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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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四十四、東雲色のマフラー



俺と翔は料亭を後にし、帰ることにした。

和樹もなんだか、見違えるように堂々としていたし、組の存続も決まった。

そして敵対関係にあった、西雲は解散。

これで一件落着と言いたいところだが・・

全然そうじゃねぇんだよな・・


いつ和樹に本当のことを知らせるべきか・・

あっ・・柴中・・帰っちゃったしな・・

まあ、また日を改めて連絡してみるか。


「たけちゃん、和樹くんよかったね」

「ああ。あいつ練習したのかな」

「あんなに悩んでいたのに、何か吹っ切れた感じがしたよ、僕」

「そうだな・・」

「それにしても、たけちゃんもすごかったね、啖呵」

「っんなことねぇよ」

「やっぱりたけちゃんって、すごいよ。ここぞという時には絶対に引かないし、しかも正論だもんね」

「そんないいもんでもないって。景須のおっさんが、なかなかできた人なんだよ」

「うん、それもあるけどね。もしあれが西雲の親分だったら、たけちゃん、今頃、この世にいないかもね」

「んだな。俺は、たまたま運が良かっただけなんだな」

「さっ、帰ろうか」


そして俺と翔は途中で別れ、俺は急いで家へ帰った。

兄貴・・まだ帰ってねぇよな・・

あ・・電気も消えてるし、帰ってないな。

俺は、心底ホッとした。


鍵を開けて中へ入り、電気を点けて、とりあえず寝ころんだ。

和樹・・ほんとに跡目になるのかな・・

このままだと、きっとそうなってしまう・・

爺さん・・和樹のこと諦めてくれねぇかな・・


さてと・・風呂でも行くか。

兄貴はきっと、どこかで入ってるに違いねぇからな。ぷぷぷ・・

電話して邪魔してやろうかな・・クク・・


俺は風呂へ行き、湯船に浸かって、今日あったことを、もう一度思い返していた。


「健人」

「あれっ、兄貴、どうしたんだよ」


兄貴が俺に遅れて、風呂に来ていた。


「どうしたって、いつものことじゃねぇか」


そう言って兄貴も湯船に浸かった。


「俺はまた、どっかで入って帰ると思ってたのによ」

「どういう意味だ」

「どういうって、そのままだよ」


俺はそう言って笑った。


「ガキのくせに、変な想像してんじゃねぇよ」

「ってか・・まだなのか・・?」

「はあ??バカか、お前は」

「兄貴って奥手なんだな」

「うるせぇ・・」

「もしかして・・キスとかもしてねぇの?」

「はああ??そんなこと訊くか?普通」

「いいじゃんか。ね・・キスはしたの・・?」

「バカっ!誰が言うかよ」


そして俺と兄貴は身体も洗い、やがて風呂屋から出た。


「兄貴、目・・見えてんのか?」

「そうなんだよ、コンタクト外して、メガネかけるの忘れてな。なんも見えねぇ」

「転ぶなよ」

「そういや・・お前、何でこんな時間に風呂行ってんだよ」

「え・・それは晩飯食った後に、ちょっとウトウトして・・」

「晩飯、なに食ったんだ?」

「それは・・ちょっと外で翔と」

「ふーん、そうか」


危ねぇ・・マジでビビった・・


「今度、和樹、連れて来いよ」

「えっっ!!」


おい・・今、なんつった・・??俺の聞き間違いか?


