依頼完了の報告だが・・?
竜騎士協会 竜騎士学園支部。
ここにはこの日も多くの竜騎士達が集まり、依頼を受付けや各地で知りえた情報の交換を行っていた。
その中でも、任務から戻ったマリティオ・エステニーゼの周りにはひと際大きな人だかりができている。
「おい、マルティオ! 聞いたぞ、お前魔狼の群れを一人で倒したらしいな!」
「やるじゃないか。流石は100年ぶりの卒業と同時に8級竜騎士になった男だ! 魔狼の群れと言えば、10級竜騎士ならやられることがある強敵。それを一人で倒してしまうなんてな」
「ああ。これはすぐに7級竜騎士上がるだろうな。俺もうかうかしてられないぜ!」
ハハハハハ! マルティオの周りには、竜騎士学園の同じ卒業生を始め、マルティオよりも上の階級の竜騎士達が笑い声を上げながら任務から戻ったマルティオを労っていた。
「いやいや、今回は運が良かっただけだ。だが、そうだな……。このままいけば1級竜騎士、俺がその最年少記録を更新してしまうかもしれないかな!!」
「ハハハハハ!! おいおい、ルーキーが大きく出たな!!!」
マルティオは大きく笑い声を上げると、周りの人だかりを抜け、アリアのいる受付へと移動していく。
マルティオの姿に気づいたアリアも笑みを浮かべながらマルティオを出迎えた。
「あら、マルティオさん! 無事に戻ってこられたんですね!!」
「ええ。アリアさんのために一刻も早く戻ってこようと思いましてね」
「ハハハ。もう、冗談ばっかり~」
あー……、私この人苦手なのよね。
いつも私の事変な目で見つめてくるし、なにより自分がいけてると勘違いしてるところがもう……。
そう考えつつもアリアはマルティオへいつものように作り笑顔を浮かべると、差し出された腕の文字に手を重ね、そこに刻印された文字を読み取る。
すると腕の文字は光を放ち始め、ゆっくりと腕から消えていった。
「はい、これで完了ですね! それにしても魔狼、その群れを討伐するなんて流石ですね。ではこれが今回の報酬、金貨10枚です」
アリアは受付の下から袋に入った金貨を取り出すと、それをマルティオに差し出した。
「いやいやー! そんなに褒めても何も出ないですよ? そうだこれ、アリアさんに似合うと思って採ってきたんです!」
マルティオが金貨を受け取り手のひらを上に向けると、その上に魔法陣が浮かび上がり、その中から鉱石で出来た美しい花が現れる。
マジック・ボックス。魔力量が上がれば、小さな竜程度なら入れることが出来る程多くの物を入れて持ち運べる、竜騎士を始め、魔導士や冒険者にとっては重要な魔法の一つである。
「あ、ありがとうございます。これは鉱石花ですか??」
「そうです!! 街で買うと金貨5枚はするというあの鉱石花です。ハハハハ、いや気になさらないで下さい。あなたに喜んでいただけるならいくらでも取ってきますから」
アリアが差し出された鉱石花を受け取ると、周りの竜騎士達から歓声が上がる。
その声にマルティオは頭に手を当て、アリアを横目に見ながら笑い声を上げるのだった。
あー、本当に面倒くさい。
こんなもの貰ったって、どうすんのよ!!
いや、新しい服が欲しかったし、その資金にでもするかしら。
マルティオのその姿にアリアが内心とは裏腹に笑みを浮かべていると、入り口の扉が勢いよく開いた。
その場にいた全ての者が視線を向けたそこには依頼を終え戻ってきたウィルバルトとヴェストニアがいたのだった。
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「……あっ! ウィルバルトさん!! おかえりなさ」
ウエェェェェェ……!!
