015 台風
8月、久々の台風上陸で東京も朝から豪雨である。
雨の量もさることながら、風の勢いがすごく傘が役に立たない!
こんな日はお客様も少なくランチタイムもまばらであった。
「ミキちゃん。今日はお客様も少ないし電車が止まる前に帰る?」
「コレからがヒドイんでしたっけ?」
「うん、今名古屋辺りだって」
スマホを見ながら答える。
東京の電車は雪と風に弱い。止まると自宅に帰るのに通常よりかなりの時間がかかる。
「うん、今日は早引けさせていただきますね」
「気をつけて帰るんだよ!」
ミキは急いで着替え済まし帰宅していく。
ジンは一人残るが外はまだ大雨である。
「まあ、俺は歩いて帰れるからいいけど…、お客様は来ないかな?」
スマホを見つつ独り言ちる。
18:00を過ぎても店は閑古鳥状態である。
仕方ないので看板を片し始めると、
「もう終わるんですか?」
20代くらいのOLが声をかける。
傘が役に立たなかったのか、ずぶ濡れである。
「お客様ですか?まだ大丈夫ですよ!」
2人は店に入り、
「台風で大変だったでしょう」
ジンはフェイスタオルを渡す。
「ありがとうございます。電車も止まっちゃってて、タクシーもつかまらなくて…」
「そうですか、ウチは飲食店ですが大丈夫ですか?」
「ええ、お腹も空いちゃってますので…、メニューは無いのですか?」
「そうなんです。ウチはその日その日でメニューを変えているので…、今日はお茶漬けの日です」
「お茶漬けですか?」
「ハイ!鮭茶、タラコ茶、タイ茶漬け。スペシャルはブリ茶漬けです。個人的には鮭茶漬けですね」
「じゃあ、鮭茶漬けをお願いします」
鮭茶漬け…ご飯に焼き鮭の解し身を乗せて出汁を入れる。イクラを入れてアラレをパラっと。
鱈子茶漬け…ご飯にタラコを乗せて出汁を入れる。アラレをパラっと。
鯛茶漬け…ご飯と胡麻ダレに漬けた鯛を小皿に乗せ、出汁も別にだす。茶漬け前も楽しんでもらう。
鰤茶漬け…ご飯に鰤の刺身を乗せ出汁を入れる
出汁…昆布、鰹節、塩、醤油で薄口の出汁を作る。
「ええ!イクラが乗ってる?」
「北の方じゃ味噌汁にもイクラを入れるらしいですよ」
「へー、ではいただきます!」
女性は一口食べると、
「んー!美味しい!出汁が上品で鮭の味を引き立ててますね!」
「たまたまですが、冷えた身体を温めてくれますよ」
「お茶漬けでこんなに感動したのは初めてです!」
「それは良かった!…まだ雨は強いようなので1杯飲んで行きますか?」
「お酒も有るんですか?」
結構イケる口のようである。
「ええ、ワインに日本酒、ビールにお好みカクテルがあります!」
「カクテルもあるんですか!じゃあそれを!」
「何を作ります?」
「あまりお酒は詳しく無いんですが…」
「では、普段はどんなお酒を飲んでます?好きなフルーツは?」
「普段はビールとかウーロンハイとかでメロンとか好きです!」
「じゃあメロンボールかな!」
メロンボール… ウォッカ 20ml、ミドリ 40ml、オレンジジュース 80ml 、氷を入れたタンブラーに注ぎ、軽くステア
「キレイ…ん!美味しい!」
「甘くてもお酒だから飲み過ぎないようにね」
外はまだ雨足は強いが、店内にはホッとする空気が流れていた。
…メロンボール、スラングで『巨乳』なのはナイショだ!
 




