表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
65/77

六十五、固い意思

           


それから俺は、紫苑が待つファストフード店へ行った。

紫苑は俺に気がつき、本を鞄にしまった。


俺は席に着く前に、コーヒーを注文し、それを持って席に着いた。


「さて、話なんだが。あの女性、水花田みずはなだ早紀さきという名前だ」

「へぇ。フルネームわかったのか」

「僕の調査によると、彼女は財力でホストをたぶらかしているようだ」

「うん、知ってる」

「なにっっ!どうしてきみが、それを知っているのだ」

「ちと、情報があってな・・」

「なんということだ・・僕より先に、きみが・・」

「それは、いいんじゃね?話を進めろよ」


紫苑は、俺に先を越されたことを、酷く悔しがっていた。


「う・・うん。それでだ。彼女はどうやら東雲くんの頭脳を買って、パートナーにしようと企んでいる」

「えっっ、マジかよ!」


これも景須から聞いてて知ってたけど、俺はわざと驚いて見せた。

すると紫苑は安心したように、話を続けた。


「僕はその後、ネットを駆使して調べに調べた。すると、ある情報に辿り着いた」

「ほう」

「彼女のHPと思しきサイトを見つけた。それがこれだ」


そう言って紫苑は、俺にスマホを見せた。

そこには、「NPO法人/水辺に咲く花」と載っていた。


「なんだよ、これ」

「NPOとは、特定非営利活動のことだ。彼女はこの法人の代表だな」

「そうか」

「彼女が設立しているNPOは、情報化社会の発展を図る活動だ。つまりIT関係だ」

「そうか」


俺もそれは既に知っていたが、初めて聞くふりをした。


「問題は、彼女の人間性だ。表ではNPOの代表を務めながら、資産家の彼女は財力が豊富な上、無類の男好きだ。いわば彼女の「ホスト狩り」は今に始まったことではない。その証拠に、ネットでは批判も受けている」

「そうか・・」

「このページを見ろ。これは、ある男性、おそらくホストであろうと推察するが、この男性は水花田との男女関係を赤裸々に綴っている。それについてのリプライを読むと、まさに僕が潜入捜査した店と合致するというわけだ」


俺は、和樹が勤めている店には入ったことがないので、わからなかったが、それを読むと、確かにホストクラブとわかることが書かれていた。


「問題はここからだ。僕は東雲くんと水花田の関係を見誤っていたのだ。僕は当初、二人の様子を見て男女関係という印象は受けなかった。上司と部下の関係だと勘違いしてしまった。しかし、おそらくそうではないだろう。更に厄介なのが、東雲くんの頭の良さだ。彼女はホストとしての東雲くんのみならず、ITのエキスパートとして、彼を絶対に手放すことはないだろう」

「そうか・・」

「きみ、どうするつもりなんだ」

「どうするったって・・」

「このままだと東雲くんは、水花田の操り人形と化すぞ」


操り人形なんて、ヤクザの跡目と同じじゃねぇか。

和樹・・失踪は仕方ねぇにしても、てめぇの頭で考えろよ!


