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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
43/77

四十三、筋を通す

          


「健人」

「なんだよ」

「俺、ちょっと今日さ・・帰りが遅くなるから」


俺と兄貴は、朝飯を食べながら話をしていた。


「残業か?」

「いや・・その・・」

「あっ・・はいはい~デートっすね~」

「あ・・うん、まあ・・」

「もう~今更、照れんなよ」

「で、お前、ちゃんと戸締りして寝ろよ」

「わかってますよ~ぷぷぷ」

「おめぇ、なんか変な想像してんだろ」

「とんでもないっすよ!ごゆっくりね~」

「バカめ」


兄貴はせっせと、私服の用意もしていた。

あ・・こないだ買ったやつだな。

いいねぇ~春だねぇ~


「んじゃ、行って来る」

「はーい、いってらっさぁ~い」


ん・・?兄貴の帰りが遅いってことは、俺・・会合へ行こうと思えば行けるじゃねぇか。

あ・・でも翔だよ・・

あいつ、ずっと俺といるって言ってたな。

くそっ・・どうすっかな・・



「たけちゃん、おはよう」


通学途中、翔が声をかけてきた。


「おはようー」

「今日は、放課後、残って特訓だよ」

「あ・・うん」


ぐっ・・早速、念押しかよ・・


「二学期の中間、頑張らないとね」

「そだな」

「たけちゃんって、受験する高校、決めてるの?」

「いや・・まだ。あんま知らねぇし。そのうち桃田に相談するかも」

「僕ね、E高校へ行こうと思ってるんだ」

「えっ・・E高校って和樹と同じじゃねぇか」

「そうだよ」

「そっか・・E高校か・・」

「たけちゃんも、そうする?」

「じゃ、俺もそうする」


俺が簡単にそう言ったことで、翔は半ば呆れた顔をしていた。


「たけちゃん・・」

「っんだよ」

「あのね・・E高校って、進学校なんだよ」

「へ・・?」

「試験も難しいし、競争率も高いの!」

「マジかよ・・」

「今のたけちゃんじゃ無理!」

「お前な・・はっきり言い過ぎ」

「だって現実を知っとかないとね」

「そりゃそうだけどよ・・。それって今からでも間に合うのか」

「相当、めちゃくちゃ、すごーく頑張らないと無理だよ」

「マジか・・」


和樹と同じ学校に通えたら、楽しいだろうな。

島田もいるし。

翔は、そこそこ勉強できるし、行こうと思えば行けるんだろうな。

そうなったら、俺だけハブかよ・・


「でもさ、和樹くんにも教えてもらえるんだし、希望はあるよ」

「そっか・・ダメ元でE高校、目指してみるか」

「そうだね!じゃ、放課後ね」


翔はそう言って、教室へ行こうとした。


「翔!」

「えっ・・なに?たけちゃん」

「あの・・今日の特訓は、勘弁してくんねぇか」

「どうして?」

「あっ・・兄貴がデートでさ」

「それで?」

「俺、留守番頼まれたんだ」

「そうなんだ」

「それで、早く帰らなくちゃいけねぇんだ」

「そっかぁ・・それなら仕方がないね」

「うん、わりぃな」

「いいよ。じゃ明日の放課後ってことで」

「わかった」


ああ~~・・よかった。

突っ込まれたら、どうしようかと思ったぜ。

会合に行っても、参加できるかどうかわかんねぇけど、とりあえず俺は行くと決めていた。



放課後になり、俺は和樹に電話をかけた。


「もしもし、俺」

「あ、健人ん。どうしたの?」

「今日の会合って、何時からだ?」

「えっと、午後六時からだけど。それがどうかしたの?」

「いや、はっぱをかけようと思ってな。頑張れよ、和樹」

「うん、ありがとう」


六時か・・まだ時間はあるな・・

俺はとりあえず、老舗料亭の近くまで行き、お茶を飲んで待つことにした。


カフェの中へ入り、俺は作戦を考えていた。

しかし・・何一つ思い浮かばねぇ・・

もう突撃しかねぇか・・

でもそんなことしたら、和樹や東雲に迷惑がかかるといけねぇしな。

ああ~~・・どうすりゃいいんだ・・


「た・け・ちゃ・ん」


げっ・・この声は・・

振り向くと、当然のように翔が立っていた。


「お・・お前な・・」

「やっぱりね。こういうことだろうと思った」


翔はそう言って、俺の前に座った。


「お前・・わかってたのか・・」

「当然!たけちゃんは、すぐ顔に出るんだよねぇ」

「あのな・・今日は、お前は関係ねぇから」

「どうして?僕だって和樹くんの友達だよ」

