうだよな……、あんなことが夢なわけないよな。
だって俺死ぬかと思ったもん……。
「さあ、何をしておる! さっさとお前も朝飯とやらを食べぬか!!」
がっくりと肩を落とす俺。
だがヴェストニアはうなだれているそんな俺に食卓につくよう促し、俺も両親の手前、渋々それに従い席に着く。
「いやしかしウィルバルトがブリドア山脈に行くと言った時はもう生きて会うことは無いと思っていたが、無事こうして竜との契約に成功するとはな……」
「本当ね! しかもこんな可愛い竜なんて!!」
母親は感慨深げに話す父親の言葉に同意すると、パンをかじっていたヴェストニアを勢いよく抱き上げた。
おぉぉぉぉ………、 なんかモニュモニュされとる!!
母さん、そいつ破壊竜だよ? 神殺しだよ???
分かってるのか??
「ハハハハハハ、苦しゅうないぞ!! しかし母君の料理とやらは本当に美味だな! 生まれてこの方このように美味いものを始めて口にしたわ!!」
だがウィルバルトの心配をよそに、ヴェストニアは大きく笑いながら母親の腕の中でパンをかじり続けていた。
「まぁまぁお上手ね!! それじゃあこれも食べてね! あ、これも! これも!!」
「おぉ!! こんなにいいのか?? ではお言葉に甘えて……」
ヴェストニアの言葉に気をよくした母親はさらにテーブルの上に次々と料理を並べる。
その光景にヴェストニアが目を輝かせ大きく口を開けたかと思うと、部屋中に突風が吹き荒れ一瞬で皿の上に置かれていた全ての料理が消えてしまったのだった。
食卓を一瞬の静寂が包み込む。
だが次の瞬間には父も母も大きく笑い声を上げる。
「ふぅ・・、満足じゃ。ゲプッ」
「ハハハハハ! 私の朝ごはんまで取られてしまったわ!! なんという食べっぷりだ!!」
「そうねあなた。これはこれから料理の作り甲斐があるわね」
はぁ……、なんでこの人たちはこうも簡単に受け入れてるんだ。
相変わらずそう言う所がゆるいんだよなぁ……。
俺はヴェストニアという常識離れな存在を受け入れる両親に、ため息を付いた後かろうじて残っていたパンを一つ咥え、ヴェストニアを自分の頭へと持ち上げた。
「何じゃ?? どこかに行くのか??」
「ああ、管理課に行かないけないからな。結局昨日は受付終わってたし……」
「そうかそうか!! そう言うことであればすぐに参ろう! お前の学び舎も見学したいからな!!」
ヴェストニアは俺の言葉に笑みを浮かべながら答える。
「それじゃあ行ってくるよ、母さん、父さん」
「気を付けてね! でもこれでとうとうウィルバルトも竜騎士になるのね……」
「そうだな……。い、いかん感動で涙が……」
全く、勘弁してくれ……。
俺はさらに騒ぐ両親の姿に再び大きく息を吐くと、彼らを残し竜騎士学園に向かうため家を後にしてたのだった。
─ 竜騎士学園─
竜騎士学園に到着した俺が敷地内を歩いていると、その姿を見た他の生徒から次々と声が上がる。
「おい、見ろよあれ! 落ちこぼれのウィルバルトだぞ。 ブリドア山脈から生きて帰ってきたって噂は本当だったんだ」
「大方、竜から逃げ回ってたんだろうよ。全くあんな奴が同じ竜騎士の一員だと思うと腹が立つぜ。」
「いや、なんでも竜との契約に成功しったって噂よ? ほら頭の上に乗ってるあれ……」
「あれが竜だって?! プッ! 落ちこぼれにはお似合いの竜じゃないか……」
ある者は聞こえないように、ある者はあえて聞こえるように大声でウィルバルトを蔑むが、慣れているのかウィルバルトは全く気にしていない様子だった。
その光景に、少なからず腹立たしさを覚えたのかヴェストニアが頭の上から俺へと声をかけて来た。
「……なんじゃあいつらは。 ウィルバルトよ、お主はこれでよいのか??」
「ハハハッ、もう慣れてるからな。それに落ちこぼれってのは間違ってないし……。ほら、それよりも管理課のある南棟のそろそろ到着するぞ」
「……うむ」
ヴェストニアは俺の答えに少しの不満を抱きつつも、それ以上は何も言わなかった。
そんな似合わない気遣いをするヴェストニアの姿に、俺は小さく笑みを浮かべつつも目の前に見える建物へと向かい歩みを進めていく。
ここは竜騎士学園南棟にある管理課。
この日ここには竜騎士連盟に、契約した竜を登録し竜騎士として認可を受けうるため、ウィルバルトと共にブリドア山脈に向かった卒業生の生き残り達が早くから集まっていた。
「あー、やっぱりもう結構来てるな」
「ほう……、竜共も来ておるのか……」
「そりゃそうだろ。きちんと契約できたことを証明しないといけないんだから」
俺はそうヴェストニアに答えると、空を舞っている竜達へと視線を移す。
