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魔迷路(ダンジョン)は危険でいっぱい!

 「ここが魔迷路ダンジョンか。入り口と違い、中は結構広いんだな……。」

 

 俺はビル―ト、メルディと共に魔迷路ダンジョンの中をゆっくりと進んでいた。

 魔迷路ダンジョンの内部は、豪華な装飾が施された石造りの道の壁に等間隔で炎が浮かんでおり、道を見失うことは無いが左右には無数に枝分かれした道がいくつも口を開けている。

 また、1人しか通れないほど狭かった入り口とは違い、内部は3人が並んで歩いても余裕がある程広い道が続いていた。


 ここに来るまでに白骨体がいくつもあった……。

 恐らくこの魔迷路ダンジョンに挑戦して散っていった冒険者達のなれの果てだろう。


 「そう言えばウィルバルトは武器を持っているのか??」


 「武器?? いや、学園アカデミーで支給された短剣をもっているだけだよ?」


 隣を歩くビルートの言葉に俺小さく首を傾ける。


 「やっぱりな。そうだと思ったぜ。まぁ、お前の強さなら大抵の敵は倒せるだろうが、上位階級の任務ではそうはいかないぞ??」


 「そうね。きちんと自分の属性にあった魔法武器を作らないと皆から笑われるわよ??」


 魔法武器か……。 そう言えばアーセム先生の授業で習ったな……。

 

 魔法武器。 

 魔鉱石や、魔族から採取した体の一部を利用し製作される武器の事である。

 通常の武器と違い所持者の魔力を吸い込むことで魔法効果の増大、あるいは形状の変化や武器としての攻撃力を向上させるなど、高位の魔族や竜騎士ドラゴンナイト同士の魔法戦には必須の魔法道具である。



 「ほう……、魔法武器か。確かにこれからの事を考えれば必要になるじゃろうな。ウィルバルト、お前は1つも持っておらんのか??」


 アーセムの授業を思い出す俺に、3人の会話を聞いていたヴェストニアが俺の顔を覗き込みながら尋ねる。

 しかしその言葉を聞いた俺の表情は曇るしかなかった。


 「いや、欲しいとは思ってるんだけどね……」


 「なら買えばよかろう??」


 「そうなんだけどさ、ほら、あれって……」


 「何じゃ!? もったいぶらずに早く言え!!」


 「…高いんだよ!! 最も安いって言われてる魔鉱石で出来たソードでさえ金貨50枚だぞ?!」

 

 「なっ!!! 金貨50枚だと……!! 一体パンが何本買えるんじゃ……」

 

 俺の言葉を聞いたヴェストニアはその小さな手を広げ、4本ずつ生えている指を折り曲げパンがいくら買えるのかを数えていく。


 「ハハハハハハ! 確かに高いよな。」


 「ビルートよ! お主はそのように高いものを持っておるのか???」


 笑い声を上げたビルードに、ヴェストニアは真剣な表情で詰め寄った。

 そのヴェストニアの姿にビルードは小さく笑みを浮かべると、マントの下から腰に装着していた2本の美しい短剣を取り出す。


 「ああ、持ってるぞ? これは双剣ダブルソード ムルバートだ」


 「おぉぉぉぉぉ!!!」

 

 シュン、シュンッ!!!

 ヴェストニアは目の前で空を切るビルートの魔法武器に目を輝かせながら感嘆の声を上げた。


 「まぁ、竜騎士ドラゴンナイトになるのはその殆どが貴族か、竜騎士ドラゴンナイトの子供だからな。貴族なら魔法武器位買えるだろうし、竜騎士ドラゴンナイトの子供でも竜騎士学園ナイトアカデミーを卒業したときに属性にあった親の魔法武器の1つを貰ってるしな。かくいう俺も父親が4級竜騎士ドラゴンナイトで、このムルバートはその親父の魔法武器の一つだ! 俺の属性と適合する魔法武器があって、ほっとしたぜまったく」


 「私のホースト家は王国貴族で、卒業と同時にこれを贈られたわ! 魔弓 へストピアをね!!」

 

 「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ビルートに続きメルディも背中に装着している3分割された弓を取り出すと、一瞬で組み立てヴェストニアに弓を構えて見せる。

 そこでヴェストニアの興奮は頂点に達し、その眼差しのまま俺に振り返った。


 「それで、ウィルバルトは何の子なんじゃ??」


 「……俺はただの平民だよ。お前も知っているだろあの平凡な家を!」


 ガクッ。俺の言葉を聞いたヴェストニアは地面に手を付き分かりやすく落ち込んでいく。


 何だよ!! お前だって俺の家にいたんだからそれ位予想がつくだろうが!!

 そうだよ。俺だって貴族とか、豪商とか、竜騎士ドラゴンナイトとか……。

 そんな家の子供に生まれたかったよ!!!


 「俺は何十年ぶりかの平民出身だったもんな」


 「そうそう、入学当時はかなり有名だったもんね!」


 それが魔力もろくにないこんな奴だったから余計バカにされたんだよ。

 入学試験だって、座学で入れたようなものだったし。


 グゥゥゥゥ……。俺が2人の言葉にヴェストニアの隣で同じように落ち込んでいると、メルディの後ろにいたドゥードが唸り声を上げ始める。

 その後に続きローも前方に向かい警戒を強めていくと、3人の前に巨大な影が姿を現した。


 「どうしたのドゥード……、あれはまさか!! ビルート、ウィルバルト」


 「ああ。初めからこんな化け物に出くわすとはな、全くついてないぜ……。ウィルバルト! 武器を構えろ!!」


 あれはまさか……! 

