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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
29/77

二十九、本当のダチ



「兄貴さあ、花火大会どうすんの」

「お前は、どうすんだ」


俺たちは晩飯を食いながら、明日の花火大会の話をしていた。


「俺は翔と行くよ」

「そうかあ」

「兄貴はどうすんの」

「俺か・・まあ、適当に」

「適当ってなんだよ。それこそ適当だな」

「いいじゃねぇか」

「・・ん?兄貴、なんか変じゃね?」


俺は、兄貴が少しうろたえている気がして、そう言った。


「別に、変じゃねぇよ」

「おや・・おやおや・・まさか・・」


俺は訳知り風に、少し笑った。


「っんだよ」

「まさか・・彼女できたのか」

「ばっ・・バカなこと・・言ってんじゃねぇよ」

「あははは、そっか、そっか~。やっと兄貴にも春が来たってわけか」

「う・・うるせぇ・・そんなんじゃねぇよ」

「別に隠さなくったっていいんじゃね?」

「別に・・隠してなんか・・」


兄貴は顔を真っ赤にして照れていた。


「俺にも紹介してくれよ」

「まっ・・まだ・・そんなんじゃねぇし」

「え・・付き合ってねーの?」

「ああ・・まだ・・」

「ふーん。で、どこで知り合ったのさ」

「工場にバイトで入った事務の子」

「おおお~~社内恋愛っすね!」

「だーかーらー、まだそんなんじゃねぇっつってんだろ」

「え・・なに・・じゃ、明日の花火大会で告るってわけか」

「ち・・ちげーーし」

「なんでだよ~、せっかくなんだから告ればいいんじゃね?」

「もう、お前はうるせぇんだよ。さっさと食え!」

「照れちゃって~。で、名前はなんていうんだ」

「え・・えっと・・水柿みずがきあおい・・」

「葵ちゃんかぁ~~かわいい名前じゃんか」

「ちゃんって言うなよ。さんだぞ」

「へぇー、なんで?」

「年上なの!」

「マジかよ!いくつ年上なんだ」

「その・・十歳・・」

「げっ・・」


俺は絶句した。

十歳年上って・・二十九だろ・・ババアじゃねぇかよ!


「げっ、てなんだよ、げって」

「いや・・あまりにも年の差が・・」

「そんなの関係ねぇだろ」

「そりゃま・・そうだけどよ」

「もうこの話は、終わりな!」


兄貴はそう言って、台所へ行った。


「食ったら早く持って来い!」


それにしても十歳も年上かぁ・・

どんな人なんだろうな・・

でもま、兄貴の初めての彼女だ。

年上とか、関係ねぇかもな。



そして翌日の夜・・


俺は、翔と和樹と待ち合わせをしていた。

それにしても、さすが花火大会だ。

人通りが半端ねぇ・・

こりゃ電話で連絡しないと、マズイかな・・


「たーけちゃん!」


振り向くと翔が立っていた。


「翔~~久しぶり!」

「だね~、和樹くんはまだなの?」

「うん。もし迷ってるとしたら、電話しねぇとな」

「しかし、すごい人出だね。この町にこれだけの人がいたのって感じ」

「翔・・この間は悪かったな」

「もういいって。ほら、ケンカするほど仲がいいって言うじゃん」

「まあな・・で、帰りに話があるから」

「え・・」

「やっぱりお前には話すよ」

「そっか、わかった」


ルルル


あれっ、電話だ。和樹かな・・


「もしもし」

「あ、健人くん、和樹だけど」

「おお、和樹、今どこだ」

「それがさ・・行けなくなっちゃって」

「えっ!なんでだよ」

「急に露店の手伝いしなくちゃいけなくなってね」

「露店って・・マジかよ」

「ごめんね。翔くんにも謝っておいてね」

「露店って、どこに出してんだ?」


俺は露店の場所を訊きだし、電話を切った。


「和樹くん、なんだって?」

「なんか、露店の手伝いがあるんだってさ。で、来れないって」

「そっかぁ、残念だなぁ」

「翔にもごめんって言ってたぜ」

「そっか。仕方がないよね」

「でも、店の場所聞いたし、後で寄ってみようぜ」

「そだね」


それから俺と翔は、色々な露店を見ながら、祭りを楽しんだ。

ほどなくして、花火が上がり始めた。

色とりどりの花火は、夜空に大きな花を咲かせて、胸に響くような音とともに、観客の目を虜にしていた。


「綺麗だよね~、いつ見てもいいなあ~」

「そうだな」

「和樹くんも見てるかな」

「きっと見てるさ」


今年は一緒に見れなかったけど、来年も再来年もあるしな。


「そうだ、そろそろ和樹の露店へ行こうぜ」

「そうだね!」


そして俺たちは、人混みの中を掻き分けながら、和樹のいる露店へ着いた。

すると和樹は汗を流しながら、焼きそばを焼くのに、一生懸命になっていた。

この客の数だ・・声をかけにくいな・・


「和樹くん・・大変そう・・」

「だな・・」

「あれって和樹くん、一人でやってるのかな」


言われてみれば、露店には和樹一人しかいない。

これって、無理じゃねぇのか。


「まだなの~~!」


並んでいる客のババアが、文句を言っていた。


「すみません、もう少しで焼きあがりますので、お待ちください」


和樹の言葉は、とても露天商の「それ」とは思えないほど、丁寧に対応していた。


「いつまで待たせるんだよ!」


今度は、別の客のジジイが文句を言った。


「はい、すみません。すぐにできますので、もう少しお待ちください」


和樹は首にかけたタオルで、時々汗を拭いながらかされていた。


「翔、俺、手伝うわ」

「うん、僕も手伝う」


俺たちは店の後ろへ回った。


「和樹、何をすればいい?」

「えっ・・あっ、きみたち・・」

「いいから。なにをすればいいか言ってくれ」

「うん・・えっと、そこのパックに焼きそばを詰めてくれるかな」

「了解!」


そして翔は、店の前に立ち、客の列を通行の邪魔にならないように、並べていた。


「はあ~い、いらっしゃい、いらっしゃい。美味しい焼きそばですよ~」


翔は、客引きもしていた。

やがて客も順調にさばけ、一時の混乱状態からは脱した。


「ふぅ~~ちょっと落ち着いたな」

「健人くん、翔くん、ありがとう。ほんとに助かったよ。もう僕、どうしようかと思っていたところだったんだよ」

「あんなの一人じゃ誰だって無理」

「和樹くん、なんで一人なの?」


翔が疑問に思っていたことを、和樹に訊いた。


「ほんとはね、伊豆見も来るはずだったんだけど、体調壊しちゃって。柴中は身内にご不幸があって・・それで結局、僕一人ってことになっちