決着のときは突然に
「俺達をまとめて相手にするだと?? 随分と舐められたものだな」
俺達の姿を見た上位魔巨人が大きく笑い声を上げると、周りの魔巨人達も続けて笑い声を上げていく。
おぉ……! あれが上位魔巨人か!!
確かに他の魔巨人よりも体が大きい。それに他の魔巨人がどこか奴に怯えているように見える。
俺が周りを取り囲む魔巨人を見渡しながらそんなことを考えていると、ヴェストニアが頭の上から飛び降り、上位魔巨人を指差した。
「ガハハハハ、舐めているのはお前の方だ。たかが魔巨人の分際で私達に歯向かうなど100年、いや1000年は早いというもの」
「な、なんだと!? いや、それよりさっきからなんだお前は?! 見るところ後ろの人間は竜騎士の様だが、まさかこいつがお前の竜か??」
「……そうだけど」
胸を張るヴェストニアとその姿を冷めた目で見つめる俺を交互に視線を移した上位魔巨人は、この日一番の笑い声を上げた。
「お、お前が竜だと?? ハハハハハ、こんな竜がいるのか」
「な、何じゃ!! 失礼な奴だな!!」
「ひぃ、ひぃ……。わ、分かった、もういい。お前達、そいつらは好きにしていいぞ。俺は食事の続きをする。」
上位魔巨人は涙を拭いながら再び地面に腰を下ろすと、隣に置かれている檻の中から捕まっている人間の1人を掴んだ。
上位魔巨人の言葉を聞いた周りの魔巨人達は俺達に笑みを浮かべながら徐々に近づいていく。
「ゲヘへへへ……。人間の方は俺のもんだ! お前達にはそのチビの竜をくれてやる」
「おい! 人間は俺のもんだぞ!! お前こそあっちの竜にしろ!!」
魔巨人達は誰が俺を食べるかで争いだすと、その内の一体が他を出し抜き俺の体を掴み上げると、急いで口に運ぼうとした。
うわぁ、口の中汚いな……。
こんなところに入るくらいなら死んだ方がマシだな。
俺は迫ってくる魔巨人の口の中を覗くと、その汚さと臭いに顔を歪ませる。
その光景を見つめていた周りの魔巨人も気を取り直すと俺を奪おうと一斉に俺を食べようとしている魔巨人の元に駆け寄ってきた。
でもこれはいい機会かも知れない。ヴェストニアの魔力の影響で、俺が今どの程度の力を持っているのか確かめるには絶好の相手だろう。
魔巨人が20体、そうそうお目にかかれない数の魔族だからな。
バチンッ!!!!
俺は笑みを浮かべると、いとも簡単に自身の体を掴む魔巨人の手の中から抜け出し強烈なデコピンをその魔巨人に喰らわせた。
洞窟内に鈍い音が響き渡り、魔巨人は額を陥没させ気を失う。
そのあまりに一瞬の出来事に、こちらに駆け寄ってきていた魔巨人達はもちろん、食事を再開しようとした上位魔巨人さえも言葉を失い、俺から目が離せないようだ。
「まじか」
しかし一番驚いていたのは何を隠そう、俺だった。
俺は魔力検査の際に放った火弾を思い出し、魔力は使用したが出来るだけ手を抜いたつもりだ。
痛がる程度と考えていたただのデコピンが魔巨人を気絶させるほどの威力だとは思ってもいなかったのだ。
「ほう、やるではないか俺!! 流石は私の相棒だな!!!」
「いやいやいや!! さっきの見てた? ただのデコピンだよ? ただのデコピンが魔巨人を気絶させるっておかしくない?!」
俺は地面に降り立つと、いつものように頭の上に飛び乗ってきたヴェストニアの顔を掴み、力いっぱい握りしめながら声を荒げる。
「ぐ、ぐるじい」
「あっ、ごめん」
変形したヴェストニアの姿を目にし我に返った俺が手を離すと、ヴェストニアはなんとか息を整えていく。
「ふぅ。しかしお前が驚くのも分かるぞ! 私もここまで魔力量が向上するとはおもっていなかったからな」
「そ、そうなのか?? じゃぁ何でこんなに力が強くなっているんだ??」
「……そうだな」
ヴェストニアは再び俺の頭の上に移動すると、いつものように腕を組み考えた後答え始めた。
「恐らくだが、私がこの姿なのが原因かも」
「どういうことだ??」
「私はこの姿だと力も魔力も大きく制限されるからな。魔力を使うと言えばお前を掴み空を飛ぶ時くらいだ。そうなると、有り余った私の魔力が必要以上にお前の中に流れ込んでしまうのかもしれん。まぁ、元々ウィルバルトは魔力が極端に少なかった。それらが重なり、これまで魔力に晒されてこなかった体がかなり強化されてしまっているのだろう」
な、なるほど。
確かに以前の俺には魔力が殆ど無かった。他人に言われるのは少し癪だけどな。
俺とヴェストニアが同じように何度も頷いていると、ようやく気を取り直した上位魔巨人が声を上げる。
「……き、貴様!! 一体何をしたのだ!!!」
「えっ?? いやなにって、デコピン」
「そんなわけがないだろう!! たかがその程度の攻撃で我らがやられるなどあるわけがない」
ガシャンッ!! 上位魔巨人は湧き上がってくる怒りに、隣に置いてある人間が入れられている檻を勢いよく蹴り上げる。
その衝撃で、その中に入れられていた人間達は悲鳴を上げながら次々と意識を失ったようだ。
な、なんてことを。早く手当てしないと……!!!
