エピローグ
「和樹~~!行くぞ」
「ちょ・・ちょっと待って。今、行くから」
俺と和樹は、通学のため、家の玄関を出ようとしていた。
「ったく~~遅刻すんぞ!」
「はいはい、お待たせ」
和樹は急いで靴を履いていた。
そして俺は、ドアの鍵を閉め、二人で駅に向かった。
俺と和樹は今、一緒に暮らしている。
狭い部屋に大男が三人は、多少きつかったが、それでも毎日が楽しくて仕方がなかった。
俺たちは高校三年生として、同級生になっていた。
「たけちゃーん、和樹くーん」
翔が俺たちを追いかけてきた。
「ようー」
「翔くん、おはようー」
和樹はアル中も無事克服し、もちろん体重も元通りになり、すっかり以前の和樹に戻っていた。
そして和樹は、跡目から解放されたこともあり、性格も多少、変化していた。
「和樹くん、新刊読んだ?」
「あっ!あれ、もう終わるんだよね」
「そうなんだよ~、僕、淋しくってさあ」
翔と和樹は、あの、ヤクザ漫画の話をしていた。
どうやら、もうじき、話が完結するようだ。
俺はその話を聞いてて、やっぱりどこか、和樹と重なる気がしていた。
「一輝ってやつは、その後、どうなってんだ?」
俺が翔に訊いた。
「めでたく組長になったんだよ」
「へぇー、そうか」
そこは、和樹と違うんだな。
そりゃ、そうだ。
やがて校門に着くと、紫苑が立っていた。
「紫苑、おはよ~」
俺は紫苑の頭を撫でて、からかった。
「時雨くん、触るなと何度言えばわかるんだ」
「だって~、お前、かわいいもん」
「ばっ・・バカなっ!」
「紫苑くん、おはよう~」
翔がそう言った。
「紫苑くん、今日もご苦労様」
和樹がそう言った。
というのも、紫苑は生徒会長になり、毎朝こうして、生徒の登校を「監視」しているのだ。
「きみたち。今月の目標を心得ているのだろうな」
「っんな・・堅苦しいこと言うなって」
「時雨くん・・きみって人は、全く・・」
「はーい、今月の目標ね。それは和樹くんがとっくに達成してるよ」
紫苑の言う「今月の目標」とは、全教科に於いて出される小テストの点数が満点であること、なのだ。
いかにも、成績優秀に拘る紫苑らしい目標設定だった。
「それは知っている。僕はきみたち二人に忠告しているのだ」
「きみこそ、どうなの?」
和樹がそう言った。
「そ・・それは・・」
紫苑が口籠った。
「頑張ってね、会長!」
和樹はそう言って、先を歩いて行った。
「ふふ・・紫苑。おめぇは和樹には適わねぇな」
「う・・うるさい!僕は、二教科落としただけだ」
「お前って、ほんと変わってるよな」
「なんだと」
「だってさ、もう~探偵ごっこやらせたら、右に出るもんはいねぇのに、勉強は・・」
「探偵ごっこだと?心外だな。あれはだな・・」
「はいはい、紫苑くん、そこまでね」
翔がそう言い、俺を引っ張って歩いた。
振り向くと紫苑は「イ~ッ」という顔をしていた。
あはは、子供かよ。
紫苑がなぜ、探偵ごっこに長けていたかというと、紫苑の親父は警察官僚なのだ。
和樹の件で、親父の力を借りたわけではないが、ノウハウは知っていたらしい。
俺はそれを聞いて、ものすごく納得した。
紫苑はやがて、その道へ進むのだろう。
俺の将来か・・
今は漠然とした考えしかないけど、俺は、親のいない子供たちのために、何かをしたいと思っていた。
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最後までお読みくださり、ありがとうございました。