魔法武器が欲しい!
1年ぶりの更新(笑)
竜騎士協会を後にした俺達は街のはずれにある廃墟へと向かっていた。
どうやらそこに目的のギューリウス・マクワイアと言う人物がいるらしい。
「ギューリウス・マクワイアか、アリアさんも何もあいつをウィルバルトに紹介しなくてもいいのにな」
「ビル―トは知っているのか?」
「当たり前だ、メルディも知っている。知らないのはお前位じゃないか?」
ビル―トの言葉を聞いていたメルディは何度も首を縦にふった。
ギューリウス・マクワイア? やっぱり初めて聞く名前なんだけどな。
アリアさんに貰った資料によると彼は魔法武器を製作する武具屋の中でも特に優れた武器を作るらしい。
ただその素性は謎に包まれ何歳なのかも誰も知らない、廃墟に住む変わり者。
「こんな人でも俺の初めての魔法武器を作ってくれるかもしれないんだ、楽しみだなぁ」
「全く、ウィルバルトはお気楽でいいわね。ギューリウス・マクワイアっていったら貴族なら誰でも知ってる変人よ?」
「大丈夫だよ! なぁヴェストニア?」
「……」
あ、こいつ宝石を取り上げられたショックからまだ立ち直れていないだった……。
ヴェストニアは俺の言葉にも答えず、頭の上でうつぶせで倒れたままだ。
まぁいいか。えっとそろそろ到着するはずだけど。
「……あ、ここじゃないか?」
しばらくすると俺達の目の前にボロボロの石造りの建物が現れた。
一見ただの廃墟だが、よく見ると煙突から煙が出ている。誰かが住んでいることは間違いないみたいだ。
「な、なんだか緊張してきた」
初めての魔法武器、それを手に入れることが出来るかもしれないという高揚感で俺の体は一杯だった。
しかしいつまでもこうはしていられない。
意を決し目の前の扉に手を伸ばしたその時、まるで待っていたかのようにひとりでに扉が開いたのだった。
「……さぁお入りなさい」
な、なんだ誰かの声が……。
建物の中は数本の蝋燭、そして一つの暖炉に照らされるだけの薄暗い空間だった。
そしてよく見ると、その更に奥に誰かが座ってこちらに手招きをしている。
あれがさっきの声の主に違いない!
「あれがギューリウス・マクワイア?」
部屋の中に進んだビル―トは小さくそう呟いた。
すると目の前の人影が巨大な口を開き大きな笑い声を上げた。
「ハハハハハッ、いかにも私がギューリウス・マクワイアじゃ!」
この人、かなり小さい。
1mもないんじゃないか? それにフードを深く被っているから分からないが、肌の色も人間とは違うような……。
この俺の予想は当たっていた。
ギューリウスは椅子から腰を上げるとフードを取った。
その姿は俺も見たことがあるもの。魔迷路の入り口にいた奴ら。
小鬼だ!
「小鬼だと!?」
ビル―トとメルディも瞬時に目の前の存在の小隊に気が付き武器に手をかける。
しかしその姿にもギューリウス・マクワイアは大きな笑い声を上げた。
「ガハハハハッ、若いのぉ! 確かに儂は小鬼の血が入っておる。しかし半分は人間じゃ。ほれ、小鬼がこんなに流暢に人の言葉を話すか?」
「た、確かに」
俺は目の前の老人の姿を観察する。
姿こそ小鬼の様だが、彼らよりも目は大きく手足は長い。
肌の色も緑ではなく茶色に近いようだ。
何より小鬼は人語を殆ど話せなかったはずだ。
ギューリウスは俺の目から敵意が無くなったことを感じたのか、再び椅子に腰を下ろし煙草に火をつけた。
「それでお若いの。今日は何の用かな?」
「あ、そうだった。実は今日は魔法武器の製作を依頼しに来たんです。竜騎士教会の紹介状です」
「ほう、その年で7級か。ウィルバルト……、なるほどお前が話題のウィルバルト・アストリアか」
ギューリウスはそう言うと紹介状に目を通したが、すぐに紹介状を暖炉の中に投げ込んでしまった。
「な、何をするんですか!」
「ハハハハッ、こんな紙切れ儂には何の意味もない。儂が武器を作るのは儂が作りたい、作ってみたいと思える人や素材と出会った時だけじゃ。無論、お前さんも何か持ってきているんだろう?」
この人、どこか飄々としているようで掴ない人だ。
俺が何を持っているのかおおよそ検討が付いているんだろう……。
俺は持ってきていたオークの牙をギューリウスの目の前に置いたが、その瞬間明らかに彼の表情が変わる。