「紫苑・・」

「なんだ」

「解決策とか、ないのかよ」

「そこだ。僕も散々考えたが、今のところ、これといった得策は見出せない」

「もう、無理やりに引き離すしかねぇよ」

「だから、正面突破は愚策だと言ったはずだ」

「俺、和樹に水花田のこと話して、説得するよ」

「え・・」

「あいつはバカじゃねぇ。必ずわかってくれるはずだ」

「ちょっと待て」


紫苑は人差し指を立てたあと、一瞬、動作が止まった。


「なんだよ」

「それは僕がやってみよう」

「えっ・・」

「僕が店へ行き、東雲くんに話してみよう」

「ええ・・」

「もう僕は、東雲くんの上客だ。彼も敬遠はしないだろう」

「お前・・大丈夫なのか・・?」

「任せてくれ。きっと説得してみせる」


紫苑はどうも、俺を和樹と接触させたくない風だ。

なんとかして、自分の手柄にしたがってるとしか思えねぇ。

俺はとりあえず、紫苑の作戦を飲むふりをしたが、納得はしていなかった。



それから数日後、水花田が一人で歩いているのを、俺は出前の帰りに偶然見かけた。

俺は、チャンスだと思い、水花田に声をかけてみることにした。


「あの、水花田さんですよね」


俺に声をかけられた水花田は、けっして敬遠している風ではなく、むしろ俺に対して好意的な印象だった。


「そうだけど。なにか用かしら?」


水花田は、気持ち悪い笑みを浮かべながらそう言った。


「ちょっと、お話したいことがあるんすけど」

「あら、なにかしら」

「リュウのことなんすけど」

「あなた、リュウのなんなの」


水花田は、俺がリュウの名前を出したとたん、少し怪訝な顔をした。


「あなたはリュウと、どういう関係なんすか」

「いきなり変なこと訊くのね」

「リュウを、どうするつもりっすか」

「ち・・ちょっと待ってくれない?どういうこと?」

「その・・あなたはリュウを無理やり、自分のものにしようとしてませんか」

「あはは。なにそれ」


水花田は、呆れた風に笑い飛ばした。


「どうか、リュウを解放してやってください」

「いやいや・・だから・・あなた、なに言ってるの?」

「リュウは俺のダチなんす!」

「そうなんだ。まあ、それはいいけど、あなたが友達ってことと、私がリュウを解放云々と、なんの関係があるの?というか、解放とか、すごく心外なんだけど」

「あいつ・・行方不明者なんすよ」

「それくらい知ってるわよ」

「えっ、知ってるのか!」

「だからなに?」

「知ってんなら、家へ帰れとか言うべきだろ!」

「どうして?」

「どうしてって・・あんた、大人なんだし当然だろ」

「あなたね、帰りたくない者を、無理やり帰れって言うの?私だって事情を知った上でのことなのよ」

「だから!リュウはホストなんてやる人間じゃねぇんだ。あいつはまだ高校生なんだぜ?学校だって休んだままだし、このままだと、あいつの人生が狂っちまうんだよ!」

「あなたって、傲慢なのね。なに?あなたはリュウの保護者のつもりなの?あなたこそ勝手に決めてんじゃないわよ!」


水花田は、怒りをあらわにした。


「あっ・・」


水花田は、俺から視線を逸らし、そう言った。

俺が振り向くと、そこには和樹が立っていた。


「健人くん、きみはなにをやってるんだ」

「和樹・・」

「それに、その格好。ラーメン屋でも始めたのか」

「お前・・もうホストなんてやめろよ」

「余計なお世話だ。それと、彼女になにを話していたんだ」

「お前な!はっきり言うけど、こんな年増のババアに、たぶらかされやがって、なにをやってるとは、こっちのセリフだ!」

「誰から聞いたか知らないけど、デマも甚だしいよ」

「嘘つけ!調べはついてんだ!」

「調べ・・?健人くん、妙な真似をしてくれるじゃないか」

「おめぇ・・どうしたってんだよ!目を覚ませよ!」

「目を覚ますのはきみの方だ。前にも言ったけど、もう僕を解放してくれ」

「バカかっ!おめぇ・・爺さんや柴中さんたちのこと、どうすんだ!」

「困ったな・・。だから僕と東雲は無関係と、何度言ったらわかるんだ」


「ちょっと待ちなさい」


水花田が、俺たちを制した。


「健人くんと言ったわね。きみ、なんか勘違いしてるんじゃないの?」

「なんだよ!」

「リュウは自分の人生は、自分で決めるって言ってるの。それを私は手助けしてるだけなの」

「嘘つけ!」

「たぶらかしてるだとか・・一体、何の証拠があってそんな下品なこと言ってるわけ?」

「おめぇ・・和樹の頭の良さをいいことに、ITかなんだか知らねぇけど、こいつを利用してんだろ!」

「なるほど・・そこまで調べがついてるってわけね」

「そうだよ」


「水花田さん、健人くんはデマに乗せられています。どうぞ行ってください」

「わかった。ったく・・頭にくるったらありゃしないわ」


そう言って水花田は、その場を立ち去った。


「和樹・・」

「きみが一体、何を調べているのか知らないけど、僕はもう帰らないと決めているんだ」

「お前・・それマジで言ってんのか」

「だから、こんな探偵ごっこみたいなこと、もうやめてくれないか」

「お前・・どこへ行こうとしてんだ・・」

「どこへ・・?」

「お前さ、東雲の爺さんに育てられたこと、組のみんなにかわいがってもらったこと、それを全部捨ててしまうのか」

「・・・」

「俺は、お前がそんな薄情な人間とは思ってねぇ。今はショックが大き過ぎて、自分を見失ってるだけだと思ってる」

「・・・」

「東雲と縁を切るならそれでもいい。ただな・・これまで爺さんたちに、世話になったたことへの義理は果たせよ。ちゃんと戻って話しろよ」

「・・・」

「それで家を出るなら出る。ちゃんと道理を通せよ。爺さんならきっとわかってくれるはずだ」

「道理・・?」

「ああ」

「僕はずっと東雲の跡目だと思ってた。でもそれは違った。東雲の道理ってのは、嘘で塗り固められたものだったんだよ。それで僕に道理を通せと。話が違うんじゃないのか」

「おめぇ・・なに言ってんだ・・」

「僕は!ずっと騙されていたんだ!十七年も!ヤクザの子として友達すらできず、いつも色眼鏡で見られ続け、それでも僕は跡目を継ぐことが僕の運命だと信じて疑わなかった。だけど!それは全部、嘘だったんだよ!道理??そんなもの、この僕が通す理由があるとでも言うのか!」


和樹は俺の前で、初めてマジ切れしていた。


「なに言ってんだよ!おめぇは捨て子だったんだよ。それを爺さんが拾って育てた。で、おめぇは身体が弱かった。おめぇ、爺さんが拾ってくれなかったら、もうとっくに死んでたんだぞ!」

「死ねばよかったんだよ」

「はああ??なに言ってんだ!」

「こんな僕なんか、死んでいればよかったんだ!どうして!どうして・・僕はヤクザの家に・・」

「てめぇ・・手術もしてもらって、元気になった。生かしてくれた爺さんに対して、自分は死ねばよかっただと??ふざけんじゃねぇぞ!」

「もう今更、何を言っても過去は変えられない。だから僕は、自分の足で歩くと決めたんだ」

「だから!」

「もういい!放っといてくれ。それと、ラーメン屋なんかでバイトして、僕を監視しているつもりだろうが、それもやめてくれ」

「和樹・・」

「僕は和樹じゃない。リュウだ」


そして和樹は、俺の前から去って行った。

和樹・・マジかよ・・

俺はもう、和樹を連れて帰ることに、限界を感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