表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
52/77

五十二、E高校受験



やがて三学期も始まり、俺はE高校へ行くと、決心を新たにするのであった。

兄貴も、俺の合宿での成果を話したら、がぜん乗り気になっていた。


クラスでは、しきりに願書のことで、話題が持ちきりになっていた。


「時雨くん、E高校なんですよね」


由名見がそう言ってきた。


「たりめーだよ」

「すごいなぁ・・ほんと、尊敬しちゃいますよ」

「なに言ってんだか。由名見だって結構、レベル高いじゃん」

「いえいえ、時雨くんに比べれば、私なんて・・」

「ま、お互い頑張ろうぜ」

「はい!」


しかし、考えてみたら、ほんの数か月前までは、俺、全く勉強なんてできなかったのに、今じゃE高校だもんなぁ。

なにがきっかけで、こうなったんだ?

そんなことも忘れるくらい、俺は勉強に没頭していたもんな。

クズ野郎の俺がだよ・・信じらんねぇな・・


「時雨!ちょっと来い」


俺は、教室の前に立っている桃田に呼び出された。


「なんだよ」

「お前・・ほんとにE高校でいいんだな」

「そうだよ」

「そうか・・そこまで決心が固いなら、先生も反対はしない」

「うん」

「でも、併願にしないか?」

「しねぇ」

「そりゃ学費も大変だろうが、落ちたら元も子もないぞ」

「落ちたら働くよ」

「だから・・それではもったいないぞ。お前の成績なら、S高校、いや、もっと上のK高校だって行けるんだぞ」

「嫌だ。俺はE高校しか行かねぇ」

「まったく・・どうしてそこまで頑固なんだ・・」

「先生が心配してくれんのは、ありがてぇけど、俺もう、決めてるから。なに言ったって無理だぜ」

「はあ~~・・危なっかしいなぁ・・」

「そういうことだから」

「そっか。わかった」


それからほどなくして、願書を出す日がきた。

俺は翔と一緒に、E高校へ向かった。


「たけちゃん、一緒に合格しようね」

「たりめーだ」

「なんか、夢みたいだなぁ・・たけちゃんとE高校受けるなんて」

「だな。お前らのおかげだよ」

「そうだよ!絶対に無駄にしないようにね!」

「わかってるって」


そして俺たちはE高校へ着き、事務所へ行った。

するとそこには、紫苑がいた。


「あ・・きみ・・」

「よう。久しぶりじゃねぇか」

「僕・・負けないから」

「俺だって負けねぇよ」

「たけちゃん・・誰・・?」


翔が不安そうな顔をして、俺を見た。


「こいつ、ほら、合宿で一緒になった紫苑ってやつ。話しただろ。ケツの穴が小さいやつがいたって」

「ああ・・この子がそうなんだ」

「きみ・・相変わらず失礼だな」

「けっ。おめぇよりマシだぜ」

「僕、時雨くんの親友で、朝桐翔っていいます。よろしくね」

「きみは、時雨くんの友達なのか」

「そうだよ」

「ふん。馴れ馴れしいやつだ」

「え・・」


翔は、普通に挨拶しただけで、馴れ馴れしいと言われたことに、呆れていた。


「翔、こいつ、捻くれてんだ。気にすんな」

「うん・・」

「じゃ、僕はこれで失礼する」

「受験の日、逃げ出すんじゃねぇぞ」

「それはこっちのセリフだが。絶対に負けないから」

「おう。楽しみにしてるぜ」


そして紫苑は去って行った。


「たけちゃん・・紫苑って子、なんか・・変だね」

「そうなんだよ。でも、ぜっんぜん気にすることねぇから」

「それにしても、たけちゃんに対して、すごいライバル心むき出しだったね」

「俺、合宿であいつに勝ったんだぜ」

「そうなんだ」

「俺たち、三人とも合格したら、毎日あいつとケンカだな」


俺はそう言って笑った。


「そんなあ。せっかくの高校生活なんだよ、仲良くしなくちゃ」

「それは、あいつ次第だな」

「もう~たけちゃん」


そして俺たちは願書を出し終わり、校門の方へ向かった。


「そういや、和樹や島田は、まだ授業中か」

「そうみたいだね」

「んじゃ、帰るか」


そして俺たちはE高校を後にした。


俺が合宿から帰ってから、家での「塾」は、しなくなっていた。

というもの、翔も、由名見も自分の勉強があるし、和樹は電車通いで苦労をかけていることを考え、俺から断った。

それに俺は、合宿で習ったことを一からやり直すことに、力を注ぎたかった。

来る日も来る日も、俺は復習を繰り返し、頭に叩き込んでいた。



そして月日は流れ、やがて三月になり、いよいよ受験の当日を迎えた。