「そうだけど、お前、助け舟、出したらダメだって言ってたじゃねぇか」

「そうだよ」

「だったら、なんでここに来たんだよ」

「会合が終わった後の和樹くん、心配でしょ」

「え・・」

「話を聞こうと思ってね」

「そっか・・」

「だって、和樹くん、辛くても誰にも相談できないんだよ」

「うん・・」

「じゃ、僕たちが話を聞いてあげるしかないでしょ」

「そうだな・・」

「たけちゃんも、そう考えて来たの?」

「俺は・・」


俺が正直に話したら、翔はぜってー、止めるに違いねぇ。


「たけちゃん・・別のこと考えてるね」

「ち・・ちげーしっ」

「うっそ。あわよくば、参加しようと思ってるでしょ」

「なっ・・」

「やっぱり・・」

「ちげーっつってんだろ」

「ほんとに・・たけちゃんには、困ったもんだ」

「っんだよ」

「もし・・もしよ?参加できることになったら、電話は通話のままね」

「え・・」

「たけちゃん、止めたって行くんでしょ」

「翔・・」

「で、たけちゃん、ある意味、当事者だし」

「・・・」

「ケツ拭かないとね」


翔はそう言って笑った。


「翔・・俺は無茶はしねぇ。約束する」

「うん」

「余計な口出しもしねぇ」

「うん」

「ただ、景須のおっさんに一言詫びなくちゃな・・」

「うん、わかった。でも気をつけてね」


それからほどなくして六時が迫り、俺たちは料亭の前まで行った。

すると黒塗りの車が停車した。

そこから柴中と、和樹が下りてきた。


和樹は黒いスーツに身を固め、背筋も伸びて、いかにも跡目らしい風貌だった。


「あっ!時雨じゃねぇか!」


柴中は俺と翔に気がつき、驚いてそう言った。

しまった・・見つかってしまった。


「柴中さん・・久しぶり・・」

「健人くん・・翔くん・・」


和樹も驚いて俺たちを見た。


「時雨・・お前、来てくれたのか」

「え・・?」


柴中・・なに言ってんだ・・


「実は・・今日、お前も参加することになってんだ。でも、御大はおめぇが参加できねぇことを、今から、景須親分に話すところだったんだ」

「ど・・どういうこと?」

「景須親分は、坊ちゃんも、もちろんのことだが、おめぇにもお怒りでな。だから絶対に連れて来いと仰ってんだ」

「そうなのか」

「でもおめぇは帰れ。御大もおめぇを巻き込むつもりはねぇと仰っている」

「いや、俺、参加するし」

「えっっ!」

「俺、そのために来たんだよ。景須のおっさんにも謝りてぇし」

「おめぇ・・いいのか」

「いいに決まってんじゃねぇか」


ひょんなことから、俺は堂々と参加することになった。

翔は料亭の外で待ち、中の会話を電話で聴くことになっている。


「健人くん・・いいのかい?」

「いいんだって」

「でも、それじゃあまりに迷惑が・・」

「ちげーって。俺も当事者なんだぜ。一言くらい詫びねぇとな」


ほどなくして、爺さんの乗る車が到着した。

爺さんは俺を見つけ、なぜ来たんだ、という風な表情を見せていた。


「時雨くん・・どうしてきみがここにいるのですか」

「爺さん、今日は俺も参加させてもらうぜ」

「なにをバカなことを!早く帰りなさい!」

「俺も当事者なんだよ。男ならてめぇのケツくらい、てめぇで拭かせてくれよ」

「時雨くん、私はきみのお兄さんと約束したのです。裏切るわけにはいきません」

「爺さん・・その気持ちはわかるし、ありがてぇよ。でもな、俺だって男なんだ。ヤクザの世界ってのは筋を通すもんじゃねぇのか」

「時雨くん・・」

「だから、景須のおっさんに詫びを入れさせてくれ。それだけでいいんだ」

「そうですか・・それだけですよ、いいですね」

「わかった」


そして俺たちは中へ入った。


「和樹・・緊張すんなよ」

「健人くんもね」


俺たちは長い廊下を歩きながら、互いを気遣いあった。

大広間に入ると、もう西雲のギョロメおっさんは座っていた。

ふーん、今日はおっさん一人なんだな。

そして俺たちも、それぞれ座布団の上に座った。


ほどなくして、恐ろしい形相をした景須のおっさんが入ってきた。

ひゃ~~・・めっちゃ怒ってんじゃん。こえ~~・・

景須のおっさんは、俺を睨みつけていた。

マジか・・俺かよ・・

怒りの矛先は、爺さんと和樹じゃねぇのかよ・・


「今日、集まってもらったのは他でもない。前の集会の時、あろうことかこの俺を騙しやがった連中がいた。それとだ。跡目が犯罪をやらかして、現在、豚箱に入ってるという不祥事を起こしやがった。これらについて話をする」


