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オーク遭遇戦 前

 「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 2体のオークの内、後方から迫ってくるオークへと走り出した俺は勢いよく飛びあがると、その額目掛けて手に持つ短刀を一気に振り下ろした。

 しかしオークはその巨体に似合わない俊敏さで容易く俺の攻撃を避けると、すぐさま俺の体程はあるほど巨大な拳で殴りつけてきた。

 その衝撃で俺は魔迷路ダンジョンの壁に激突し、辺りには砂煙が立ち込める。


 「がはっ……!!」


 くそっ、なんて馬鹿力なんだ。

 以前の俺だったら今の一撃で死んでただろうな。

 ヴェストニアの魔力で体を強化しているからこの程度で済んでいるんだ。 


 「おいウィルバルト、大丈夫か!!」


 「ああ、問題ない。まぁ少し脇腹が痛むくらいかな……」


 俺は喋るたびに少し痛む脇腹を押さえながら、頭の上のヴェストニアに答えた。


 「そ、そうか。しかし、これからどう戦う?! 今のお前ではオークと戦うのは少し荷が重いのではないか?? やはりビル―トとメルディにも応援を頼んだ方が」


 いや、そういう訳にもいかない……。


 俺は肩に移動し、心配そうに自分を見つめるヴェストニアの言葉でもう1体のオークと戦うビル―トとメルディへと視線を移した。


 「これでも喰らいなさい! 疾風の矢!!」


 バシュッ!!! メルディは高速で壁を走るドゥードの背の上で膝を付きながら、魔弓 へストピアを構えると、風魔法を矢に込め何本もオークへと放っていく。

 メルディから放たれたそれらの矢は正確にオークへと命中し、魔法の力によりオークの鎧ごとその身体を貫いていった。


 「やったわ!! ビル―ト、今よ!!」


 「分かってる。ロー、攻撃を受け怯んでいる隙に、奴の動きを止めてくれ!!」


 「了解した」


 シュルルルル……。

 両手に双剣ダブルソード ムルバートを構えたビル―トの隣にいたローは、その言葉でビル―トの影の中に姿を消したかと思うと前方のオークの陰の中から再び姿を現し、その長い体をオークの巨体に絡みつかせていった。


 「くっ……! 何という力だ!! ビル―ト、すまんが長くは持ちそうにない!!」


 「大丈夫だ相棒! それだけ時間があれば仕留められる。行くぞ!!!」


 ビル―トは笑みを浮かべるとオークの元へ走り出し、ローの身体が巻き付いていない首元に攻撃を加えるため、オークの肩へと飛び乗る。


 「くらえ! 闇の斬撃(ダーク・スラッシュ)!!」

 

 ビル―トが両手に持つ双剣ダブルソードを振り上げると、その刀身は黒く染まり漆黒の輝きを放ち始める。

 そして一気に振り下ろされた刃がオークの首元を半分ほど切断すると、切り口から発生した黒い炎により、オークの体が徐々に黒く変色し始めていった。


 「ローの属性は闇、つまりその魔力を使える。あの黒い炎は相手の生気を吸い取り、体の動きを奪っていく闇魔法。下級魔族ならこれで肩がつくんだが……」


 オークの肩から降り立ったビル―トの元にメルディ、そしてオークの拘束を解いたローが戻って来ると、全員が首元から炎を発するオークの姿から視線を離せないでいた。


 「ガッ、ガッ……」


 「どうやら決着があったみたいね……。私達だけであのオークを倒したなんて、信じられない」


 「ピィィィィィ!!」


 「おいおい、まだ倒したわけじゃ……」


 「ダメじゃ!! お前達すぐにその場を離れろ!!!」


 ビル―トとメルディは既に決着が付いたかのように安堵の表情を浮かべ始めていたが、その様子を見ていたヴェストニアが突然大声を発した。

 その言葉に驚いたビル―トとメルディは急ぎその場を離れようとするが、オークの口から発射された火の玉が2人のすぐそばで爆発し、その衝撃で後方へと吹き飛ばされるのだった。


 「お、おいヴェストニア!! 何であいつあんな傷を負ってるのに動いてるんだ!!」


 キンッ!! 俺は2人の元に駆けつけたいが、目の前のオークから繰り出させる攻撃を短剣で防ぐことに精一杯でそうすることが出来ない。

 だが、ヴェストニアの言葉で一瞬早く逃げることが出来たため、なんとか起き上がった2人の体には幸運にも大きな傷は見当たらなかった。

 良かった、2人とも無事みたいだ。


 「オークはあの程度では死なん。奴らの本当に恐ろしいところはその再生力なんじゃ!」


 「確かに魔族は速さに差はあるも、その殆どが再生能力を持っている。だけど首を半分も切られてるんだぞ!? 回復の前に普通死ぬだろ!」


 俺はオークが振り下ろした剣を空中に飛びあがり避けると、2人のいる場所に降り立つ。


 「大丈夫か2人とも?!」


 「あ、ああ。問題ない……」


 「私もドゥードも大丈夫よ。それにしてもどうしてあいつはピンピンしてるのよ」


 体を押さえながら立ち上がった2人が急ぎ前方のオークに視線を戻すと、オークは黒い炎が発生している首元を自分の手で無事な部分ごと抉り取り、一瞬で2人から受けた傷を再生させていった。


 「あれがお前の質問の答えだ。オークは胸の心臓近くに魔心臓コアと呼ばれるものを持っておる。奴らはそこへ普段から多くの魔力をためているお陰で、あのような高速再生を可能にしているんじゃ! つまりその魔心臓コアを取り出し致命傷を与えるか、魔心臓コアごとその身体を破壊するしか倒す方法がない!」


 嘘だろ……。

 そんな相手どうやって勝てっていうんだ!! 