その姿に気づいたアリアが声をかけようとすると、俺は入り口の近くにあった空の酒樽の中に駆け寄り、今朝ヒラ村で食べた物を戻す。
その突然の出来事に、周りで騒いでいた竜騎士達も一瞬で静まり返った。
「……おい、見ろ。確かあいつが初めて卒業検査で7級竜騎士になった奴だ」
「嘘だろ? あんなチビが俺と同じ階級なのか? 何かコネでも使ったんじゃないのか?」
「俺もそう思うぜ。見ろよ、頭の上の生き物。あれが奴の契約した竜らしいぜ? あれならそこら辺の冒険者の方が役に立つんじゃないか??」
いつものように俺の卒業検査でのことを見ていない竜騎士達はその姿に冷たい視線を送っている。
しかし俺はそう言った視線や陰口の耐性が出来ているためは、吐き終わりすっきりするとゆっくりと受付に向かい歩き出した。
「全く、お前と言う奴はいつになったら慣れるんじゃ」
「いや、お前が早すぎるんだよ。 しかも、途中何度も回転しやがって……。 うっ、思い出したらまた吐き気が」
「ガハハハハ!! あれは飛んでいると何か楽しくなってしまってな! 許せウィルバルト。それよりも早く依頼完了の報告を……、何じゃお前は??」
俺が口に手を当て進んでいると、突然誰かに進路を塞がれその大きな人影にぶつかった。
それは俺にとっては忘れたくても忘れることは出来ない相手。
「……マルティオ」
「よお、ウィルバルト! お前も依頼を受けていたんだな!! まぁどうせ小妖精を追い払うとか、そんなところだろ??」
ハハハハハ!! マルティオの言葉に周りで様子を伺っていた竜騎士達から笑い声が上がる。
しかしいつもと違うのは、俺の魔力検査での出来事を目の当たりにした一部の卒業生達が同調しなかったこと。
これだけでも俺には嬉しいことだ。
俺はマルティオに答えることなく受付へと足を進めた。
「アリアさん。依頼完了しました! 確認してもらえますか??」
「え、あ、はい! では腕を見せてくれますか??」
俺が腕を差し出すと、アリアは先ほどと同じようにその文字に手をかざし文字を読み取っていく。
その姿に、呆気に取られていたマルティオは顔を紅潮させながらウィルバルトの背後から襲い掛かった。
「おい!! 落ちこぼれの癖に俺を無視してんじゃねぇぞ!!」
「あ、危ない!!!」
「ほげぇ!!」
シュッ……。 マルティオは右腕を振りかぶると、俺の頭へ拳を振り下ろした。
しかしアリアの声でマルティオに振り返らずに頭を下げその攻撃を避けたため、運悪く頭の上に乗っていたヴェストニアには拳がクリーンヒットし、奇声と共にヴェストニアは地面に叩き落された。
「むぎゅう」
「あ、ごめん大丈夫か……?」
急いでヴェストニアを抱き上げるが、既にヴェストニアは完全に気を失っていた。
こいついつもこんな目に合ってる気が……。
また、その一連の光景を眺めていた周りの竜騎士達は先ほどとは打って変わり、ウィルバルトの動きに言葉を失う。
すぐ近くでその動きを目の当たりにしたマルティオもその一人だった。
「ウィ、ウィルバルトさん。この子大丈夫ですか??」
「あ、はい! こいつは見かけによらず頑丈なのですぐ気が付きますよ!!」
「なら良かった……。 あ、それと依頼完了、確かに確認しました! これが今回の報酬金貨2枚です!」
俺はヴェストニアを左わきに抱えると、笑みを浮かべながらアリアが差し出した金貨2枚を受け取った。
おぉぉぉぉ!! 初の報酬!!
何に使おうかな……。いや、やっぱりこれは記念として取っておくべきか??
あ、そう言えば……。
「アリアさん。今回の依頼には入ってなかったんですけど、確か魔物の討伐は種類に応じて特別報酬が出てましたよね?」
「ええ、そうですよ。ウィルバルトさんへの今回の依頼は魔巨人の討伐。それ以上の魔物を任務中に討伐した場合は特別に協会から報酬が出ることになっています!」
「よかった!! なら、これ見てもらってもいいですか??」
ドンッ!! 俺は受付の隣のスペースに手を向け魔法陣が浮かび上がらせる
そこからは上位魔巨人の頭部が現れ、その姿に竜騎士達からはどよめきが起こるが、アリアは慣れているのか上位魔巨人の頭部に近寄り鑑定を始めた。
「これは……、上位魔巨人ですね? なるほど、だから最近ムストルの沼地での魔巨人討伐の依頼が多かったのね」
「そうです。それでどうですかね、これは追加報酬の対象ですか??」
鑑定を終えたアリアは笑みを浮かべながら答える。
「はい! 上位種は全て追加報酬の対象になっています! 今回だと金貨8枚の追加報酬ですね」
「そ、そんなにもらえるんですか??」
「もちろんですよ! 上位種は全て通常の個体の数倍の報酬額が設定されています。これでも少ないかもしれませんよ」
おぉぉぉ!!! アリアの言葉を聞いた周りの竜騎士達からは驚きの声が上がる。
しかし、それを後ろで聞いていたマルティオは面白くないのか俺に詰め寄ってきた。
「ふざけるな! なんでお前みたいな落ちこぼれが上位魔巨人なんて討伐出来るんだ! そうか分かったぞ!? お前の代わりに誰かが依頼をこなしたんだろ?! こんなの不正じゃないか」
こいつ、ここまで言われるのは流石に心外だ!
いつまでも自分が周りよりも上だと思いやがって。
怒りで我を忘れたマルティオは上位魔巨人の頭を蹴り飛ばそうとしたため俺は止めに入ろうとしたが、それよりも先にアリアが目にも止まらない速さで阻止をした。
そしていつもの様な笑顔ではなく、マルティオを蔑むような目を浮かべマルティオの首元を掴んだのだ。
「不正ですって?? あなた私達が信用できないって言うの?? 契約紋の前では誰にも不正は出来ない。それでもまだそんなことを言うのなら、ここへの立ち入りを禁止するわよ、坊や?」
「い、いや、それは……」
「さぁ、どうするの?」
「……くそっ! ウィルバルト、覚えてやがれ!!」
マルティオはアリアの冷たい目に額から大量の汗が噴き出していた。
しかしなんとかアリアの手を振り払うと、ウィルバルトを睨みつけながらその場を後にしていった。
「さぁ、ウィルバルトさん! これが追加報酬です! これからも頑張ってくださいね!!」
「あ、ありがとうございます、アリアさん」
アリアさん、怖い……。
俺は何もなかったように笑みを浮かべるアリアの姿に、彼女を絶対怒らせるようなことは決してしないと心に決意するのだった。
 




