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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
33/77

三十三、生と死の狭間

         


俺たちは、雨の中を歩けるだけ歩いた。

ひ弱な島田は、相当疲れていた。


「時雨くん、この先を進んでも、なにもないと思うよ」

「だけどさ、今は少しでもあいつらから離れるしかねぇだろ」

「っていうか・・方角が全くわからないよ」


島田は辺りを見回して、不安げに言った。


「もう動かない方がいいと思うんだ」

「動かないっつったって、ここに立ってるわけにもいかねぇぜ」

「そうだけど・・」

「お前、ちょっとここで休んどけ」

「え・・」

「俺、あいつらがいないか、引き返して確かめて来るわ」

「大丈夫・・?」

「大丈夫だよ。心配すんな。お前は俺が戻ってくるまで、ここで休んどけ」

「わかった・・」


そして俺は来た道を引き返し、あいつらがいないか慎重に探した。

すると、ほどなくして、あの山小屋が見えてきた。

俺は小屋に近づき、そっと中を覗いてみた。

中には誰もいない様子だ。

小屋の周りにも、人の気配はない。


俺たちがここにいないとわかって、あいつら・・屋敷に戻ったのか。

だとすれば、ここには二度と来ねぇな。

よしっ、島田を連れて来よう。


俺はすぐさま、島田の元へ戻った。


「島田・・島田・・」


俺が呼びかけても、島田は目を瞑ったまま返事をしない。


「おい!島田!起きろよ!」


俺は島田の身体をゆすってみたが、それでも反応がない。

お・・おい・・まさか・・死んでんじゃねぇだろうな・・

ちょっと待ってくれよ・・頼むよ・・マジ・・

俺は島田の心臓に耳をあてた。

すると鼓動が聞こえてきた。


よかった・・死んではいねぇ・・


「おい・・島田!聞こえるか?目を覚ませよ!」

「・・・う・・ん・・」

「あっ!島田!大丈夫か!」

「う・・ん・・」

「小屋へ戻るぞ」

「・・・」


ダメだ・・こいつ、マジで力が残ってねぇ・・

くそっ・・背負うしかねぇか。

俺は島田を背負って、歩き出した。


雨に打たれ続けた島田の身体は冷え切っていた。

こんな時、どうすりゃいいんだ・・

翔がいたらなぁ・・

くそっ・・


俺も相当疲れていたが、なんとか小屋まで戻ることができた。

俺は中へ入り、島田の身体を毛布でくるんだ。


タオルとかねぇのかよ・・

俺はまた、部屋の中を色々と探し回った。


すると汚ない大きな布袋を見つけた。

中を開けて確かめと見ると、キャンプグッズみたいなものが出てきた。

おっ、これはいいんじゃねぇか。


鍋やフライパンまであったが、今はこんなもの役に立たねぇ・・

他にはなにがあるんだ・・

俺は袋をひっくり返し、中身を全部出した。


すると、タオル、ティッシュ、おそらく着替えであろうTシャツ、男性用のパンツまで出てきた。

タオルとTシャツは、使えるな。

それと・・あっ、薬もあるじゃねぇか。

えっと・・なんの薬だ?

胃腸薬か・・まあいい。これも役に立つかも知れねぇ。

絆創膏もあるな・・


おおっ!これは缶詰じゃねぇか!

コンビーフの缶詰が三つ出てきた。

しかし、なんでこんなものがここに残ってんだ。

持ち主は、これを捨てて出たのか・・


俺は島田の元へ戻り、濡れた身体をとりあえずタオルで拭き取り、Tシャツに着替えさせた。

島田の身体は冷え切ったままだ・・

こいつ・・このままだと死ぬんじゃねぇか・・


「島田・・島田・・」


俺は島田の耳元で囁いた。


「・・・う・・」

「寒くねぇか・・大丈夫か」

「・・・」


島田の唇は紫色になっていた。

これ・・マジでヤベーんじゃねぇのかよ・・

どうすりゃいいんだ・・

俺はろうそくに火を点け、フライパンに立てて置いた。

これでちょっとは暖かいかな・・


島田にもう一枚毛布を被せて、俺は島田に重なるように眠ってしまった。


「時雨くん・・時雨くん・・」


俺は島田の声で目が覚めた。


「お前・・大丈夫なのか・・」

「うん・・とても暖かかったし、眠ったらだいぶ体力も回復してきたよ」

「そっか・・よかった・・」


俺は安心したとたん、また深い眠りについてしまった。



「時雨くん、時雨くん!」


誰だ・・俺を呼ぶのは・・

翔か・・?いや・・あいつは時雨くんなんて言わねぇ・・

だったら・・和樹か・・

いや、あいつも時雨くんなんて言わねぇ・・

じゃ、この声は誰だ・・


俺を呼ぶ声が、段々と遠のいていくのがわかった。

なんだ・・俺・・身体が妙に軽い・・

もうこのまま、ずっと眠っていたい・・

身体も暖ったけぇし・・なんて気持ちいいんだ・・


成弥はどうした・・

もう俺たちを探すのを諦めたのか・・

それとも、親分に叱られているのか・・


兄貴・・彼女、紹介しろよな・・

十歳も年上って・・あり得ねぇんだよ・・


「時雨くん!」


そこでまた俺を呼ぶ声がした。


「うっ・・」

「時雨くん、眠っちゃダメだ!」


俺は誰かに頬を叩かれていた。

痛てぇな・・なにすんだよ・・


「時雨くん!しっかりしなよ!」


あっ・・!


俺はそこで目が覚めた。

すると島田が俺の顔を覗き込んでいた。


「時雨くん!わあああ~~」


島田・・なに泣いてんだよ・・


「島田・・」

「時雨くん!僕もう・・死んだかと思ったよ!」

「死んだ・・?誰が」

「時雨くん!よかった!目を覚ましてくれて、よかった!」


島田は俺の身体にのしかかり、顔をうずめて号泣した。

俺の身体には、毛布が掛けられてあった。

でも・・身体がだるい・・動かねぇ・・


「島田・・」

「なに?」

「お前、一人で山を下りられるか」

「えっ・・!そんなの無理だよ!」

「このままじゃ、お前まで助かんねぇぞ」

「時雨くんを置いていけないし、道だってわかんないよ!」

「俺の身体は動かねぇ・・山を下りるのは無理だ」

「なに言ってるんだよ!」

「お前が山を下りて、助けを呼べ」

「そんなっ」

「あっちにな・・缶詰があるから、それを食って体力をつけろ」

「え・・」


島田は缶詰を探しに行き、それを持って戻って来た。


「ほら、食えよ」

「時雨くんも食べるんだよ」

「俺はいいから、さっ、食って山を下りろ」


島田は缶詰を開け、口に含んだ。


「これ、美味しいよ。時雨くんも食べて」


島田はコンビーフを手でつかみ、俺の口の中へ入れた。


「美味しいでしょ」

「ああ」


島田の言う通り、たまらなく美味しかった。


「ほら、もっと食べて」


そう言って島田は、何度も俺の口へ入れた。


「お前も食えって」

「うん、僕も食べてるよ」

「それ食ったら、行けよ」

「でも・・」

「できるよな?」

「うん・・」


そして島田は食い終わり、山を下りることになった。


「気を付けて行けよ。陽が落ちるまでにはまだ時間がある。ぜってー焦るんじゃねぇぞ」

「わかった。必ず助けを呼んでくるから、それまで待ってて」

「わかった」


そして島田は小屋を出た。

しかし・・酷い目に遭ったもんだ・・

俺はこんなところで何をしているんだ・・

きっとみんな心配してるだろうな。

俺は再び目を閉じた。

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