 オーク、実物は初めて見た!!


 オーク。

 魔族の中で上位種と呼ばれる種族の最下層の魔族である。しかし、最下層と言っても上位種に分類されているだけありその力は強大であり、例え竜騎士ドラゴンナイトといえど油断できる相手ではない。

 その姿は豚の様な頭部を持ち、人間の数倍はある体躯。また知能の高さから武器や防具も身に着けており下級ながら魔法も使用する。

 竜騎士学園ナイトアカデミーでもその凶暴さから駆け出しの時に遭遇した場合の対処はこう教わっている。


 逃げろと……。


 3人は竜騎士学園ナイトアカデミーでの教えを思い出し、迫りくるオークから逃げようと徐々に後ろに下がり始める。

 しかし、その後方からも物音がした瞬間もう1体のオークが退路を塞ぐように現れた。


 「くそ! もう1体いやがったのか!!」


 「どうする?! 1体でも今の私達には手に余るって言うのに、もう1体もなんて……」


 「…ちっ。魔迷路ダンジョンの中でも難易度の一番低いところを選んだつもりだったんだけどな。オーク、それも2体と遭遇するなんて協会の魔迷路ダンジョンランクも当てにならないな……」


 メルディの言葉にビルードは笑みを浮かべるが、その額から一筋の汗が流れ落ちる。

 この2人がここまで余裕をなくすなんて。


 「ヴェストニア。あいつ今の俺でも倒すのは難しいかな?」


 「……そうじゃな。簡単に負けるとは言わないが難しい相手だろう。オークは数体いれば大型ドラゴンでも倒すほどだ。私が元の大きさに戻ろうにもここはそこまでの広さがない。下手をすれば全員生き埋めになってしまう……」


 ヴェストニアがいつになく真剣だ。

 つまりオークはそれだけ油断できない相手だということ。


 頭の上に移動したヴェストニアの言葉に俺は、前方を警戒する2人と背を合わせ後方のオークに短剣を構える。

 しかし俺は、しばらくして近づいてくるオークの右手に武器とは違う何かが握られていることに気が付いた。


 「た、助けてくれ……」


 「あれは、冒険者だ!!」


 俺の声に、ビル―トとメルディは前方のオークに警戒しつつも後方に視線を移す。

 するとそこには確かに頭を掴まれた冒険者と思われる人間の姿があった。


 「クソッ!! 冒険者の生き残りか!!」


 「あなた!! 他の仲間はどうしたの?!?!」


 「他の仲間は、皆こいつらに、食われた……」


 メルディの言葉に、冒険者は絞り出すように何とか声を発し答えた。


 「は、早く助けてくれ。このままじゃ……、あぁぁぁぁぁ!!」


 ブシュゥゥゥ!!!

 しかし冒険者の願いも空しく、オークは大きく口を開けると一口で冒険者を飲み込み、辺りに血が飛び散る。

 しばらくしてそのオークが口から冒険者の防具だけをを吐き出すと、彼が持っていた盾が地面の上で力なく回転していった。


 何て奴だ……!!

 あいつ冒険者を食う時笑ってやがった。

 楽しんで人間を殺してるんだ。


 「…おいウィルバルト、お前一人で後ろの奴を倒せるか!?」


 「待ってビル―ト、まさか戦う気???」


 「それしか俺達が生き残る道はないんだ!!」


 「だけど」


 確かにここはそれしか生き残る道はないだろうな……。

 地上なら空を飛んで逃げることも出来るだろうけどここは地下だ。

 それに1体なら魔法武器も持っているビル―トとメルディの2人がかりでなんとかなるかもしれない。


 ふぅ……。俺は小さく息を吐くと目を瞑り、しばらくして意を決したように口を開いた。


 「分かった、後ろは俺1人で何とかしてみる。だから前の奴は任せた」


 「ちょっとウィルバルト! あなたまで何を言い出すの!?」


 「メルディ。退路は1つしかないんだ。そこを塞がれたんじゃ戦うしかないだろ? それに俺たちではオークの脚力には敵わない。1体でも残れば逃げた所で必ず追いつかれる」


 「その通りだウィルバルト。流石は座学だけはトップだっただけの事はあるな」


 「だけって言うなよ、だけって」

 

 背中を合わせながら笑みを浮かべる俺とビル―トの姿にメルディは頭を大きく掻くと、魔弓 へストピアを前方のオークに構えた。


 「もう、これだから男って嫌いなのよ! もし私が死んだら絶対化けて出てやるからね!!」


 「ハハハハ! それでこそメルディだ!! ロー、お前も覚悟はいいな??」


 「うむ。ここで死ぬのならそれも運命さだめ。あの豚共に我らを敵にしたことを思い知らせてくれよう」


 ビル―トの隣でローが蛇の様なその身体を起き上がらせると、メルディの隣にもドゥードが鳴き声を上げながら現れる。


 「あなたも覚悟はできてるみたいね」


 「ピィィィィィ!!」


 「ガハハハハハ!! 皆、頼もしいな!! ウィルバルトよ、お前もいい仲間が出来てよかったな!!」


 「……ああ」


 俺はヴェストニアの言葉に笑みを浮かべると、短剣を構え後方のオークの元に走り出す。

 それと同時に前方の2人もオークの元へ一斉に動き出した。



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