景須のおっさんは、部屋中に響き渡るようなドスの利いた声でそう言った。


「東雲。大体のわけは事前に聞いて知っている。おめぇは組存続のためにそこまで仕組みやがった。この俺を騙してまで。どういう了見だ」

「誠に言い訳の余地もございません。大変申し訳なく存じております。浅知恵とは思いましたが、組存続のためにはああするより他に策が見つからず、あのように至った次第にございます」

「東雲の若いの。おめぇはどうなんだ」

「はい。わたくし、東雲の四代目にございます、和樹と申します。親分さんにはお初にお目にかかり、光栄に存じております。この度はわたくしの身体が弱いため、あの日の集会にどうしても参加させていただくことができず、ここにおります時雨くんに頼んだ次第にございます。わたくしも東雲の跡目ならば、地を這ってでも来させていただくべきでしたが、甘い考えに至り、大変申し訳なく思っております」


和樹・・なんか、すげーぞ・・リハして来たのか・・


「時雨とやら。おめぇカタギの身でありながら、この俺を騙す手口に一枚噛むとは、てぇした度胸だ。おめぇみたいなガキに騙されて、俺も焼きが回ったもんだ」

「景須さん、あの日は騙して悪かった。それは素直に謝る。申し訳ない。でも俺がこの話に乗ったのは、決して騙してやろうとか、そんな汚ねぇ考えからじゃねぇんだ」

「ほう。じゃ、なんだ」

「和樹や東雲の事情を知って、助けてやりてぇと思ったんだよ。そしてあの商店街の人たちと東雲の関係は、マジでいいんだ。でも東雲が潰れれば、商店街の人たちは西雲に乗っ取られ、酷い目に遭うのはわかっていた。俺はそれが嫌だったんだ。かわいそうだと思ったんだよ」

「おめぇ、あの日もそんなこと言ってたな」

「そうだよ。それとだ!おい、西雲!」


俺はギョロメに怒りをぶつけた。


「おめぇんとこの成弥。あれは酷でぇやつだ。俺は成弥に殺されそうになったんだぞ。島田ってやつもだ。親ならちゃんと躾をしろ!」


するとギョロメは、俺を睨みつけた。


「時雨とやら、その話はあとだ」

「あ・・はい・・」

「おめぇがやったことは、俺たちの世界じゃ通用しねぇんだ。道理を欠いちゃ生きていけねぇんだ」

「道理って・・ちゃんと道理はあるじゃねぇか!」

「ほう。どんな道理だ」

「商店街の人を思う気持ちだよ。それで十分じゃねぇか。それともなにか。西雲みてぇなクズ集団に、商店街を潰されてもいいってのか。あの人たちが路頭に迷ってもかまわねぇ道理ってなんだよ!っんなもん俺にとっちゃクソなんだよ!」

「時雨とやら・・」

「なんだよ」

「おめぇ・・カタギにしとくのは勿体ねぇな」

「え・・」

「おめぇ、俺が怖くねぇのか」

「怖いけど・・でも俺はあの日、景須さんは話せばわかる人だと思ってたぜ。少なくとも西雲みてぇなクズだとは思ってねぇよ」

「ははは。うめぇこと言いやがる。まあいいだろう。今回のことは大目に見てやる」

「えっ・・ほんとっすか・・」

「ああ。男に二言はねぇよ」


マジか・・許してもらえたぞ・・俺。


「なあ、東雲。この時雨って野郎、なかなかじゃねぇか」

「はい・・わたくしもそう思っております」

「それでだ。西雲」

「はい・・」

「おめぇんとこの成弥がしでかした不祥事。これは看過できねぇぞ」

「・・・」

「事情は全て耳に入ってる。よって西雲。おめぇの組は解散だ」

「えっ・・ちょ・・ちょっと待ってください・・」

「うるせぇ!言い訳無用!」

「そ・・そんなっ・・」


ギョロメは、酷くうろたえていた。


「じゃ、今日はこれにて解散」

「親分・・我が東雲の存続は、どうなるのでしょうか」


爺さんが不安げに訊いた。


「存続だ」

「そっ・・そうですか。ありがたき光栄に存じます」

「親分さん、わたくし和樹も精一杯四代目として精進いたします。今後ともご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます」


ご・・ごべんたつ・・ってなんだ・・?

そして会合は終わった。

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