やっぱりアーセム先生と同じ黒尾竜が一番多いな。
その次は赤尾竜ってところか・・。
だがしばらくして、竜達を眺めていたウィルバルトは突如背後からの衝撃に襲われ前方に倒れ込む。
それは明らかに誰かに蹴られたような衝撃だった。
……痛ぇぇぇ。
何するんだよ……、って、最悪だ……。
俺すぐに立ち上がり文句を言おうと背後に振り返るが、そこには大柄な男が数人を引き連れ立っていた。
彼らの顔、それは俺が最も会いたくない奴らの顔である。
「よぉウィルバルト。お前よく生きて帰ってこれたな。てっきり竜に食われたのかと思ってたぜ!」
ハハハハハ! 中央にいる赤髪を後ろで一まとめにしている長身の男の言葉に、取り巻きの男達も大きく笑い声を上げる。
その姿に、頭の上のヴェストニアはたまらず声を上げた。
「何じゃこいつらは。おい、お前!! 背後から蹴り飛ばすとは卑怯であろう!!」
しかし赤髪の男を見てから体が動かなくなった俺を見かねて、ヴェストニアが頭の上から降り立り攻撃をしようと彼に向かっていくが、この姿で敵うはずもなく腹部に前蹴りを喰らい、ヴェストニアは後方へ吹き飛ばされるのだった。
「む、むぎゅぅ……」
「なんだこいつ? おいウィルバルト、まさかお前が契約した竜ってのはそいつじゃないだろうな!?」
「おい、大丈夫か?! ……そ、そうだよ、悪いか?!」
ハハハハハ!! その俺の言葉に、こらえきれなくなった男達から再び笑い声が上がった。
「落ちこぼれとは思っていたが最底辺の竜、土竜とすら契約できないなんてな!! まぁせいぜい魔力検査で落とされないように気を付けな、竜騎士さんよ!」
……くそ、俺は順番が最後だったんだ。
そんな低レベルな竜なんて俺の順番まで残ってるわけないだろ。
いや、仮に土竜と契約してたとしても馬鹿にするに決まってる。
俺は地面に倒れるヴェストニアの元に駆け寄りその体を拾い上げるが、その手は男達への怒りで力が入り、小刻みに震えている。
その後、笑いながら俺の元を去っていく男達の背中を見つめた後、俺は腕の中で目を閉じているヴェストニアの体を何度か叩いた。
すると、ゆっくりだがヴェストニアは目を開くのだった。
「……むむ。 ここはどこ? 私は誰だ??」
「何古典的なボケをしているんだアホ」
「ふむ、一度やってみたかったのだ」
よかった……。
こんなふざけたことが出来るということは心配ないだろう。
まぁ、いっその事頭でも打ち付けて静かになってくれればよかったけど……。
目を覚ましたヴェストニアはいつものように頭の上へと移動するが、そこで先ほどの事を思い出し沸々と怒りが湧いてくる。
「しかしあの人間、今度会ったら容赦せん! 私が真の姿でなかったことを幸運に思うんだな!! ……それであいつは何者なのだ?」
その言葉に俺は小さく息を吐くとゆっくりと答え始める。
「あいつはマルティオ・エステニーゼ。今回の卒業者の中では断トツの点数でトップだった奴だよ。ほらあいつの上に飛んでる竜、見てみろよ」
「あれは……、火竜か??」
ヴェストニアは俺の言葉で、マルティオの上空を飛ぶ他のものとは一回りは大きな竜を見つめながら答えた。
「そうだ。初めての契約で火竜と契約できたのは100年ぶりらしい。多分あいつは竜騎士になっても10級からでなく8級辺りからになるんじゃないかな」
「……確かに人間からすれば火竜は高位の竜じゃからな。なるほど、威張るだけの力を持っているという訳か」
ヴェストニアは自分を蹴り飛ばした男の力を理解したのか、何度も頷く。
ただ、俺はこれまでマルティオに受けて来た苛めの数々を忘れた訳ではない。
そのため、珍しく拳に力が入っていった。
あいつにはこの3年間いじめ続けられた……。
全くいやな思い出だ……。
俺が3年間の事を思い出していると、しばらくして管理課の受付をするエルフの女性があらっわれ声を上げた。
その声で、その場に集まっていた卒業生達は一斉に受付の咆哮へと移動を開始する。
「もう間もなく申請を受け付けます!! 申請書をまだ書いていない人は急ぎ受付まで取りに来てください!!」
「おっと、もうそんな時間か。それじゃあ俺達も行くとするか」
「そうじゃな! とうとう我らの力を世に知らしめる時が来たのだな。 フフフフ……」
お前もう本当に最初に会った時と変わり過ぎて、俺にはついていけん……。
キャラ変わり過ぎだからな。
ヴェストニアは俺の頭の上で立ち上がり受付の方角を得意げに指差す。
その姿に、俺はいつものように大きく息を吐きその方向へと進んでいくのだった
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