七十二、和樹の居場所
「紫苑だ」
三度、紫苑から電話がかかってきた。
「たった今、動画をアップしたから、成弥に伝えるんだ。いいか、アドレスを言うぞ」
「ちょっと待って」
俺は翔に、メモするように指示した。
「-----だな。わかった。じゃ、今から成弥に電話する」
「よし」
そして俺は電話を切り、成弥にかけることにした。
「たけちゃん、落ち着いてね」
「うん」
ぶっ殺してぇ・・成弥の野郎・・
「なんだ」
成弥はすぐに出た。
「動画をアップした」
「ほうー、そうか」
「アドレスを言うから」
「ちょっと待て・・。よし言え」
「えっと・・------だ」
「よし、一旦切る」
そう言って成弥は電話を切った。
そして、すぐにかかってきた。
「あははは、おもしれぇ~」
「・・・」
「よしよし、いい出来だ」
「和樹を出せ」
「それは、お前が決めることじゃない」
「和樹は、無事なのか」
「さあね~、どうなんでしょうね~」
くそっ・・成弥の野郎・・
「てめぇ・・ざけんじゃねぇぞ・・」
「あ・・。下品な言葉を使ったら、和樹くんの指を折っちゃうって言ったよね、俺」
「あ・・わ、悪かった」
「次はないよ」
「うん・・」
「まあ、第一段階は、とりあえず合格かな」
「・・・」
「じゃ、第二段階へ進もうか」
「なんだ・・」
「次はもっと、派手に行こうか」
なに考えてんだ・・こいつ・・
マジで異常だ。狂ってる・・
「そうだな~、マスターベーションもいいと思ったけど、やっぱり本番だよね」
「なっ・・」
「俺さ~、刑務所にいただろ。だから大変だったんだよ」
「・・・」
「きみって・・童貞?」
「・・・」
「もしもし?聞いてる?」
「ああ・・」
「では第二段階の指令。女を連れてきて、セックスしな」
「・・・」
「それを動画でアップな」
「・・・」
「まあ、今回の指令は時間を要するだろうから、三日間の猶予を与えてやるよ」
「・・・」
「但し、相手は素人な。風俗の女は却下。できれば、高校生とかがいいね」
「・・・」
「おい、返事しろ」
「あ・・ああ・・」
「やるのか、やらないのか、答えろ」
「わ・・わかった・・」
「それでこそ、時雨くん!和樹くんは泣いて喜ぶと思うよ~。じゃね」
そして電話は切れた。
「たけちゃん・・大丈夫・・?」
翔は、俺の動揺ぶりを、瞬時に見抜いた。
「なんて言われたの・・?」
そして俺は、さっきの内容を説明した。
「う・・うそ・・」
「・・・」
「たけちゃん・・どうするの・・?」
「くそっ・・くそっ・・成弥の野郎・・」
俺は拳を握りしめ、怒りでどうにかなりそうだった。
そして翌日、俺と翔は、屋上で紫苑を待っていた。
「やあ、きみたち」
紫苑は小走りで寄ってきた。
「紫苑くん・・第二段階の指令が出て・・その内容が・・」
「ほう。どんな内容だ」
翔は、口籠って何も言えないでいた。
「どうした。言ってくれ」
「あのな・・」
そして俺が説明した。
「なんと・・。成弥って男はケダモノだな」
「紫苑、なんか策があるか」
「ああ、そうだ!それよりガラ受けの身元を突き止めたぞ」
「えっ・・」
「そいつはどうも、成弥の女みたいだぞ」
「そうか・・」
「おそらく成弥は今、いや・・正確には成弥と東雲くんは、その女の家にいるはずだ」
「あのさ・・でも成弥って、西雲組ってうヤクザの跡目なんだよ。それならなんで、西雲の親分とか子分が、ガラ受けになってねぇんだ?」
「ん・・?西雲は解散したんじゃないのか」
「え・・どうしてお前がそれを知ってんだ」
「そのことはいい。とにかく成弥は、身寄りがその女しかいないということだ」
