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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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三十八、翔の熱意



「ねぇ、たけちゃん、どう思う?」

「なにがだよ」

「跡目の話し合いって、もしかしたら、組を解散させられるかも知れないよ」


俺と翔は、昼休み、屋上でそんな話をしていた。


「でもなぁ・・俺たちにはもう、どうすることもできねぇよ」

「そうなんだけど・・和樹くん、このままでいいのかな」

「・・・」

「東雲が解散させられたら、商店街の人たちどうなっちゃうのかな」

「でも西雲も、かなりヤベーらしいぜ」

「えっ・・どういうこと?」

「店長が言ってたんだけど、景須のおっさんが怒ってるらしいぜ。成弥がやったこと」

「そうなんだ」

「だから西雲、潰されるかも知れねぇって」

「そっか・・それならとりあえずは、西雲に乗っ取られる心配はないね」

「でも、和樹、どうすんだろうな・・」


俺は屋上から見える、遠くの景色を見るともなく見ていた。


「たけちゃん・・」

「なんだよ」

「まさくんって、何時に帰ってくるの?」

「え・・どういう意味だよ」

「たけちゃんは、まさくんが帰る前に、帰ってればいいんでしょ」

「そうだけど・・なんだよ」

「E高校へ行ってみない?」

「えっ!お前、なに言ってんだよ」

「僕・・和樹くんのこと、気になるんだよ」

「そりゃ俺だってそうだけどよ・・」

「事務所や親分の家に行くことは、もう無理だし、それなら学校しかないじゃん」

「・・・」

「会えるとしたら、学校だけだよ」

「そうだけどよ・・」

「まさくん、何時に帰ってくるの」

「えっと・・最近は残業とかして、夜の七時くらいかな」

「それならじゅうぶん行けるよ」

「ってか・・翔。お前って結構大胆なんだな」

「だってさ・・友達をやめることを強制されるのって、違うと思うんだ」

「うん・・」


そしてその日の放課後、俺たちはE高校へ行くことにした。

兄貴には死んでもバレませんように・・


「翔、六時半には家に帰れるようにするからな」

「うん、わかった」


俺たちは電車に乗り、とある駅で降り、急いでE高校へ向かった。

そこで翔が和樹に電話をかけた。


「もしもし、和樹くん?うん、うん、あ、今ね、近くまで来てるんだ。そう。うん。たけちゃんも一緒だよ。うん、うん。わかった。じゃ後でね」

「和樹、なんだって?」

「校門で待ってるって」

「そうか」


そして俺たちは校門に着いて、和樹はもう待っていた。


「健人くん、翔くん・・」

「和樹!!」

「和樹くん!!」


和樹の顔には、明るさが全く感じられなかった。


「和樹、お前どうしたんだ」

「健人くん・・もう僕・・ダメかも知れない・・」

「おい!なに言ってんだよ。しっかりしろ!」

「和樹くん、なにがあったの?」


翔は和樹の肩に手を置き、下を向く和樹の顔を覗きこんでいた。


「翔、ここは人が多いから、あっちへ行こうぜ」

「うん。行こう、和樹くん」


俺たちは校門から離れ、近くの公園へ行った。


「何があったんだ、和樹」

「成弥がね・・逮捕される前に半ばヤケクソになって、身代わりのこと洗いざらい喋ってしまったんだ」

「喋ったって、誰に」

「西雲の親分」

「そうか・・」

「そして、それが景須親分の耳に入ってしまって、景須親分はかんかんになって怒ってて・・」

「・・・」

「僕はきっと、跡目を継げないよ・・」


俺はふと思った。

和樹は実の孫じゃねぇ。

本当なら、跡目なんて継がなくていいんだ。

西雲も解散させられるかも知れねぇなら、東雲だって解散させられても、商店街の人は無事なんじゃねぇのか。

俺は「お前は実の孫じゃねぇ」と喉まで出かかっていたが、さすがに今は言えないと思った。

そんなこと言って、ただでさえ元気のない和樹に、新たな苦しみを背負わせるのは酷だと思った。


「景須のおっさん・・結構、物分かりがいいはずなんだけどな・・」

「でも、僕たち東雲が裏切ったことに変わりはないよ。道理を欠いたことは景須親分は許さないよ」

「和樹くん・・そんな悲しい顔しないで・・」

「翔くん・・ごめんね。せっかく会えたのに、僕がこんなんで・・」

「そんな・・友達じゃないか」

「翔くん・・」

「僕ね、和樹くんのこと、ずっと友達だと思ってるから。それだけは忘れないでね」

「たりめーだ。俺もだよ」

「健人くん・・」

「俺さ、兄貴に監視されてて、なかなか身動きがとれねぇんだよ。電話もねぇし。だから今は自由に会えないけど、お前のことは忘れてないからな」

「うん・・ありがとう・・」

「その会合って、いつなんだ?」

「二週間後・・」

「そっか・・」


そこで公園の前を通る一人の男子生徒を見ると、それは島田だった。


「あっっ!!」

「ど・・どうしたの?たけちゃん」

「島田~~!!」


俺は走って島田のもとへ行った。


「あっっ!き・・きみはっっ!」

「島田ぁぁぁ~~!」

「時雨くん!!」

