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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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六十、腕を離せ



「たけちゃん、おはよう」

「おはよー」


俺と翔は通学のため、朝の駅に向かう途中だった。


「和樹くん・・ホストクラブにいたなんてね・・」


翔は、和樹が失踪してから、見つかった後も、全く元気がなかった。


「でもま、見つかってよかったよな」

「和樹くん・・なんで失踪なんてしたんだろう・・」


翔はまだ、和樹の過去のことを知らないままだ。

もう、言うべきなんだろうな・・


「翔・・実はな、和樹は東雲の孫じゃないんだよ」

「えっ・・どういうこと?」

「ずっと黙ってて悪かったけど、俺、知ってたんだ・・」

「ねぇ、それってどういうことなの?」

「あいつ・・捨て子だったんだよ」

「え・・」


翔は、あまりのことに、言葉を失っていた。

それから俺は、順序立てて話していった。


「そ・・そんなことって・・」

「でな、実の孫は生きてるんだよ」

「ええっっ!!それって誰なの?」

「成弥だよ・・」

「う・・うそっ・・そんなっ・・」

「由名見の爺さんな・・東雲の爺さんと兄弟だろ・・」

「うん・・」

「それで・・由名見の爺さんは、実の孫の和樹と、成弥を取り換えたんだよ・・」


俺は、由名見の爺さんから聞いたことも、全部話した。


「たけちゃん・・それ・・本当の話なの・・?」

「うん・・」

「それを、和樹くんが聞いてしまったんだね・・」

「うん・・」

「だから失踪を・・」


そこで翔は泣き出した。


「翔・・」

「ぼ・・僕・・何も知らないで・・和樹くんに酷いこと言った・・」

「え・・」

「和樹くん、自分に自信が持てない時、僕・・「逃げたいなら逃げれば」とか・・「たけちゃんがどれだけ頑張ったと思ってるの」とか・・」

「・・・」

「僕・・跡目の後押しするようなことを・・きつく言っちゃったよね・・」

「それは仕方がねぇよ。知らなかったんだから・・」

「でも・・でも・・和樹くん、かわいそうだよ・・」

「・・・」

「どんな気持ちで・・みんなの前から消えたんだろう・・僕・・もう心臓が破裂しそうなくらい・・苦しいよ・・」

「翔・・そんなに思い詰めるなって・・」

「それで、たけちゃん、どうするの?」

「俺、今日、店へ行くつもりなんだよ」

「僕も・・僕も行くよ!」

「いや・・今日は俺一人で行かせてくれ」

「どうして!?」

「和樹さ・・きっと苦しんでると思う。誰にも会いたくねぇって思ってんじゃねぇかな。それで、俺のことも恨んでると思う。俺、知ってたんだしな・・」

「たけちゃん・・」

「だから俺一人の方がいいと思うんだ。和樹が見つかったってことも、爺さんにも知らせてねぇんだよ」

「え・・」

「知らせたら、ぜってーヤクザの力を使って、無理やり連れ戻すと思うんだよ。それじゃ何の解決にもなんねぇ。和樹が自分から帰って来られるようにしねぇとな」

「そっか・・わかった・・」


そして俺たちは、電車に乗り並んで座った。


「翔、俺が今日、一人で行くこと、紫苑にはぜってー内緒な」

「ああ・・うん」

「その後、紫苑はお前に嫌がらせとか、してくんのか?」

「ううん。そもそも話もしないし」

「そっか・・」

「お前、塾はどうだ?」

「うん。頑張ってるよ・・」

「そっか」


翔・・お前がそんなだと、俺まで元気が出ねぇよ・・


「翔・・」

「なに・・」

「俺がぜってー和樹を帰れるようにすっから」

「うん・・」

「だから、元気出してくれよ」

「うん・・」


それでも翔は、俯いたままだ。

そりゃそうだよな・・

こんな話、誰だってショックだよ・・

元気出せって方が、無理だよな・・


「たけちゃん・・」

「なんだ」