紫苑って・・ほんとは何者なんだ・・
なんで西雲が解散されられたこと、知ってんだ・・
そういや、すぐに何でも調べては、突き止めるし・・
「その第二段階の指令だが、当然、聞く必要はない。それより居場所を突き止めたんだ。そこへ行こうじゃないか」
「紫苑くん・・直接、接触して大丈夫なの・・?」
翔が不安げにそう言った。
「いきなり接触はしないさ。まずは東雲くんの無事を確かめるんだ。それと成弥の動向」
「うん、そうだね・・」
「でだ。必ず隙があるはずなんだ。成弥が東雲くんから目を離す隙が」
「で、その後、どうすんだ?」
「東雲くんが一人になることはないと思う。しかしだ!女と二人になる可能性はある。そこを狙うんだ」
「強引に連れて帰るってことか」
「僕たち三人なら、女の一人や二人、どうにでもなるだろう?」
「うん、そうだな」
「よし!善は急げだ。放課後、行くぞ」
そして放課後、俺たち三人は、ガラ受け女の住む場所へ向かった。
「確か、住所からすると、どうやらアパートだな」
紫苑がそう言った。
「そうなのか」
「一戸建てだと面倒だ」
「そうか・・」
「東雲くんを、容易に確認できないからな」
「なるほど」
「あ、その女の苗字は梅染、名は響子だ」
「そうか・・」
「さ、着いたぞ」
俺たちはアパートに到着した。
そこは都内の外れにある、古いアパートだった。
「和樹くんが住んでたところと似てるね・・」
翔が、ポツリと呟いた。
「部屋は105号室だ」
紫苑がそう言った。
俺たちはとりあえず、物陰に隠れ、様子を窺うことにした。
「よし、僕が確かめてくる」
紫苑がいきなりそう言った。
「おっ・・お前、バカ!まだ早ぇよ」
「東雲くんの無事を確かめてくるだけだ」
「どうやって!?」
「これだよ」
紫苑はそう言って、鞄の中から、作業服を取り出した。
「お前、それ、まさか・・」
「そうさ。変装グッズだ」
「紫苑くん・・そんなものまで用意してきたんだ・・」
「僕は今から着替える」
そう言って紫苑は、さっさと着替えだした。
紫苑は、電力会社の作業員と思しき制服に着替え、帽子も被った。
「お前、それで、どうすんだ?」
「ブレーカーをいじってくる」
「え・・」
「いや・・実際はいじらないさ。フリだけだ」
「おい・・大丈夫なのかよ」
「それでだ!もし、東雲くんが、幸運にも一人でいたり、女と二人でいたとしたら、すぐにきみたちを呼ぶから待機していてくれ」
「そっか・・わかった」
そして紫苑は、105号室に向かった。
「たけちゃん・・紫苑くん大丈夫かな・・」
「もう祈るしかねぇだろ・・」
「成弥に捕まったら・・どうする・・?」
「助けに行くに決まってんだろ。あ!その場合、お前はすぐに警察に連絡しろ」
「うん、わかった」
そして紫苑は、105号室の中へ入って行った。
それから五分ほどが経ち、紫苑が中から出てきて、俺たちのところまで走ってきた。
「どうだった!?」
俺は、紫苑に迫るようにそう言った。
「東雲くんは無事だ」
「そっ・・そうか・・よかった・・」
翔も、心底ホッとした顔をしていた。
「成弥と女もいた」
「そうか・・」
「東雲くんは、膝を抱えて座って俯いていたぞ」
「そう・・か・・」
「紫苑くん・・和樹くんの顔は見たの?」
「ああ。見たさ。僕が入って行った時、顔をあげたからな」
「そっか・・」
「東雲くん・・まるで生気を失っているようだった。あの時と同じだ」
「・・・」
「幸い、成弥と女には、僕を疑う気配は感じられなかった」
そこで紫苑は、学生服に着替えた。
「しばらく、ここで様子を見よう」
そして俺たちは、日が暮れるまでアパートを見ていた。




