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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
37/77

三十七、そして二学期になり・・



それからしばらく、何事もない日が続いた。

また明日から学校だ。

そして、コンビニのバイトも今日で終わり。

あっという間だったな・・


「短い間だったけど、ご苦労様でした」


店長がそう言って、丁寧に挨拶をしてくれた。


「こちらこそ、お世話になりました。途中、さぼったりしてすみませんでした」

「なにを言ってるんだい。きみが無事に戻って来てくれて、ほんとによかったよ」

「また冬休みになったら、ここでバイトさせてください」

「もちろんだよ。正直、きみが抜けるのは痛手なんだけどね」


俺は店長からそう言われて、誰かに必要とされるって、こんなに嬉しいことなんだと思い知った。


「奥さんも元気になって、よかったですね」

「うん。もう何も心配することないから、ホッとしているよ」


奥さんは、俺と交代する形で少しずつ店に出てきていた。


「それにしても・・成弥は僕がいた頃より、更に酷い人間になっていたね」

「そうなんすね」

「でもま、逮捕されたし、よかったよ」

「はい」


成弥が十日ほど前に逮捕されたことを、俺はテレビのニュースで知っていた。


「まあ、西雲もこれで懲りたんじゃないかな」

「そうなんすか?」

「西雲は、この機に潰されるんじゃないかな」

「えっ・・マジっすか」

「東雲さんも、相当お怒りの様子だし、景須さんも同じだと思うよ」

「そっか・・」

「あのね・・余計なことかも知れないけど、和樹くん、元気がないみたいだよ」

「え・・」

「この間、家内の全快祝いを東雲さんにやってもらってね、その時の和樹くんの様子がね・・」

「マジっすか・・」

「うん・・空元気というのかな。それを東雲さんも気にしておられたよ」


和樹とは、あの日以来、連絡を取ってない。

というか、俺は電話もないし、兄貴が目を光らせているし、俺は身動きが取れない状態がずっと続いていた。

和樹・・また一人ぼっちになってしまったんだな・・


「さ、もう帰りなさい。ほんとにご苦労様でした」

「あ、はい。店長もお元気で。たまに買いに来ます」

「うん、そうしてね」


そして俺はコンビニを後にした。

和樹に会いてぇなぁ・・

それと、島田はどうしているんだろう・・


あっ!俺、奈津子に金を返してねぇじゃねぇか。

しまった・・あれからだいぶ日も過ぎてる。

帰ったら兄貴に電話を借りて、かけないとな。


そして俺が家に帰ると、兄貴も帰っていた。


「ただいまぁ」

「おかえりー」


俺は部屋に上がり、ちゃぶ台の前に座った。

兄貴は台所で晩飯を作っていた。


「兄貴ー」

「なんだー?」

「ちょっと電話貸してくんねぇ?」

「誰にかけるんだ」


兄貴は振り向いて、怪訝そうな顔をした。


「ほら、小屋でいた人に、俺、金を借りたままなんだ。返させねぇと」

「そうか」


兄貴はズボンのポケットから携帯を出し、俺に渡してくれた。


「ありがと」


俺は引き出しに入れておいたメモ用紙を取り出し、奈津子に電話をかけた。


「もしもし、俺、時雨だけど」

「あら~~!時雨くん。お久しぶりね!」


嬉しそうな奈津子の声が、俺はウザかった。


「あの、金を返してぇんだけど、どうしたらいい?」

「ヤダ~~、そんなのいいのよ。あれはあげたと思ってるのよ」

「いや、それはダメ。借りたもんは返さねぇと」

「いいのに~、時雨くんって律儀なんだね」

「いや、別に、普通のことだよ」

「そうかー。じゃ、時雨くんの都合に合わせるよ」

「えっと・・、俺、明日から学校だから、放課後どっかで会えるといいんだけど」

「うん!いいわよ~~」


奈津子は俺と会えることが、とても嬉しそうだった。

なに考えてんだよ。バカじゃねぇのか。

そして、俺たちは明日の始業式の後、駅前で会うことになった。

よし、翔も連れて行こう。


「相手の人、なんだって?」

「明日、返すことになった」

「そうか。まっすぐ帰ってくるんだぞ」

「わかってるって」


はあ~~・・兄貴にはウンザリだ。

いつまで俺を、監視し続けるつもりだよ。

俺はだいぶ、イライラが積もっていた。



「たけちゃん、おはよう!」

「おお~翔、久しぶりだな」


次の日、校門の前で俺と翔は再会を喜んだ。


「その後、まさくん、どう?」

「どうもこうもねぇよ。ずっと監視しやがってさ」

「そっかぁ・・」

「お前、和樹に連絡取ってんのか?」

「うん。でも和樹くん、元気ないんだぁ」

「そうか・・」

「会いに行くっていったって、まさくんが許してくれないよね・・」

「目を盗んで行けなくもねぇけど、バレたら今度こそぶっ殺される」

「だよねぇ・・」

「あ、お前、帰り、俺に付き合ってくれよ」

「え・・?どこへ行くの」

「小屋で出遭ったババアに、金を借りたままでさ」

「たけちゃん・・ババアって。酷いな」

「それで俺一人で会うの嫌だから、お前に着いてきてほしいんだよ」

「うん、わかった」

「じゃ、帰りにな」


そして俺は教室へ入り、席に着いた。


「時雨くん、おはようございます」

「おお、由名見。おはよう」

「夏休み、どうでしたか?」

「バイトばっかり」

「そうなんですね~」

「由名見は?」