「僕にも、出来ることがあったら、言ってね」

「ああ。わかった」



それから俺は放課後、歌舞伎町へ向かった。

夜までは、まだ時間がある。

俺は前に紫苑と行った、カフェに入って待つことにした。


コーヒーを飲みながら、俺はずっと店の入り口を見ていた。

小一時間が過ぎた時だった。和樹が現れた。

俺は急いで店を飛び出し、和樹の前まで走って行った。


「和樹・・」


俺は和樹の腕を掴んで、そう言った。

すると和樹は俺を見て、腕を振り払おうとした。


「和樹!」


俺は腕を掴んで離さなかった。


「和樹・・」

「・・・」

「探したぞ・・」

「・・・」

「でも、元気でよかった・・」


和樹は向こうを向いたまま、何も言わなかった。


「お前、今から仕事か?」


和樹は首を縦に振った。


「そうか・・俺、終わるまで待ってっから」

「やめてくれ・・」

「え・・」

「もう僕を・・解放してくれ・・」

「なに言ってんだ・・和樹・・」

「頼む・・腕を離してくれ」


和樹の髪は金髪に染められ、耳にもピアスをし、話しぶりも以前の和樹とは違っていた。


「どうしてだよ!お前・・学校はどうすんだ」

「学校・・?そんなのどうでもいいよ・・」

「和樹・・」

「頼む。離してくれ。僕は今から仕事だ」

「じ・・じゃあ・・連絡するから、電話に出てくれな」

「・・・」

「な、出てくれな・・」


和樹は無反応だった。

和樹・・どうしちまったんだよ・・

こんなに変わっちまって・・なんだってんだよ・・


「あ・・そうだ。東雲の爺さんな、がんの手術したんだぜ」

「え・・」

「でも、もう退院もして、今は家で養生してるぞ」

「・・・」

「和樹に会いたがってんぞ・・」

「・・・」

「お前が消えてから・・爺さんも柴中さんも伊豆見も・・翔も、俺も・・みんな元気がねぇんだ・・」

「・・・」

「みんな・・お前に会いたがってんだ・・」

「僕は・・東雲とは無関係の人間だ」

「ちげーよ!関係ありありじゃねぇか!」

「・・・」

「お前!爺さんたちに大切に育てられたじゃねぇか!血が繋がってねぇのによ!大切に育てられたんじゃねぇのかよ!」

「・・・」

「それを無関係だと!?勝手なこと言ってんじゃねぇよ!」

「健人くん・・」

「なんだよ!」

「僕が・・どんな思いで、あの家で暮らしていたと思う」

「え・・」

「きみには、わからないだろう」

「わからねぇから、なんだってんだよ」

「離せ!」


和樹は腕を振りほどき、店の中へ入って行った。

俺はしばらく、呆然とその場に立ち尽くしていた。


あれが和樹なのか・・

俺の知ってる和樹なのか・・


「あら・・きみは・・」


俺は一人の男に声をかけられた。

そいつは、この間、店の前で紫苑と言い合っていた男だった。


「また来たの?」

「え・・」

「和樹って子はいないって、言ったはずだけど」

「い・・いや、いる」

「変なこと言う子だね」

「俺はたった今、和樹と話してた」

「え・・」

「リュウってやつだよ」


すると、男の顔色が変わった。


「見つけちゃったんだ」

「ああ」

「きみ・・あの子に関わらない方が身のためだよ」

「どういう意味だ」

「あの子は、特別な子なんだよ」

「え・・」

「まあ、No.1ってこともあるけど、それだけじゃないんだよ」

「だから、なんだってんだよ」

「さあ、帰りなさい」

「嫌だ、帰らねぇ。教えてくれるまで帰らねぇからな」

「困ったね・・。あ、いらっしゃいませ」


そこに客と思しき、一人の女が現れた。

いかにも金持ちといった風貌で、身体の線がくっきりとわかる、高そうな白のスーツを着て、装飾品で身を固めていた。


「来てる?」


その女が男にそう言った。


「はい。さ、どうぞ」


男が女を店の中に案内し、二人の姿は消えて行った。

それにしても、和樹が特別だと?

あれは、どういう意味だったんだ・・

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