「そんなに驚くことねぇだろ」

「だって兄貴・・」

「俺は和樹をおめぇのダチと認めたんだ。遠慮するな」

「そ・・そうなのか・・?」

「ああ」

「あ・・!だったらさ、俺んち塾にしてもいいか」

「塾?」

「和樹って、すげー頭いいんだぜ。進学校へ行ってて、成績優秀なんだぜ」

「へぇーそうなのか」

「うん。で、俺んちで勉強教えてもらってもいいか?」

「そういうことなら、尚更、遠慮する必要はねぇ。いつでも連れて来い」

「やった!じゃ、翔もな」

「ああ。もちろんだ」


兄貴ぃぃ~~どうしたんだよ~~

なんか、葵ちゃんと付き合うようになって、変わったな・・兄貴。


「葵ちゃん、元気にしてんの?」

「お前な!ちゃんって言うなっつってんだろ」

「いいじゃねぇか~、葵ちゃんだって喜んでたじゃん」

「あれはな・・葵ちゃんが優しいからだよ」

「おやま~~のろけですかい」

「ちょっとは気を使えっての!」

「兄貴・・」

「っんだよ」

「ほんとに葵ちゃんのこと、好きなんだな」

「うん。めちゃくちゃ好き」

「ひゃ~~真人さんったらぁ~~」

「お前な!俺は真面目に答えてんだぞ!」

「あはは」


兄貴、幸せそうだな。よかった・・



そして翌日から、和樹や翔の時間の許す限り、俺の家で特訓が始まった。

和樹はわざわざ電車に乗って、俺の家へ通ってくれた。


「さあ~~今日も始めるよ!」


翔が張り切ってそう言った。


「覚悟はいいね?健人くん」

「おう!わかってらぁ~」


国語、社会、理科、数学、英語と、受験科目を徹底的に教え込まれた。

俺はもう、寿命が縮まるんじゃないかと思うくらい、毎日ヘトヘトになっていた。


「なあ~和樹」

「なんだい」

「おめーの頭、なにがどうなってんだ?」

「どういう意味?」

「なんでそんなに頭がいいんだよ~」

「僕は子供のころから、家庭教師がいたからね」

「そうなのかよ~」

「たけちゃん、文句言わないの!和樹くんにタダで教えてもらうこと自体、ありがたいと思わなくちゃね」

「翔~、だってよぉ~」

「E高校行くんでしょ!しっかりしなさい!」

「あはは」


和樹は嬉しそうに笑っていた。

俺はその度に、こいつに着いて回る、跡目が気になっていた。


「ただいまー」

「おうー兄貴、おかえりー」

「おかえりなさい」


翔と和樹も同時に挨拶をした。


「よう~二人とも、毎日ご苦労さん。はい、お土産」


兄貴は手に持っていた袋を、二人に渡した。


「まさくん、これなに~?開けてもいい?」

「おう、開けてみろ」

「僕も、開けてもいいですか」

「もちろんだ、開けてみろ」


すると中から出てきたのは、薄いだいだい色のマフラーだった。


「兄貴、マフラーかよ」

「そうだよ」

「なんでマフラー?まだ早ぇじゃねぇか」

「お前と翔は、やがて受験を迎える。その時期は寒いんだ」

「あっ、なるほど」

「まさくん、ありがとう~~」


翔は暑いのに、マフラーを首に巻いて喜んでいた。

和樹は、兄貴がなんでそれを自分にくれたのか、戸惑っていた。


「僕も・・いいんですか?」

「ああ。いつも健人の勉強を見てくれて、ありがとな」

「そんな・・」

「それな・・東雲色ってんだよ」

「え・・」

「いい色だろ」


兄貴・・どういう意味だ・・


「お前らの絆の色だよ」


そう言って兄貴は台所に立ち、夕飯の支度を始めた。


「おーい、兄貴!俺にはねぇのかよ!」

「あるに決まってんだろ。先にお客さんに渡すのが礼儀ってもんだ!」


兄貴は台所で叫んでいた。

俺たちの絆の色か・・

兄貴め・・粋なことしやがって・・


和樹はそのマフラーを抱きしめて、泣いていた。


「和樹・・」

「僕・・こんな嬉しいプレゼントもらったの、初めてだよ・・」

「そっか・・」

「僕も、すっごく嬉しい~~」

「これ・・東雲色っていうんだね・・こんな色なんだ・・」

「和樹、もう泣くなよ。俺まで泣けてきたじゃねぇか」


「お前らも晩飯、食ってけよ~!」


兄貴はまた、台所で叫んでいた。


「はあ~~い!」

「はい、ありがとうございます」


兄貴は和樹のことを、マジで認めてくれたんだな・・

でも兄貴・・和樹は東雲じゃねぇんだ・・

跡目じゃねぇんだよ・・

そういや、和樹の本当の名前ってなんなんだろ・・

親の苗字はなんてんだ?


「ほら~~できたぞ。運ぶの手伝え!」


そして俺たちは、ちゃぶ台に晩飯を並べた。


「いっただきまーす」


俺たち四人は、声をそろえて手を合わせた。

汚ねぇちゃぶ台には、飯とみそ汁と、野菜炒めという質素なおかずが並んだが、俺は最高に美味い晩飯だと思った。

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