表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
30/77

三十、成弥の陰謀



後片付けも終わり、俺と翔は、和樹と別れた。


「和樹くん、泣いてたね・・」

「うん・・」

「なんか・・僕、辛かったよ」


俺と翔は帰る道すがら、和樹の話をしていた。


「なんでだよ」

「だって、和樹くんの気持ちは、わかるもん」

「どういうことだよ」

「和樹くんは、ああするしかなかったんだと思う。お金のことね」

「ああ・・」

「真面目な人だもん。僕たちに面倒かけて、すごく申し訳ないと思ったんだよ。それで口で礼を言うだけでは、それこそ申し訳ないと思ったんだよ」

「そんくらい、俺にだってわかるさ」

「和樹くん、僕たちに悪いことしたと思ってるんじゃないかな」

「は?」

「金で解決、みたいに僕たちが思ってると勘違いしてないかな」

「んなことねーよ」

「そうかな」

「だって、初めて友達になれた気がするって言ってたじゃねぇか」

「そうなんだけど、自分を恥じてなきゃいいんだけどなぁ」

「恥じる?」

「お金を渡すという、安易な考えしか浮かばなかったってことに」

「なるほどなぁ」

「もちろん、僕たちは安易なんて全く思ってないけど。むしろ常識といえば、常識の範疇なんだよね」

「お前、何が言いたいんだ?」

「だーかーらー、和樹くんが傷ついてなきゃいいけどってこと!」

「はあ~さっぱりわかんねぇ。和樹は賢いやつだから、そんな風に考えねぇよ」

「だといいんだけど」


俺たちは信号に差し掛かり、青信号を待っていた。


「あ、そういえば、話ってなに」


翔にそう言われ、俺はすっかり忘れていた。


「立って話すのもなんだし、あっちへ行こうぜ」


俺たちは、バス停のベンチに座って話をすることにした。


「コンビニに来たクラスのやつって話、あっただろ」

「うん」

「あれ、実は、西雲の成弥だったんだよ」

「えっ・・」

「でさ、俺が和樹の身代わりだってことが、バレちゃってさ」

「えええ~~大変じゃん!」

「でさ・・俺、脅迫されてよ。子分にならないとバラすって言われてよ」

「げっ・・マジーー?ひっどーい」

「んで、子分になったはいいけどさ。その後がすごいんだぜ」

「なになに」

「コンビニの店長って、西雲の元組員でさ。で、俺、成弥の話したんだよ。そしたら子分にならなくても大丈夫だって言ってくれてな。店長は西雲の事情がよくわかってるから、俺、安心してさ。で、勝手に子分をやめたってわけ」

