001 いらっしゃいませ!
2018年、東京…。
今、街には色々なジャンルの飲食店がある。
地方の料理はもちろん、フランス、イタリア、中華…世界中の料理が味わえる。
もちろん、本格料理もあれば、なんちゃって料理、日本人に合わせてアレンジした料理もある。
各店は回転率を上げたり、食欲をそそる壁紙を使用したり、高級感を出したりと工夫をしている。
現在もっとも効果があるのは『ネット』である。口コミ、割引、星の数…。特に有名人のブログに乗れば一躍有名店となる。
そんな東京は池袋。東口駅前の大通りである『明治通り』から少し離れたビルの地下にその店はある。
無ジャンル、メニューもその日の仕入れ次第、写メ・ネット書き込み禁止。
今時ありえない店である。
店主は気難しい職人気質と思いきや意外と若い40代でキッチンを勤める。スタッフはバイトだろうか、ホールに1人、女性で20代といったところか。
店内はテーブルが3つ、カウンターが5席と狭い印象である。
カランと店の入り口であるドアが開くとサラリーマン風の2人組がテーブル席に着く。
「いらっしゃいませー」
女性店員が水を運ぶ。
この店の『お冷』はピッチャーの中にレモンが入っておりレモン水になっている。
昔はカルキ臭を誤魔化す為にレモン水にしている店もあったが、浄水器の普及で今ではレモン水にする店は少ない。
おそらく食欲増進のためであろう。
メニューは無く、女性店員は
「本日はシャケ料理になります」
と口頭で伝える。
「シャケか…、店長!シャケ料理ならなんでもOK?」
「料理によっては時間をもらいます。昼休憩なら『海鮮親子丼』か『ハラコ飯』がオススメです。お値段は両方とも1000円で」
薄髪の男は少し悩み
「俺はハラコ飯」
「じゃあ俺は親子丼、大盛りで」
「毎度っ!」
店長は丼に2種類の炊飯器から大盛りの『白米』と『炊き込みご飯』をそれぞれの丼り入れる。
ハラコ飯…北海道で作られる料理で、醤油や味醂と一緒に鮭を煮込んだ煮汁で炊き込んだご飯の上に、焼いた鮭の身とイクラを添える丼である。
海鮮親子丼…白いご飯の上にサーモンの刺身とイクラの醤油漬けを乗せる。この店ではトロサーモンと炙りサーモンを使っている。
「ハイ、ミキちゃん!お運びよろしく!」
「ハーイ!」
女性店員のミキは味噌汁をついで料理を運び。
「おまたせしました!」
「おおっ、来た来た!」
「どーも」
男達は自分の頼んだ料理に目をやる。
「へー、ハラコ飯も美味しそうですね」
「親子丼もいいな!」
それぞれ相手の頼んだ料理にチョット後悔しているが、
「「いただきます」」
「ん!美味いっ」
「イクラうまっ」
と箸が止まらないようである。
「ん?この味噌汁に中骨が入ってる!」
「ああ、それは水煮なので骨も食べれますよ!」
ミキが解説する。
この店では圧力鍋を使い中骨も食べれるようにしてある。もちろん身付きの中骨なので鮭の身も付いている。
2人とも全て完食したようだ。
するとミキがテーブルに近づく。
「食後のお茶はいかがですか?」
「え?水じゃなくてお茶があるの?」
「ええ、来店時は外が暑いのでお冷で今日は日本料理なのでお茶です」
「へー、いいサービスだね」
「お会計2000円になります」
「消費税は?」
「ウチは払いやすいように内税です」
「ココは俺が払う。ほい、ごっそーさん!」
「ありがとうございましたー」
2人の客が帰っていく。
まだ今日の営業は始まったばかり。店長は下げた皿を洗いキッチンに立っている。