048 閉店
急な終わりになってしまい申し訳ございません。
「2人とも、急な話でごめんね」
ジンはミキとアオイに頭を下げる。
「店長、気にしないでください」
「そうですよ。こんな時ですし…」
今や世界中で猛威を振るうコロナウイルスの為、東京でも緊急事態宣言が出される予定だ。そうなるとジンの店のように小さな店は『自粛』せざるを得ない。先のが見えない緊急事態なので何時店を開けることができるか見当もつかない。
それを踏まえてジンは閉店を決断したのだった。理由は他にもあるのだが…。
「最後に美味しい物でもと思ったんだけど、この状況ではね…」
「店の食材も無いですし…」
ジンは慣れないマスクをしながら再び『申し訳ない』と頭を下げる。
「また店を開けれるようになったら絶対連絡下さいね!」
「…ああ、その時が来たらよろしくな!2人とも、身体には気をつけろよ!」
2人は後ろ髪を引かれるように店を出ていく。そんな2人を見送ったあとにジンはひとりごちる。
「多分、そんな時は来ないんだけど…ね」
実はジンはコロナウイルスにかかっている疑いがある。先週からだんだんと味覚が無くなっているのだ。
ジンの症状は下痢、味覚麻痺、喉の痛みであった。特段他者と濃厚接触することもなく、嗅覚はあり熱も精々微熱であった。
もちろん保健所に問い合わせをし、医療機関へ受診したのだが診察すら受けられなかったのだ。
厚生労働省が出しているマニュアルでは『熱が37.5℃以上であること』、『海外渡航者であること』の条件がないと検査することがないらしい。
熱が無いジンは医療機関の受付で診察すら無く風邪薬の処方箋を出されただけである。もちろんセカンド・オピニオンを試みるも検査することはなかった。これが4月6日現在の東京都の実情である。
料理人として、味覚が無いのは致命的である。最初は舌が荒れているだけと思っていたが、先日『辛さ』と『熱さ』の区別ができない事にジンは絶望した。おそらく、微妙に感じていた味覚は『記憶の反射』に過ぎなかったのだろう。そんな状況で人に料理を出すのは不可能であった。
ジンの場合、診断されていないため正式にはコロナウイルスに罹患している訳ではないがこの状況で店を続けることはできない。その上この度の緊急事態宣言である。
「閉店作業は終えたし…しばらくは自宅で引きこもりだな」
ジンはおそらく二度と振るうことのない包丁を丁寧にしまい、店をあとにするのだった。
保健所、医療機関の対応は実話です。
なっしーはおそらく今後、美味しそうな料理を作ることはできるでしょうが、ホントに美味しい料理を作ることはできないでしょう。
もちろんコロナが快癒すればいいのですが、いつになることやら…。
もちろん医療機関の判断通りただの風邪の可能性もなきにしもあらずですが…。
検査が出来ないのは不安ですね。
そんなわけで『美味しい物はお好きですか?』を最後までお読みいただきありがとうございました。
ジン、ハッピーエンドにできなくて済まない!