 魔心臓コアを取り出すのはあの動きからはまず不可能に近い。

 かといって、後者だって……。


 俺は後ろのビル―トとメルディに視線を移すが、2人も同じ考えなのか厳しい表情を浮かべていた。

 

 このままじゃ3人ともやられる。

 こうなったらあの方法を試すしか……。

 しばらく考えた後俺は小さく息を吐き、何かを思いついたのか右肩に乗っているヴェストニアに尋口を開く。


 「なぁ、ヴェスタ。2人がドラゴンの属性魔法を使えるってことは、俺にもお前の黒雷が使えないかな?」


 「分からん。恐らく可能ではあるだろうが、お前はその練習をしておらんだろう? 黒雷は魔力操作を誤れば使用者もダメージを喰らう。火弾ファイアーショットと組み合わせる位であれば問題はないが、それ以上となると」


 「でも、この状況だ。俺がやるしかないだろう?」


 「フッ、そうか。お前も少しはいい面構えになってきたようだな。いいだろう! なら私も協力してやろうではないか! この破壊竜、ヴェスト……、むぐっ!!」


 俺の決意をくみ取ったヴェストニアは笑みを浮かべるといつものように自分の名前を叫ぼうとするが、寸前の所で俺が口を塞ぎ阻止した。

 そのおかげか、後ろの2人にはヴェストニアの正体は気づかれていないようだった。


 はぁ……。こいつ、いつになったら覚えるんだ。

 やっぱり馬鹿なのかなー。


 「いや、今はそんなことを考えてる暇はないな。ビル―トとメルディ。ちょっといいか? 俺に考えがあるんだ」


 「むむむむむ! ばばいてふえ! (ウィルバルト! 離してくれ!)」


 しかしヴェストニアの願いも空しく、俺はヴェストニアの口を押えたまま自身の作戦をビル―トとメルディに伝えていく。

 そしてようやく作戦が決まった頃には、息の出来なかったヴェストニアの顔は青く変色していたのだった。


 

 「おい。起きろヴェスタ!!」


 「うっ……。し、死ぬかと思った」


 俺は気を失いかけていたヴェストニアの頭を叩くと、なんとかこちら側に戻すことに成功した。


 「それじゃあ、2人とも。前の奴は頼む!!」


 「ああ、任せろ!! メルディ、準備はいいか??」


 「もちろんよ! さっきの借りを、倍にして返してやるんだから!!」


 ヒュッ!! ビル―トとメルディは覚悟を決めると、同時に前方のオークへと走り始める。


 これは俺が黒雷を使えるかに成功がかかっている……。

 こいつを倒すまで何とか頑張ってくれ、ビル―ト、メルディ!


 「ガァァァァァ!!!」

 

 ビル―トとメルディが自分に突撃してきたのを確認したオークは、腰の大剣を抜くと、勢いよく2人に振り下ろす。

 しかし2人がその攻撃を左右に分かれ避けたため、剣は床の石畳を砕き、刀身の半分近くが埋まってしまった。


 「ビル―ト、今よ!!」


 「おう!! 行くぞ、火弾ファイアーショット!!」


 ボシュ、ボシュッ!!! ビル―トは床に突き刺さった剣を引き抜こうとするオークの両目に狙いを定めると、前に伸ばした右手から2発の黒炎を纏った火弾ファイアーショットを撃ちだした。

 そのうちの1発は狙い通りオークの左目に着弾し、再び黒炎がオークの体を蝕んでいく。


 「ガァァァァァァ!!!」


 「ぐっ!!」


 燃える左目をくり抜き再生させていくオークだったが、片目が無事だったためその視界が消えることは無く、一瞬でビル―トの元まで移動すると、右手を振りかぶり勢いよくビル―トを殴りつけた。


 「ビル―ト!!!」


 そんな、ビル―トが……。


 「……そ、そんな顔してんじゃねぇよ。」

 ガラガラッ。 しばらくしてビル―トは吹き飛ばされた衝撃で崩れた壁の瓦礫の中から立ち上がると、自分を心配そうに見つめる俺とメルディに何とか笑みを浮かべた。


 「助かったぜ、ロー」


 「ぐふっ……。ああ、礼には及ばん」

 

 どうやら殴られた瞬間、ローがビル―トの盾になりダメージを軽減させていたらしい。

 そのためにローはかなりのダメージを負っており、これ以上の先頭は難しそうだ。


 「……メルディ!! 俺達がこれだけ時間を稼いでやったんだ! そっちの準備は出来たんだろうな!!!」


 「も、もちろんよ!! 魔力も十分溜めれたわ! あとは私に任せておきなさい!」


 メルディはビル―トの言葉で気を取り直すと、ドゥードに乗り自分に気づいたオークの攻撃を躱しながらビル―トの目の前まで進み、背中の矢を3本床に突き刺し呪文を唱え始めた。


 「我、敵からの攻撃から皆を救わん。……水の祝福アクシオ!!」


 呪文を終えた瞬間矢を突き刺した部分から勢いよく水が噴き出すとそれはオークの体を包み込み、水の球体となって宙に浮かび上がる。


 「ウィルバルト、これでしばらくは時間が稼げるわ!! 今の内に早く!!!」


 ……流石はメルディだ。あれだけの魔法を今の段階で使えるなんて。

 水魔法で足止めしてくれとは言ったけど、想像以上だ!!


 俺は自身にも迫るもう一体のオークの攻撃を避けながらも、笑みを浮かべこちらを見つめるメルディに自身も笑みを浮かべ返すと、真剣な表情でオークに視線を戻す。


 「……さぁ、反撃開始だ!!」


 その言葉とともに俺は短剣を手に取ると、再びオークに向かい走り出していくのだった。



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