「お前達! もう手加減なんてするんじゃねぇぞ!! 一斉にこいつらに襲い掛かり、俺達に歯向かったことを後悔させてやれ!!」
グァァァァァァァ!!!
上位魔巨人の言葉で、俺の周りを取り囲む魔巨人達は武器を手に取り雄たけびを上げると、一斉に俺達に襲い掛かった。
「ウィルバルト、後ろじゃ!!!」
「ああ、分かってる、よっ」
俺は空中に飛びあがり背後からの攻撃を避けると、洞窟の天井を勢いよく蹴り、魔巨人の頭部目掛けて右足を振り下ろす。
その攻撃を受けた魔巨人は、一瞬で頭部を破壊され、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「……ッ!!!!!」
俺の人間離れした動きを目にした魔巨人達は、足を止めると攻撃を行うことを躊躇し始めたようだ。
よし……、こいつらビビり始めてるな。
流石に数も多いからな、これ以上戦うのは正直疲れる。
俺は、小さく息を吸うと、周りの魔巨人達にある提案をした。
「お前達! ここから立ち去り、二度と人間に危害を加えないというなら、俺はこれ以上お前らに手は出さない。どうだ、悪い話じゃないだろう??」
ザワザワッ……。俺の思いがけない提案に魔巨人はお互いの顔を見合わせ声を上げ始めるが、背後でその話を聞いていた上位魔巨人が声を上げると一瞬でその場は静まり返った。
「人間風情が、俺達魔巨人を見逃してやるだと?? お前達はただ俺達に食われていればいいのだ!! お前達、これ以上舐めた真似をさせるな!! 避ける隙間がないほど同時に攻撃を加えろ!!!」
……グォォォォォォ!!!
その言葉に魔巨人達も覚悟を決めたようで、雄たけびを上げ再び俺達に攻撃を開始した。
「ちっ、やっぱりだめか」
俺としては、上位魔巨人さえ倒せればそれでよかったんだけどな。
迫ってくる魔巨人に備え攻撃の準備をしようとすると、ヴェストニアが頭の上から地面に降り立った。
「ふぅおいウィルバル。確か私の正体は人間にバレたらマズいんじゃったな??」
「……あ、ああ。でもここにも捕えられている人達が」
あっ、全員気絶してるのか。
てか、もしかしてあいつ……!!
「では後は私が引き受けてやろう。光栄に思うがよい魔巨人。お前達は死ぬ前に偉大な相手と戦えたのだ……、この破壊竜 ヴェストニア様にな!!」
ブォォォォォォォ!!!
俺がヴェストニアの考えていることに気づいた瞬間、辺りに突風が吹き荒れ、先ほどまでの可愛らしい風貌ではない神殺しと恐れられた破壊竜ヴェストニアが姿を現した。
その身体はこの大洞窟の高い天井まで到達しそうなほどの巨体であり、その姿を目にした魔巨人達はみるみる表情が曇っていく。
「ま、ま、まさか……。いや、あり得ない!! なんでこんなところにあのヴェストニアがいるんだ」
「ガハハハハハハ!! その通り、私の名はヴェストニアだ。どうした? 先ほどまでの威勢はどこにいったのだ??」
「どうして神殺しが人間なんかと」
自身の目の前まで顔を下ろしたヴェストニアの姿に、上位魔巨人は息をのむと、その額からは大量の汗が吹き出ている。
そこで上位魔巨人はここまで行ってきた自身の言動を思い出し、恐る恐るヴェストニアに口を開いた。
「……お、俺が悪かった。もう二度と人間には手を出さない。だからどうか」
「……私に謝っても仕方ないであろう。それにお前は人間を殺し過ぎだ。最早許される域を超えておる。今度生まれ変わった時に、悔い改めるのだな……、竜の息吹(ドラゴン・ブレス)」
「グァァァァァァァ!!!!」
ヴェストニアは話し終え、震える上位魔巨人を始めとする魔巨人達に自身の息を吹きかけた。
その息を浴びた魔巨人達の身体から次々と炎が上がり、一瞬で魔巨人達は燃え尽きたのだ。
「……これで少しは食われた人間達もうかばれるであろう」
ヴェストニアは魔巨人達が死んだのを確認すると、再び辺りを包み込む風と共にいつもの小さな姿に変化し、俺の頭の上に飛び乗る。
「……お前、本当はいい奴なんだな」
「う、うるさいぞ!! ほら、手加減してやったからな、捕らわれている人間達は無事だ。彼らを連れて早く戻るんじゃ!!」
破壊竜ヴェストニアか……。
もしかしたら、そう言われる原因になった神殺し。それも何か理由があったのかもしれないな……。
ハハハハハハッ!! 俺は頭の上で顔を赤らめるヴェストニアに笑い声を上げると、気絶している人達の元へと足を進めていった。
 