「健人、お前、大丈夫か?」


朝飯を食いながら、兄貴が心配そうに言った。


「大丈夫だよ。やるだけのことはやったから」

「そうか・・忘れ物とかねぇか?」

「はい、これ受験票、、はい、これ筆記用具」

「そか・・他に必要なもの、なかったか?」

「そんで、これ」


俺はマフラーを手にした。


「ああ・・うん」

「これ、マジであったけぇわ。翔も巻いて行くってさ」

「そうか。とにかく落ち着いてな」

「わかってるって」

「あ、ほら、時間がないぞ。さっさと食え」

「うん」


兄貴・・ありがとな。

俺、ぜってー合格して見せる。


そして俺は翔と待ち合わせ、一緒にE高校へ向かった。

揃いのマフラーが、なんだか照れくさかった。


「たけちゃん、緊張しないようにね」

「お前こそ、大丈夫か」

「うん!大丈夫!」

「よし、頑張ろうぜ」


俺たちはそれぞれの教室へ入り、試験を待った。

やがて先生が入ってきて、問題用紙が配られた。

さーーて、勝負の時だ!


やがて五教科全ての試験が終わり、俺は胸をなでおろしていた。

手応えはあった。

確実にあった。

偶然にも、合宿でやった問題も出ていたし、俺は全力が発揮できたと確信していた。


「たけちゃん、どうだった?」


廊下で翔が俺を見つけ、急いで駆け寄ってきた。


「へっへー、できたぜ」

「マジっ?すごいじゃん」

「翔はどうなんだよ」

「うーん・・そこそこできたけど・・あまり自信がないんだ」

「っんなこと言って。合格発表までわかんねぇだろ」

「そうなんだけど・・」


「やあ、きみたち」


そこに紫苑がきた。


「よう。逃げなかったんだな」

「ふっ。偉そうに」

「どうだったよ、試験」

「できたに決まっているじゃないか。きみこそ、どうなんだ」

「できたに決まっているじゃないか」


俺はそう言って笑った。


「そっちのきみは、どうなんだ」


紫苑は翔に話しかけた。


「僕は・・そこそこかな・・」

「そこそこか。それは残念だったな」

「・・・」

「これで一人落ちたってことだな」

「え・・そんな・・」

「おめぇ・・くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ」

「この世界は食うか食われるかだ。甘い考えの者は、蹴落とされて当然だが」

「蹴落とされるのは、てめぇだよ」

「まあいいじゃないか。発表の日を待とうじゃないか」


そう言い残して、紫苑は去って行った。


「翔・・気にすんなって」

「うん・・」


翔の表情は、暗かった。

こいつ・・マジで、できなかったってのか・・嘘だろ・・


「僕、私立は合格してるし・・ここを落ちても私立に行けるし・・」

「翔・・そんなこと言うなよ」

「僕・・自信ないんだ・・」

「なに言ってんだ。発表までわかんねぇって」

「僕・・たけちゃんと同じ学校へ行きたいよ・・」

「俺だってそうだよ!」

「和樹くんも・・島田くんもいるのに・・」

「だから、翔だって行くんだよ」

「僕・・ちゃんと勉強したんだけどなぁ・・」


そう言って翔は泣き出した。

俺は翔を校舎から連れ出し、人がいないところまで歩いた。


「翔・・お前らしくねぇぞ」

「ん・・」

「大丈夫だって」

「僕・・受かるのかな・・」

「受かるって!」

「たけちゃんは・・きっと受かるよね・・」

「翔!今、そんなこと考えたってしょうがねぇだろ」

「僕・・たけちゃんに、言ったよね。たけちゃんがE高校受けるって言った時に、僕・・「無理だ」って」

「翔・・」

「その僕が・・たけちゃんに追い抜かれて・・僕の方が自信なくて・・」

「バカっ!なに言ってんだ!」

「僕・・たけちゃんより僕の方が勉強できるって自惚れてた。追い抜かれるなんて思わなかったよ・・」

「翔・・」

「でも僕・・たけちゃんと同じ学校へ行きたいよ・・」

「・・・」

「もっと勉強すればよかった・・合宿にも行けばよかった・・」

「翔!いい加減にしろ!今更そんなこと言って、どうなるってんだ。俺だって受かるかどうかわかんねぇんだよ。手応えがあっても、こればっかりは蓋を開けてみねぇとわかんねぇだろ。それはお前だって同じじゃねぇか」

「うん・・ごめん・・」

「元気だせよ」

「うん・・うん・・」


翔は、泣き続けるだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