七十一、要求
そして翌日の放課後・・
また成弥から電話がかかってきた。
翔は俺の傍で、「出て」という表情を見せた。
俺はなるべく気を落ち着かせるように、深呼吸をした。
はあ~~・・・
よし・・出るぞ。
「もしもし」
「答えは出たか」
「ああ」
「それで、俺の言うことを聞くのか否か」
「聞くよ」
「そうか。ではこちらの条件を言うからよく聞け」
俺は電話を手で押さえ、「条件出すって」と口パクで翔に伝えた。
翔は、うんうんと頷いた。
「お前は真っ裸になり、それを動画に撮って、今日中にネットにアップしろ」
「え・・」
「できないのか?」
裸をネットにアップするだと・・?
一体、なんなんだ、この条件って・・
でも紫苑は、絶対に逆らうなって言ってたしな・・
でも・・裸なんて・・
「そうすれば、和樹を返してくれるんだな」
「あはは、まさか!今のは単なる第一段階さ」
「え・・次の段階ってなんだ・・」
「それは第一段階を見届けてから、の話だ」
「・・・」
「お前がちゃんと約束を守るのか・・それを確かめないことにはな」
「わ・・わかった・・」
「よし。また連絡する」
そう言って電話は切れた。
「成弥、なんだって?」
翔がすぐに訊いてきた。
「俺の裸の動画を、今日中にネットにアップしろって・・」
「え・・なに、それ・・」
翔は、成弥の異常な性格に、呆然としていた。
「あいつ・・俺に恥をかかせて楽しむつもりだな」
「たけちゃん・・どうするの・・?」
「あいつは、俺がそれを実行したとしても、和樹を返すつもりはねぇな」
「じゃあ・・どうするの・・?」
「次は、どんな要求をされるか、わかったもんじゃねぇ・・」
「ねぇ・・このこと、紫苑くんに報告しようよ」
「うん、そうするか」
そして俺は紫苑に電話をかけた。
「もしもし、時雨だけど」
「どうした。なにか言ってきたか」
「あいつ・・俺の裸の動画をネットにあげろって」
「ほう。そう来たか」
「俺・・言う通りにしなくちゃいけねぇのか・・」
「もちろんだ」
「えっ・・マジかよ!」
「といっても・・実際にそうするわけではない」
「え・・」
「ちょっと待ってくれ。僕は今、ガラ受け調査中だ。折り返しかける」
そう言って紫苑は電話を切った。
「紫苑くん、なんだって?」
「言う通りにしろって言ってたけど、なんか作戦があるみたいだぜ」
「そうなんだ・・」
「で、紫苑は今、ガラ受けの調査中なんだって」
「そっか・・」
「それにしても、成弥の異常性・・パネェな・・」
「ほんとだね・・背筋が凍りそうだよ・・」
「和樹・・大丈夫なのかな・・。あいつ、変なことされてんじゃねぇのか・・」
「うっ・・そんなこと言わないでよ・・」
「ああ、ごめん」
「僕・・考えたくもないよ・・」
「それにしても今日中か・・あまり時間がねぇな・・」
ルルル・・
あっ、電話だ。
「もしもし」
「紫苑だ」
「で、俺はどうすればいい?」
「動画の件は、僕に任せてくれ」
「え・・どうやんだよ」
「動画が完成したら、朝桐くんのスマホに転送する」
「そうか・・」
「じゃ、早速取り掛かるので切るぞ」
「お前、今、どこにいんだよ」
「自宅だ」
「え・・もう帰ってるのか」
「当然だ。やることが山積しているからな」
「そっか・・わかった」
そして俺は電話を切った。
「紫苑くん、なんだって?」
「動画作成するって」
「そうなんだ・・」
「で、完成したらお前の携帯に、転送するって言ってたぞ」
「え・・僕の?」
「俺、ガラケーだし、スマホの方が都合がいいのかもな」
「なるほど」
それから俺たちは、紫苑からの動画の転送を待った。
小一時間ほどして、翔のスマホに動画が送られてきた。
「たけちゃん、きたよ!」
「おお、見てみようぜ」
そして翔は動画を再生した。
するとそこには、俺とは全く別人の男の裸が映し出された。
立ったまま正面を向いている動画だった。
しかし顔には、俺の入学写真が加工して貼られてあった。
一目見ただけでは、加工とわからない、巧妙な仕上がりになっていた。
げっ・・マジで俺じゃねぇか。
すると俺の携帯に、紫苑から電話がかかってきた。
「もしもし」
「紫苑だ。届いたか」
「うん。これって、誰だ?」
「とあるAV男優だ」
「でもさ・・これって、マジ俺じゃねぇか」
「そうだ」
「これをネットに上げたら、見たやつは、ぜってー俺だと思うぜ」
「ふふふ・・」
「っんだよ」
「アクセスできるのは、成弥のみと設定する。しかし成弥には、フリーで閲覧できるように見せかけるのだ」
「そんなこと、できんのかよ」
「できる。それで僕が今からアップするので、東雲くんのメアドを教えてくれ」
そして俺は、和樹のメアドを教えた。
「また連絡する」
そう言って電話は切れた。
「紫苑くん、なんだって?」
「この動画、成弥以外はアクセスできない設定にするらしいぜ」
「そんなこと、できるんだ・・」
しかし俺には、一抹の不安があった。
こんなので、あの成弥を騙せるのか?
もしバレたら、和樹は殺されるかも知れねぇんだぞ・・
だったら俺の裸くらい、どうってことねぇ。
俺は紫苑に電話をかけた。
「なんだ。今、忙しいことわかってるはずだが」
「いや・・成弥に嘘がばれたら、和樹は殺されるかも知れねぇ。そうなったら取り返しがつかねぇよ」
「だから、なんだと言うのだ」
「俺・・裸くれぇどうってことねぇよ」
「きみ・・なにを言ってるんだ」
「だから、俺の裸をアップしたっていいっつってんだよ」
「だからきみは、ダメなんだよ」
「え・・」
「成弥は、きみの心を弄ぼうとしている。それが目的なのだ」
「だから・・」
「まんまとそれに乗っかってどうする」
「でもお前は、成弥の言うことに逆らうなって言ったじゃねぇか!」
「きみ・・正気かい?」
「なんだよ」
「僕が言いたいのは!成弥の言うことを聞く「ふり」をしろと言うことだ」
「・・・」
「その上で、裏をかくのは当然のことだ。いいか、もう一度言う。けっして正面から逆らうな。あくまでも成弥の言う通りにするのだ」
「うん・・」
「心配するな。この動画はバレやしない。成弥がじっくり観ることもないだろう。アップされたかどうかを確かめるに過ぎない」
「そ・・そうか・・」
「じゃ、切るぞ」
そう言って電話は切れた。
「たけちゃん・・やけにならないでね」
「なってねぇし」
「成弥に振り回されちゃ、ダメだよ」
「わかってるよ・・」
「紫苑くんなら、きっと上手くやってくれるよ」
動画で上手く騙せたとしても、次はなんだ・・
俺は和樹が無事でいるのか、それが頭から離れなかった。