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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
34/77

三十四、悠斗と奈津子



・・・


・・・・


・・・・・はっ!


俺は目を覚ました。

あ・・ここは小屋か・・

そうだ!島田はどうした。

あいつ・・無事に下りられたのか・・?


俺は毛布をはいで起き上がり、外が暗くなっているのに気がついた。

そうか・・もう夜なんだな。


俺はろうそくに火を点け、水道まで歩いた。

蛇口を捻り、ゴクゴクと水を飲み、残っていたコンビーフの蓋を開けようと思ったが、それは思い留まった。


俺はぐっすり眠ったことで、たいぶ疲れも取れていた。

しかし・・一時はどうなることかと思ったぜ。

島田は号泣するしよ・・

もう死んだかと思ったぜ。


今はここで朝を待つしかないな。

俺はもう一度毛布を被り、床に座った。


カサカサ・・


えっ・・!誰か来たぞ。

島田か??

あいつ、無事に下りて戻って来てくれたんだな。


「え~・・怖いよ」


俺が立とうとした時、女の声がした。

女・・?誰なんだ・・


「でも今からじゃ、下りられないよ」


今度は男だ・・

しかも島田の声じゃない。


「でも私、ヤダ。こんな幽霊屋敷みたいな小屋」

「わがまま言うなよ。朝になったら下りられるから、ここで我慢しろよ」

「じゃ、悠斗ゆうと、先に入ってよ」

「うん」


なにっ・・入って来るのか・・


ギイ・・


ドアが開き、そいつらが入って来た。


「うわあ~~~」


悠斗という男は、俺が毛布を被って座っている姿を見て、大声をあげて驚いていた。


「ヤダ、なにっ?どうしたの、悠斗!」


ドアの入口で、女が怯えた声をあげていた。


「お・・お前・・誰だ・・」


悠斗が俺に話しかけてきた。


「俺、ここで遭難したんだよ」

「えっ・・」

「で、助けを待ってるところ」

「そ・・そうか・・」


悠斗はリュックを下ろし、懐中電灯で部屋を照らした。


「きみ・・若いんだな・・」


悠斗は三十代くらいの、どこにでもいるような普通の男だった。


「悠斗!誰がいるの?誰っ?」


女は、まだ入り口で怯えている様子だった。


奈津子なつこ、入っておいで」

「え・・大丈夫なの・・?」

「うん」


そして奈津子という女が入って来た。


「ヤダっ!この子、誰っ?」

「遭難したそうだよ」

「え・・ほんとなの・・」

「うん」


奈津子という女も、三十代前後の、どこにでもいるような地味な女だった。

ってか・・どちらかというと、不細工だった。


奈津子はドアを閉め、悠斗の腕にしがみついた。


「座れば?」


俺は二人にそう促した。

二人は少し落ち着いたようで、奈津子もリュックを下ろしていた。


「お前らも遭難したのか」


俺の言葉使いに、悠斗は顔をしかめた。


「ああ。帰り道を見失ってさ。で、偶然、ここを見つけたってわけ」

「そうか。そりゃ災難だったな」

「きみは、どうして遭難したんだ」

「俺も同じようなもんさ」

「そうか・・」

「お前、携帯持ってる?」

「あのな・・お前って言い方、失礼だぞ」

「そうかよ」

「まったく・・近ごろの若い子は、これだもんな」


うるせぇなぁ・・

今、そんなことに拘ってる場合かよ。

バカじゃねぇのか、こいつ。


「で、携帯持ってんの?」

「持ってるけど、電波が届いてないから、かけるのは無理」

「そっか」

「きみ・・何か食べるものは持ってるのか」

「うん、これ」


そう言って俺は、コンビーフを見せた。


「そうか。もしよかったら、これ食わないか」


悠斗はリュックから、あんぱんを出し、俺に渡そうとした。


「いや、いらねぇ」

「そうか」

「ねぇ・・きみ、高校生なの?」


奈津子がそう訊ねてきた。


「中学生だよ」

「えっっ!!ほんと?高校生でもちょっと大人びてるなって思ったのに、まさか中学生だなんて」

「悪いかよ」

「えっ・・別に悪くはないけど・・」

「お前ら、飲み物持ってんの?」

「いや・・実はもう残ってないんだよ」


悠斗がそう言った。


「あそこに水道があるぜ」


俺は立ち上がり、そこを案内した。


