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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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三十五、兄貴の怒り



今日は、幸いにもピーカンの天気だ。

俺は来た道を、とりあえず引き返すことにした。

別荘の近くまで行けば、車が通れる道が必ずあるはずだ。

俺はそこを下って行けば、麓に辿り着けると考えていた。


それにしても、島田はちゃんと帰れたんだろうか。

途中で倒れたりしてねぇだろうな・・

一時間ほど歩くと、遠くに別荘が見えてきた。

よしっ・・あと一息だ。

もうすぐ道路に出られるぞ。


俺は別荘の近くまで行き、表玄関の方へ回ると、道路が見えてきた。

やった!!よし、ここを一気に下へ下るぞ!


それから俺は走れるだけ走り、やがて麓に辿り着いた。

やった・・助かった・・

俺はバス停を見つけ、八王子駅前行を座って待つことにした。


それにしても、成弥の野郎・・あいつだけはぜってーに許さねぇからな。

このことをサツに垂れ込んで、豚箱にぶち込んでやる!


しかし・・今回のことで、もう兄貴にも話さなくちゃいけねぇな。

きっと死ぬほどぶん殴られるだろうけど、それも仕方がない。

そして俺にはもう一つ、心に引っかかっていることがあった。


和樹が実の孫じゃねぇってことだ。

あいつはまだ十七だ。

長い人生、これからだっつーのに、この先、ほんとに親分になっていいんだろうか。

あいつ、どう見ても、ヤクザに向いてないと思うんだけどな・・

和樹は優し過ぎるんだよ・・


ほどなくしてバスが到着し、俺はそれに乗って駅前まで行った。

電車を乗り継ぎ、やがて地元の駅に到着した。


さて・・帰るか。

兄貴・・怖ぇな・・



「ただいまぁ・・」


俺がそう言って玄関の扉を開けると、兄貴と翔が慌てて飛び出してきた。


「健人!!」

「たけちゃん!!」

「お前、どこ行ってたんだ!!もう、どれだけ心配したか!!」


兄貴はそう言って、俺を抱きしめた。


「たけちゃん・・無事で・・ほんとに無事だったんだね・・よかった・・」


翔はその場にへたり込んで、泣き出した。


「心配かけて悪かった」


それから俺たちは部屋に上がって、三人でちゃぶ台を囲んだ。


「一体、なにがあったんだ」

「実はさ・・」


俺が誘拐されて、山奥の別荘に連れて行かれたこと、そこで島田と会ったこと、そして島田と逃げたこと、山小屋に避難したことなど、全部話した。

もちろん、今回のことは成弥が仕組んだことも。


「健人・・どうしておめぇが、ヤクザなんかに誘拐されなくちゃいけねぇんだ」

「それも話す・・」


俺は和樹の身代わりになったことから、これまでのことを全部話した。


「おめぇ・・そんな危険なことやってたのか・・」


兄貴は怒りに震えて、拳を握っていた。


「ごめん・・」

「あの、まさくん。僕も協力者だったし、黙ってて悪かったと思ってる。でも、ヤクザっていっても和樹くんはいい人なんだ。親分さんも」

「おめぇら・・舐めた真似しやがって・・」

「兄貴、翔は悪くない。俺が巻き込んだだけだ」

「うるせぇ!おめぇら同罪だ!」

「兄貴・・俺はいくらでも殴られる覚悟はできてんだ。でもちょっと待ってくれ」

「なにっ!!」

「島田が無事に帰れたか、確認してぇんだ」

「・・・」


「翔、電話かしてくれ」

「うん、いいよ」


翔は携帯を俺に渡した。

そこで俺は、和樹に電話をかけた。


「和樹、俺、健人だけど」

「健人くん!!今、どこなの?この電話、翔くんのだよね。ってことは無事に戻ったの?」

「あ、うん。でさ、ちょっと教えてほしいんだけど、島田の家って知らねぇか」

「島田・・、ちょっと待ってね」


和樹は誰かに住所を確かめている風だった。


「えっと、いいかい。言うからメモしてね」

「うん。ちょっと待って。兄貴、書くもん、書くもん」


兄貴は急いで紙と鉛筆を出した。


「和樹、言って」


そして俺は和樹が教えてくれた住所をメモした。


「和樹、わりぃ。詳しいことはまた今度話す。じゃな」


そして俺は翔に携帯を返した。


「帰って来たばかりで悪いけど、俺、ちょっと島田んち行ってくる」

「あ、僕も行く」

「健人、ちょっと待て」


兄貴は俺の腕を掴んで、引き止めた。


「なんだよ」

「お前・・これ以上、まだ勝手なことを続けるつもりか」

「ちげーって。島田の安否を確認するだけだよ」

「そんなもん、和樹ってやつにやらせればいいだろ!」

「なっ・・」

「おめぇ・・誰のせいでこうなったと思ってんだ!」

「兄貴・・」

「全部、東雲と和樹ってやつのせいじゃねぇか!」

「兄貴!兄貴だって和樹を見ただろう!祭りの時、会っただろう!」

「それがどうした」

「どうしたって・・和樹、いいやつだったろ??」

「その「いいやつ」のせいで、お前がこんな目に遭ってんじゃねぇか!いい加減にしろ!」

「・・・」

「俺は行かせねぇからな」

「だから、ちげーんだって。島田は俺を助けるために山を下りたんだ。でも島田は戻ってこなかった。だからあいつ、どっかで倒れてるかもしんねぇんだ」

「何度言えばわかるんだ。それはおめぇがやることじゃねぇ。和樹がやるこった」

「だから・・島田は俺を!」

「バカ野郎!!」


兄貴はそう言って俺を殴ってきた。


「まさくん!やめて!」


翔は俺をかばうように、身体を張って兄貴を制した。


「翔!お前が着いていながら、なんでこんなこと黙ってたんだ!」

「まさくん、落ち着いてよ。僕も悪かったと思ってる。でも和樹くんはほんとにいい子なんだよ」

「知るかっ!」


そう言って兄貴は翔を突き飛ばした。


「兄貴!なんてことすんだ!翔は関係ねぇだろ!」

「うるせぇ!俺は絶対に許さねぇからな。東雲も和樹も!」

「兄貴・・」


クソバカ兄貴め・・

人の生き死にがかかってるってのに・・

俺は強引に家を飛び出した。


「こらっ!待て!健人!」


兄貴は俺を追いかけてきたが、翔が兄貴の身体にまとわりつき、必死で止めていた。

すまん・・翔。

俺は住所を書いたメモを握りしめ、そこを目指して走った。


俺はまた電車に乗って、とある駅で降り、やがて島田の家へ着いた。

ここか・・俺んちと変わらねぇ古いアパートだな・・

俺はドアをノックした。


「は~い・・」


中から女の声がした。

母親か・・?

ドアが開くと、くたびれた中年の女が出てきた。


「あの・・島田くんいますか」

「えぇ~・・?あんた誰よ」

「俺は島田のダチですけど」

「いないわよ」

「え・・あの・・いつからいないんですか」

「さあ?二、三日前から帰ってきてないわよ」

「え・・マジですか!」

「なによ、あんた。なんか用事?」

「いえ・・」


俺はそう言って、島田の家を後にした。

嘘だろ・・島田・・帰ってなかったのか・・

あいつ・・あの山のどこかで死んでんじゃねぇのか・・

これは大変なことになった・・


俺は急いで家へ帰り、山へ行く支度をした。


「健人!今度はどこへ行くつもりだ!」

「うるせぇ!」

「おめぇ!」

「うるせぇよ!島田は帰ってなかった。あいつ、あの山で死んでるかもしんねぇんだよ!」

「なにっっ!」

「俺は行く!引き止めても無駄だからな」

「お前な・・それなら警察へ行くべきだろ」

「え・・」

「おめぇ一人が行ったって、どうやって探すんだよ!バカかっ!」

「そうか・・警察に探してもらえばいいんだ・・」

「ったく・・落ち着けよ!」

「兄貴、俺、今から警察行ってくる」

「それなら俺も一緒に行く」

「俺一人でいいよ」

「ダメだ!お前はなにするかわかったもんじゃねぇからなっ」

「ふんっ。勝手にしろよ」


俺と兄貴は、近くの交番へ行き、事情を話して捜索願を出した。

それからすぐに、警察の捜索が始まった。


俺もじっとしていられなくて、山へ行こうと思った。

当然のように、兄貴も着いて来た。

翔にも連絡し、翔も着いてくることになった。


山へ入ると、何人もの捜索隊があちこちを探し回っていた。


「おめぇ・・よくこんなところから一人で帰って来れたな」

「まあな・・」

「たけちゃん・・こんなところで避難してたんだね。よく頑張ったよね」

「まあ、死ぬかと思ったけどな」

「バカめっ!」


兄貴はまた怒っていた。

俺たちは捜索隊と別れて、小屋へ向かった。


「うわあ~、この小屋でたけちゃん、いたんだ・・」

「うん」

「オンボロだね・・」


俺が中へ入ろうとすると、内側からドアが開いた。

すると中から悠斗が出てきた。


「あっ!お前、まだいたのか」

「時雨くん!どうして戻って来たの」

「いや、俺を助けに山を下りたやつが、まだ家に帰ってなくてな・・」

「その子なら、中で寝てるよ」

「えっっ!」


俺が慌てて中へ入ると、島田は毛布にくるまれ眠っていた。


「し・・島田っ!!」

「静かに・・さっき眠ったところだから」


悠斗はそう言って、俺を制した。


「健人、そいつが島田なのか」

「うん・・」

「たけちゃん、よかったね。島田くん生きてたんだね」

「うん・・うん・・ううう・・」


俺は島田を見て、思いっ切り泣いてしまった。


「僕、捜索隊の人に知らせてくるね」


翔はそう言って出て行こうとした。


「翔、待て。おめぇ一人じゃ危ねぇ。俺も一緒に行く」

「まさくん、ありがとう」


やがて二人は捜索隊のもとへ行った。


「あっ!時雨くんじゃない!」


奈津子が驚いて入口に立っていた。


「あ・・どうも」

「どうもじゃないわよ。さっき出て行った人たち、誰?」

「俺の兄貴と、ダチだよ」

「そうなんだ。で、なんで時雨くんがここにいるの?」

「警察に知らせて、島田を探しに戻ったんだよ」

「そうだったの・・」

「でもなんで、島田はここに戻ってきたんだ」

「あのね・・」


奈津子はそう言って話を続けた。


「私たちがここを出ようとした時、この子・・フラフラになって戻って来たのよ。私が、あなた島田くん?って訊いたら「そうです」って。で、山を下りようとしたんだけど道がわからなくなって、夜になったし野宿したんだって。夜が明けて再び下りようとしたらしいけど、もう体力が残ってなくてね。それで戻って来たみたいよ」

「そっか・・こいつ・・野宿してたんだ・・それでまた、山を下りようとしたんだな・・」

「でも大丈夫よ。食べ物も与えたし、熱もないようだし」

「そっか・・ありがとう・・」


ほどなくして捜索隊が小屋に到着し、島田を抱えて山を下りた。

よかったな・・島田・・お前、生きてんぞ・・

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