「お前、元気だったんだな」

「時雨くんも、元気そうでよかった!」


俺たちは再会を、心底喜び合った。


「時雨くん、どうしてきみがこんなところにいるんだ?」

「あ・・それは・・。お前もこっち来いよ」


俺は島田の手を引っ張って、翔と和樹のところへ連れて行った。


「島田くん・・」


和樹は少し戸惑った様子だった。


「東雲くん・・」


それは島田も同じだった。


「お前ら、過去のことはもう水に流そうぜ」

「島田くん、初めまして。僕、朝桐翔といいます。よろしく」

「あ・・ああ。よろしく・・」

「お前ら、学校で話とかしてねぇの?」

「あ・・うん。クラスも違うし・・」


和樹がそう言った。


「そっか・・島田もさ、きっかけは妙なことだったかも知れねぇけど、ダチになってもいいんじゃね?」

「え・・僕が東雲くんと・・?」

「そうだよ、嫌なのか」

「いや・・嫌というわけではないけど・・僕、嘘ついて東雲くんを困らせてしまったし・・」

「っんな、そんなの気にしてねぇよな?和樹」

「えっ・・まあ・・」


俺が突然、変なことを言い出したので、当然、妙な空気が流れた。


「あ、それより島田さ・・」

「なに」

「お前、家の方は大丈夫なのか・・」

「え・・うん・・」

「やっぱり親は変わりねぇのか」

「まあ、そんなとこ」

「そっか・・。俺たちさ、山で死にかけて、もう大変だったんだぜ。な?島田」


俺は場の空気を和まそうと、冗談交じりにそう言った。

すると和樹がとても辛そうな表情をした。

しまった・・そっか・・あいつ、このこと自分のせいだと思ってんだ・・


「でも、時雨くんはとても頼りになる人だよ。僕、きみに助けられたと思ってるんだよ」

「っんなことねぇって」

「僕を逃がすために、すごく頑張ってくれて。僕をずっと温めてくれたり。僕を休ませて自分は色々探し回ったり、ほんとすごいんだよ、時雨くんは」

「島田も俺を助けてくれたじゃねぇか。コンビーフ食わせてくれたりさ、俺が死にかけた時、必死で頬を叩いてくれたりさ。眠っちゃダメだよ!とか言ってくれたりさ」

「あはは。そんなこともあったね」


俺と島田の会話を、和樹はじっと見つめていた。


「和樹・・どうしたんだ」

「きみたちって・・強いんだね」

「え・・」

「僕は・・弱い人間だ・・」

「っんなことねぇって!」

「和樹くん、なに言ってるの?」


翔は少し、和樹に食って掛かる雰囲気だった。


「だって僕・・自分一人じゃなにもできないよ・・」

「和樹くん!しっかりしなよ!まだなにもやってないじゃないか!」


そして翔は怒鳴った。


「翔くん・・」

「和樹くんは、まだなにもやってない!なにもしないうちから、出来ないって決めつけるの!?情けないよ!」

「・・・」

「今度の会合だって、出てみなくちゃわからないよ。親分がカンカンに怒ったからって、それで引き下がるつもりなの?」

「・・・」

「自分からぶつかってみなよ!ダメ元でいいじゃん!和樹くんの思いを親分にぶつけてみなよ。それでもダメなら、こっちから止めてやらぁ~くらい言えばいいじゃん!」

「翔・・もういいだろ・・」


俺は翔を制した。


「和樹くんのために、たけちゃんがどれだけ頑張ったと思ってる?あんな恐ろしい人たちの前で、たけちゃんは一歩も引かなかったよ!それわかってる?」

「うう・・」

「泣いたってダメ!」


翔・・一体どうしたんだ・・

島田はすでに固まっていた。


「僕・・できるのかな・・。こんな僕が・・」

「できるのかな、じゃなくて、やるの!」

「・・・」

「逃げたいなら逃げれば?」

「え・・」

「できるの?できないの?」

「・・・」

「ちゃんと答えなよ!」

「翔!もういいじゃねぇか!」

「たけちゃん!そんな甘いこと言って。たけちゃんは和樹くんがこのままでうまくいくと思う?」

「それは・・」

「優しくするのもいいけど、今度の会合で、和樹くんの運命が変わっちゃうかも知れないんだよ?そんな大事なことを、優しくするだけでうまくいくとは思えないね、僕はっ!」


翔・・お前、マジで和樹のこと思ってんだな・・


「和樹くん・・僕は和樹くんはやればできると思ってるよ。ただ何もやった経験がないだけだよ。最初の一歩だよ。わかる?」

「翔くん・・」

「要は・・自分の気持ちを正直にぶつければいいだけなんだよ」

「うん・・」

「ごめん・・僕、言い過ぎたね・・」

「そんなことないよ。ありがとう」

「僕、和樹くん好きだからね。だからこんなこと言ったの」

「うん、わかってる」


和樹の表情は、どこかしら何かが吹っ切れたように思えた。


「島田~~固まってんぞ」

「え・・あ・・あはは」

「なに笑ってんだよ」

「いや・・なんか、すごいなって」

「なんだ、それ」

「時雨くんの友達って、いいね」

「じゃ、お前もダチになれよ」

「えっ・・いいの?」

「いいに決まってんじゃん。な?和樹、翔」

「もちろん!」


翔は元気にそう言った。


「和樹は?」

「うん、僕も」


和樹は笑ってそう言った。


「わあ~・・なんか嬉しいな」


島田も嬉しそうに笑った。

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