「やはりオークの牙か。興ざめじゃ! 少しは期待していたんだがなぁ、こんな3流品で武器を作れるか!」
「おいおい待てよ! オークの牙は街じゃあかなりの値段で売買されてるじゃないか!」
たまらず俺達の間に割って入ったビル―トだが、ギューリウスはつまらなさそうに話を続ける。
「そうだ、その通り。だだ裏を返せばそれなりの値を出せばだれでも持ってこられる物。そんなありふれた物、つまらんわ!」
「この野郎、黙って聞いてれば好き勝手言いやがって。ウィルバルトがどんな思いでこのオークの牙を持ってきたと」
「ははん、残念じゃったな他を当たれ」
ギューリウスは舌を出し更にビル―トを挑発する。
その姿に今にも爆発しそうなビル―トだが、俺はギューリウスの言葉が頭から離れなかった。
確かにその通りだ。これは手に入れようと思ったら貴族なら手に入れれるだろう。
でも俺にとっては初めての仲間との大切な戦利品だ。
やっぱり最初の武器はこの牙で作りたい……。
「……分かりました、あなたの言う通りですギューリウスさん。他を当たります」
「お、おいいいのかウィルバルト」
「仕方ないよ。でも俺はどうしてもこれで武器を作りたい。ビル―トとメルディと倒したこのオークの牙で」
「ウィルバルト……」
俺の言葉に2人は小さく笑みを浮かべた。
「よく言ったウィルバルト!」
「なんだヴェス…タ、ようやく起きたのか」
「ガハハハハッ、お前も頼もしくなったものだ。確かにこのオークの牙はお前達3人で勝ち取った物だからな」
何事も無かったように俺達の輪に入るヴェストニア。
オークの牙を手に取ると大きく笑い声を上げる。
ただその姿にギューリウスは先ほどまでとは明らかに表情が変わる。
「ま、まさか……。さっきまでとは見違えるようだ。このオークの牙、黒雷魔法を帯びているのか」
や、やばい! もしかしてヴェストニアが触ったことで黒雷魔法が?
いや、それなら今までだっていくらでも色んなものを触ってきたんだ。
そんな簡単に魔法が映る訳……。
ここで俺は思い出す。
オークを倒した最後の魔法。
それが黒雷魔法であったことを。
「ほう、見る目があるな小鬼! いかにもこれには私のこくら…むぐっ!」
「おい、お前それ以上言ったら殺す!」
「び、びびばべびばび! ぼぼぼぶびびぶ! (い、息が出来ない! 本当に死ぬ!)」
ヴェストニアの言葉は何とか阻止できたが、ギューリウスはオークの牙を何度も観察している。
「これはどう見ても黒雷魔法……。これが使えるのは破壊竜だけだったはず。お若いの、もしやあおの珍妙な竜は」
「い、いやいやいや違いますから! こいつはただの竜、そうヴェストニアの血が100分の1入った竜なんですよ! な、なぁヴェスタ?」
「……」
「ヴェ、ヴェスタ!?」
や、やばい口を押さえままだった!
俺が気づいた時にはヴェストニアの顔色は青く変色、魂が出ていく寸前だった。
死ぬなヴェストニア、死ぬんじゃなぁぁい!
「……ハハハハッ、なるほどな。そう言うことにしておこうか。秘密にしておきたいことくらい誰にでもあるものだ」
「ぶはっ!!」
ギューリウスは何かを察したのだろう。ヴェストニアの呼吸が再開したのもあってそれ以上は何も言ってこなかった。
ただオークの牙を持つと奥の部屋へと向かい歩き出す。
「ま、待って下さい! どこに」
「気が変わった。魔法武器、作ってやろう」
「へ?」
「だから魔法武器を作ってやる! 黒雷魔法を帯びた素材なんて初めてだ、一体どんな武器になるのやら」
ギューリウスはそう呟きながらもその表情は笑みを浮かべている。
奥の部屋、恐らく工房があるであろうその部屋に俺達も続くと中は鍛冶仕事の道具や見慣れない道具が所狭しと並んでいる。
ほ、本当に魔法武器を作ってくれるんだ!
「ただいくつか他の素材も欲しい。それはお前さんで調達してくれ」
「わ、分かりました」
「俺も手伝うぜウィルバルト」
「わ、私も!」
「ありがとうビル―ト、メルディ」
「ふっ、友情かお熱いの! まぁそれじゃあ早速始めるとするかの!!」
つ、遂に俺の魔法武器が出来るんだ。
カァン!! こうして甲高い槌の音で俺の魔法武器が作られ始めたのだった。