「まあ、いつもと同じ感じですかね。あはっ」


少し焼けた肌で、由名見の夏休みが、それなりに楽しかったと理解した。


「勉強はどうですか。やってました?」

「もちろんだよ。やったやった」


実は勉強なんて、ろくにやってなかった。

というか、それどころじゃなかった。


「そうですか~、また頑張りましょうね」

「うん。頼むな」


由名見はいいやつだな。

和樹と、どうなってんだろ。


「あのさ・・お前ってさ」

「なんですか」

「和樹と連絡とかしてんの?」

「えっ・・」


由名見は、また顔を赤らめて下を向いた。


「なんかさ、最近、和樹、元気がねぇらしいんだよ」

「え・・そうなんですか・・」

「で、俺、色々あって連絡できねぇんだよ」

「色々って・・?ケンカでもしたんですか」

「いや、してない」

「そうですか・・」

「でさ、ちょっとでも誰かが話し相手になってやったら、あいつも気が紛れるんじゃねぇかと思ってな」

「そうですか・・」

「で、連絡とかしてんの?」

「いえ・・和くんと接触するの、固く禁じられていまして・・」

「げっ・・マジかよ。誰に」

「お爺さんです・・」

「そっか・・。やっぱりあれか。和樹が跡目だからか」

「まあ・・そうですね・・」


和樹は恋愛もできねぇのか・・


「和樹と会ったの、いつなんだ」

「えっと・・最後に会ったのは、一年くらい前です」

「そっかぁ・・。和樹はお前の気持ち、知ってんの?」

「えっっ!そんなっ・・知りません」

「なんか、お前も和樹もかわいそうだな・・」

「え・・」

「会いたくても会えないなんてよ・・」

「和くんは・・私のことなんて・・」

「そんなの、わかんねぇだろ」

「そうですけど・・」

「ま、この先、どうなるかわかんねぇし、いい方に考えたらいいんじゃね?」

「はあ・・」


由名見は消極的だなぁ。

結構、かわいい顔してんだから、いけると思うんだけどねぇ。

でもま、連絡とか禁止されてるんだから、しょうがねぇか・・

大人って、めんどくせーよなぁ・・


それから放課後になり、俺と翔は駅前に向かった。


「翔、奈津子ってババア、ちょっとめんどくせーけど、勘弁な」

「そんなの、全然いいよ」

「そっか。それならいいんだけど」

「だって、返してくれるかもわからない相手に、お金を貸してくれる人なんて、変な人じゃないよ」

「まあなあ・・」


こいつ・・俺が言ってる意味わかってねぇな。


「時雨くん~~!」


前方から奈津子が嬉しそうに走って来た。

うげっ・・なんかめっちゃお洒落してるし・・派手だし・・似合ってねぇし・・

奈津子は、スカートの裾がヒラヒラの、ピンクのワンピースを着て、おまけに腰に大きなリボンを巻いていた。


「お待たせ~~ごめんね」

「いや・・待ってねぇし」

「ヤダ、気を使ってくれてるのね。あ・・この子は・・」


奈津子は翔に気がついて、微笑んでいた。


「どうも、初めまして。朝桐翔といいます」

「初めましてっていうか、私、あなたと山ですれ違ってるのよ」

「そうでしたか~」

「私、大家奈津子。よろしくね」

「で、これ借りた金。ありがとな」


俺は五千円を渡そうとした。


「ヤダ~。お茶くらいしましょうよ」

「え・・」

「せっかくなんだから。ね、いいでしょ」

「翔、どうする?」

「あ・・うん、僕は別にいいけど・・」


翔は、やっと俺の言った意味に気がついたな・・すげー引いてるし。


「じゃ、行こ、行こ」


奈津子は俺たちの前を歩き、近くのカフェに入った。


「翔・・引くなよ」

「たけちゃん・・僕、ああいう人・・苦手・・」


俺たちは、憂鬱な気持ちでカフェに入った。


「私ってね、山登りが趣味なんだ~」

「そっすか・・」

「悠斗は幼馴染なんだけどね~。彼も山登りと絵画が趣味なのよ」

「へぇ」

「ヤダ、私と悠斗、付き合ってるとか思ってない?」


いや・・どうでもいいし。


「違うのか」

「ヤダ~、違うわよっ。あくまで幼馴染なのよ~」

「あの・・そろそろ帰らないと・・」


翔が耐え切れずにそう言った。


「えー、まだ座ったばかりじゃない」

「いや、俺たち中学生だから、寄り道禁止なんだよ」

「ええ~、そうなのー」

「じゃ、これ返すな。ありがとう」

「もっと話したかったのに~」


翔が自分の分を払おうと財布を出した。


「いやいや、いらないって。私がご馳走してあげる」

「でも・・」

「いいから、いいから」


そういって奈津子は、受け取らずにレジへ行った。


「すみません・・ご馳走様でした」


翔は頭を下げて礼を言った。


「ありがと」


俺も礼を言った。


「そんな~いいのよ、このくらい。時雨くん、またいつでも連絡してね」

「はあ・・」

「じゃあね!」


奈津子はそう言って、来た道を帰って行った。


「ふぅ~~・・」

「翔・・お前に着いてきてもらって正解だったぜ」

「あの人、たけちゃんのこと好きだね」

「知るかよ。あんなババア」

「たけちゃん、中学生に見えないもんね。ド・ストライクなんだと思うよ。年下の子が好きって人、結構いるし」

「げぇ・・考えらんねー。でも、もう会うこともねぇしな」


それから数日後、翔の携帯に和樹から電話があり、どうやら景須が招集をかけたらしい。

そこに和樹も参加して、跡目のことをもう一度、話し合うことになったそうだ。

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