「でもさ・・それって大丈夫なの?」

「なにが?」

「なんか、仕返しとかしてこないの?」

「それもできねぇって、店長は言ってたよ」

「そうなんだ・・」

「それにしてもさ、成弥って人間のクズだぜ」

「だろうね。脅迫するなんて酷いよ」


それから俺は、さんざん成弥のことを愚痴った。


「なんか、同じ跡目でも、和樹くんとは天と地ほどの差があるね」

「ほんとそれな」

「潰れなきゃいけないのは、西雲の方だね」

「あ、それとさ、和樹って冤罪吹っ掛けられてんだよ」

「ええっっ!!なにそれっ」


そこで俺は、和樹がいじめをしているというデマの話をした。


「なんだよ・・それ・・」

「だろ」

「信じられない・・その島田って子、もしかして西雲と関係あるんじゃないの」

「どうなんだろうな。でもその可能性は捨てきれねぇよな」

「だって完全に罠じゃん。絶対に何か裏があるって」

「うん・・」

「たけちゃん、このままでいいの・・?」

「よくねぇよ」

「助けてあげようよ」

「助けるっつったって、どうするよ」

「その島田って子のこと、調べられないかな」

「どうやって」

「たけちゃん、成弥の番号は知ってるんだよね」

「ああ」

「成弥にカマをかけてみない?」

「へっ?」

「成弥はまだ、たけちゃんのこと子分って思ってるんでしょ」

「うん」

「そこだよ。付け入るスキがあるのはそこ」


それから俺たちは、また二人で作戦を立てた。

っていうか、殆どが翔の提案だった。


「ね、これで行こう」

「そんな上手くいくかねぇ」



それから数日後、俺は成弥に電話をした。


「成弥さん、お久しぶりです。時雨です」

「ああ、なんだ」

「俺、東雲でいい情報を入手しましてね」

「ほう」

「それで早速、成弥さんにご報告したくてお電話しました」

「そうか。じゃ、今からC公園へ来い」

「はい。わかりました」


そして俺は電話を切り、翔の顔を見た。


「うん、今のでいいよ」

「そうか」


俺たちは早速、C公園へ向かった。


「いいね、僕の言ったことちゃんと覚えてるね」

「まあ・・な」

「なんだか頼りないなぁ。大丈夫?」

「たりめーだ」

「それから電話は通話のままだよ」

「うん」


俺たちは公園に到着し、俺だけ中へ入り、翔は木の陰に隠れて待つことになった。

やがて成弥が現れ、俺の横に座った。


「で、いい話ってなんだ」


成弥は何ら疑うことなく、俺の話を聞こうとしていた。


「はい、実はですね、東雲の和樹は、どうやら学校でいじめをしているらしいんですよ」

「ほう」


成弥は驚く素振りすら見せなかった。


「これって、東雲を潰すネタになりませんかね」

「あはは。いい話ってそれなのか」

「はい・・」

「それは、俺が仕掛けたことなんだよ」

「えっ・・そうでしたか・・」

「他に話はないのか」

「すみません、今回はこれだけなんです」

「そうか。まあいい。それより商店街で噂は流したのか」

「はい・・それも先日から、徐々に取り掛かっています」

「よし。今後も続けろ」


そう言って成弥は去って行った。

すると翔がすぐに俺の方に駆け寄って来た。


「たけちゃん、上手くいったね」

「やっぱり成弥が仕組んだことだったんだな」

「僕、ばっちり録音したから」

「マジか!」

「これ、東雲の親分さんに報告した方がいいんじゃない?」

「そうだな」


それから俺たちは早速、爺さんの家へ向かった。

爺さんは、祭りの日のこともあり、俺たちを大歓迎してくれた。


「よく来てくれました。こちらから連絡しようと思っていたところなんですよ」


俺たちは、広い応接間に通され、二人で並んでソファに腰を掛けた。


「和樹は、いないんですか」

「柴中と一緒に病院へ行ってます」

「えっ・・また具合でも悪くなったんすか」

「いいえ。定期検査ですよ」


爺さんは相変わらず、優しい笑顔でそう言った。


「時雨くん、朝桐くん、先日は和樹を助けてくれてありがとう。礼を言います」


爺さんは深々と頭を下げた。


「いや、そんなのいいんすよ。ダチだったら当然のことっす」

「そうですよ、親分さん。頭をあげてください」

「きみたちは、ほんとにいい子ですね」


カチャ・・


「失礼します。お茶を淹れて来ました」


そう言って伊豆見が入って来た。


「伊豆見~久しぶりだな」

「そうだな。お前、円周率、覚えたか」

「あはは、またそれかよ」

「お茶、どうぞ」


伊豆見はテーブルに湯飲みを置いて、そう言った。


「ところで、今日はなにか用事でもあったのではないですか」


爺さんがそう訊ねてきた。


「あの、和樹のことなんすけど、和樹って学校で冤罪を吹っ掛けられてますよね」

「え・・どうしてそれを時雨くんが知っているのですか」


そこで俺は、コンビニの昆田から、偶然その内容を聞いたことについて話した。


「そうでしたか・・実は、そうなんですよ。困ったことになっているんです」

「それ、西雲の成弥が仕組んだことなんすよ」

「えっ!」

「これ、証拠の録音です」


翔が電話を取り出し、録音を流した。

それを聞いた爺さんは、愕然とし怒りに震えていた。


「事の経緯を詳しく話してもらいましょうか。どうして成弥と接触できたんですか」


そこで俺は、コンビニで成弥に見破られたこと、それをネタに脅迫され、子分となって東雲を潰すために協力することなど全てを話した。


「許せん・・西雲・・」


爺さんの顔からは、優しさが消え去り、ヤクザそのものの表情に変わっていた。


「事情はよくわかりました。でもきみたちは、これ以上関わってはならないですよ」

「え・・」

「ここからは、我々「組」の仕事です。決して関わらないように」

「そうすか・・」

「伊豆見」


爺さんが恐ろしい顔をして、伊豆見を呼んだ。


「はい」


伊豆見はすぐに爺さんの傍へ寄り、爺さんは伊豆見の耳元で何かを話していた。


「承知しました」


伊豆見はそう言って、部屋を出て行った。


「時雨くん、朝桐くん」

「はい・・」

「和樹と友達でいてくれることには、大変感謝しますし、今後もよろしくお願いしたいと思っていますが、今後一切、組とは関わらないように」


俺と翔は、爺さんの恐ろしい表情に、何も返答できなかった。


「いいですね。約束してください」


俺と翔は、互いの気持ちを探るように顔を見合わせた。


「約束してくれますね」

「あ・・はい・・」

「はい・・」


俺と翔は、頼りない返事をするのが精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