七十三、ゲームの開始
「今日も行くぞ」
翌日の放課後、紫苑がそう言った。
俺たちは校門で待ち合わせをし、ちょうど紫苑が来たところだった。
「紫苑くん、動画の猶予が今日と明日だけなんだけど、それまでに和樹くんを助け出せなかったらどうするの?」
翔が心配そうに訊いた。
「その時は、直接AVの動画でも送ってやるさ」
「え・・どういうこと?」
「それより、一刻も早く助け出さないと、東雲くんは相当まいってるぞ」
昨日も紫苑はそう言っていた。
和樹に「生気」がないと。
実は俺も、動画のことなんて、どうでもよかった。
それよりも和樹を助け出さないと、マジでヤバイ気がすんだよ・・
そして俺たちは、ガラ受け女のアパートに着いた。
昨日と同じように、105号室が見える物陰に身を隠した。
すると、三十分ほどが過ぎた時、成弥と女が部屋から出てきた。
そして二人は腕を組んで、どこかへ歩いて行った。
「よし、今だ」
紫苑はそう言って、真っ先に駆けて行った。
俺と翔も、すぐさま後に続いた。
ガチャガチャ・・
ドアノブに手をかけると、鍵がかかっていた。
「くそっ・・おい!かず・・」
俺が中にいる和樹を呼ぼうとしたら、紫苑に服を引っ張られた。
「なにすんだよ」
「大声を出すんじゃない」
「え・・」
すると紫苑は、鞄の中から一本の針金を取り出した。
「これは、さすがに気が進まないが・・」
紫苑はそう言って、鍵穴に針金を突っ込んで、右へ左へ静かに回していた。
カチャ・・
わっ・・開いたぞ・・マジか!
「入るぞ」
紫苑はそう言って、土足で入って行った。
俺たちも後に続いた。
すると汚い六畳の和室に、和樹は横になって寝ていた。
「和樹、和樹!」
「和樹くん!!」
俺と翔は和樹を抱きかかえ、名前を呼んだ。
「起こしている暇はない。運び出すんだ」
そう言って紫苑は、玄関の方へ走って行った。
「よし、翔、運ぶぞ」
「うん、わかった」
俺と翔は和樹を立たせ、和樹の腕をお互いの肩に乗せ、急いで玄関へ行った。
和樹・・もうすぐだからな・・助けてやるからな・・
玄関を出ると、紫苑が「こっちだ」と手招きをしていたその時だった。
紫苑が成弥に捕まった。
「紫苑!!」
「よーう、時雨くん。舐めた真似をやってくれるじゃないか」
「成弥・・てめぇ・・」
「た・・たけちゃん・・」
翔が声を震わせて、俺の方を見た。
すると翔の後ろに、見知らぬ男が立っていた。
その男は翔にナイフを突きつけていた。
「翔・・」
「こいつを渡せ」
その男が、和樹を渡せと要求した。
「こっちの小さい方を刺してもいいのか」
男がそう言った。
「たけちゃん・・たけちゃん・・」
翔の足は、ガタガタと震えていた。
くそっ・・どうすればいいんだ・・
「健人くん・・」
すると和樹が俺の耳元でそう言った。
「僕は・・いいから・・」
和樹はそう言って、俺から離れようとした。
「和樹!なに言ってんだ!」
俺は和樹を離そうとしなかった。
「翔くん・・殺されるよ・・」
「和樹・・」
「僕は・・いい・・」
「バカっ!」
「痛いっ・・!」
翔が叫んだ。
すると、翔の腕から血が流れていた。
「てめぇ!なにしやがる!」
俺は和樹を離し、その男に殴りかかった。
すると男はナイフを落とし、それを急いで翔が拾った。
よし・・和樹だ・・
「おあいにくさま、和樹くんはこっちに戻ってきました~」
成弥が和樹を捕まえて、ナイフを突きつけていた。
「和樹くんは~俺たちと遊ぶ方が好きなんだってさ~」
「成弥!!いいかげんにしろ!」
そこで翔が電話を取り出した。
「そっちの子、余計なことすると、和樹くんを刺すよ。これマジだから」
すると翔は、慌てて電話をポケットにしまった。
「おい、長田、お前はもういい、帰れ」
成弥が男にそう言った。
「へーい、坊ちゃん」
男はそう言って、去って行った。
坊ちゃんってことは・・あいつは西雲のやつだったのか・・
「さあてと・・ゲームを始めようか」
成弥は氷のような笑みを浮かべて、そう言った。
「ゲームと言ったな。成弥くん」
紫苑がそう言った。
「そうだよ、電気屋さん」
「ふっ。バレてたという訳か」
「ここでは人目につく。近くの倉庫へ移動するぞ」
成弥はそう言って、和樹にナイフを突きつけたまま、歩き出した。
「翔・・大丈夫か?」
「うん、ちょっと切られただけだから平気」
俺たちも成弥の後に続き、やがて誰もいない使い古したような倉庫に入った。
「さてと・・なにから始めるかな」
成弥はまた、冷たい笑みを見せた。
「言ってくれ、成弥くん。ゲームとはなんだ」
「電気屋さん、きみは部外者だよ」
「そうではない。僕は当事者だ」
「まあ~この俺を騙して不法侵入したという意味では、当事者だが、でもきみには関係ないよ」
「僕から逃げると言うのだな」
「電気屋さん、俺にその手は通用しないよ」
成弥にそう言われ、紫苑は悔しそうにしていた。
「成弥・・こんなことして、てめぇ、今度こそ一生、出てこられねぇぞ」
「あはは、俺はもう、ヘマはしないよ」
「てめぇ・・この俺が目的なんだろ。俺が人質になるから和樹を離せ」
「ヤダねぇ・・ったく・・。お前みたいなバカは、人質にする値打ちもないよ」
「っんだと!!」
「さあ、和樹くん、こいつらにはっきりと言ってやったら?もうお家には帰りたくないんだよね~」
和樹は立ったまま、ずっと俯いていた。
「ああ~、こうして和樹くんを支えているのも、疲れた。マジで眠ってもらおうっと」
そう言って成弥は、和樹のみぞおちに一発食らわした。
そして和樹は倒れた。
「てめぇぇ~~~!!なにしやがる!」
「一歩でも動くと大変なことになるよ?」
成弥は和樹の喉元に、ナイフを突きつけた。
「ああ~~これで随分楽になった」
「て・・てめぇというやつは・・」
「さて・・ここからホントのゲーム開始と行こうか」
「どうするつもりだ・・」
「東雲を呼べ」
「え・・」
「但し、親分一人で来ること。そして警察には連絡しないこと。裏切った時点で俺はこいつを殺す」
爺さんを呼べだと・・?
なにを考えてるんだ・・