「うわっ・・背も高いのね・・」


また奈津子が驚いて、そう言った。


「ここ。これ捻ったら水が出るから」

「そうか。ありがとう」


悠斗と奈津子は、美味しそうに水を飲んでいた。


「それと、寝るんだったらこれ使えよ」


俺は二枚の毛布を、悠斗に差し出した。


「え・・きみはどうするんだ」

「俺はもう、たっぷり寝たから」

「そうか・・じゃ借りるね」


「きみ・・名前はなんて言うの」


奈津子がそう訊いてきた。


「時雨」

「そうか、時雨くんっていうんだね」

「ああ」

「私は大家おおや奈津子なつこ、よろしくね」

「僕は、前島まえじま悠斗ゆうと、よろしく」

「ああ」

「時雨くんさ~、イケメンなんだから、もう少し愛想よくしたら?」


はあ??なに言ってんだ、このババア。


「大きなお世話だよ」

「ヤダ、かわいいんだから」


うげぇ・・マジこいつ、キモイんだけど・・

横で悠斗は奈津子を睨んでるし・・

俺、関係ねぇからな。


「二人とも早く寝れば?」

「あ、そうね。あはは」


奈津子はバカみたいに笑った。

この女、サイテーだ。

お前ら付き合ってんだろ。

彼氏の前で、よくそんなこと言うよな。


二人は俺と離れたところで、毛布を被って横になっていた。

はぁ~~・・早く朝が来ねぇかな・・


「時雨くん・・」


俺は座ってウトウトし始めたころ、奈津子が俺を起こしにきた。


「え・・あ・・」

「朝だよ」

「え・・マジか」


俺は、窓の隙間から陽が差すのを確認した。


「お前、なんか書くもの持ってねぇ?」

「持ってるよ?」

「それ、ちょっと貸してくんねぇか」

「いいわよ~ちょっと待ってね」


奈津子はなぜか嬉しそうに、リュックの中を探していた。


「はい、これでいい?」


奈津子は小さなメモ用紙と、ボールペンを俺に差し出した。


「いや・・もっと大きな紙っつーか」

「え・・なにするの?」

「ここに助けが来るかもしんねぇから、メモを残しておかないと心配するからな」

「そっかぁ。大きな紙かぁ。ねぇ!悠斗!悠斗ってば!」


奈津子は、まだ寝ている悠斗を大声で起こした。


「っんだよ~~・・えぇ・・?なに?」

「悠斗、画用紙持ってたよね」

「え・・?あ・・うん」

「それ、時雨くんにあげて」

「ちょっと待ってくれ~~・・はあ~~あ・・」

「呑気にあくびなんてしないで、ほら、早く!」


悠斗はゴソゴソと、リュックに手を入れて、画用紙を出した。


「ほら・・これでいいか」


奈津子は急いで画用紙を受け取り、一枚ちぎって俺に差し出した。


「どうぞ」

「あ・・どうも」


俺はそこに「島田と救助に来てくれた人へ。今から山を下りますので、心配しないでください。身体も大丈夫です。時雨健人」と書いた。


「健人くんっていうんだ~」


けっ・・またかよ。ウゼー女。


「で、お前らどうすんの。俺は行くけど」

「うーん、もう少し後で下りるよ」


悠斗がだるそうに言った。


「あ、そうだ。ここってどこなんだ?」

「え・・ここは八王子だよ」


奈津子がそう言った。

八王子だったのか・・


「あ・・悪いんだけど・・金、貸してくんねぇかな」

「うん、いいよ、いいよ~」


奈津子がリュックから財布を出した。


「いくら?」

「電車代があればいいんだけど」

「じゃ、これ持ってって」


奈津子はそう言って、五千円を出した。


「いや、こんなにいらねぇし」

「なに言ってるの、下りるまで何があるかわかんないでしょ」

「え・・まあ・・」

「ほら、遠慮しないで」

「じゃ・・あの、後で返すんで、携帯の番号教えてくれねぇか」

「はいはい~~いいわよ~~」


奈津子はそう言って、番号をメモ用紙に書き、俺に渡した。


「俺、携帯持ってないから、番号教えられねぇけど」

「そんなのいいのよ。電話待ってるね」


俺はメモを受け取り、小屋を出ようとした。


「時雨くん、これ持って行きなさい」


悠斗が、昨夜のあんぱんを俺に渡した。


「え・・いらねぇよ」

「お腹すいたらどうするんだ?」

「・・・」

「こんなの荷物にならないよ。さ、持ってって」

「そっか・・すまねぇな」


俺はあんぱんを受け取り、小屋を出た。

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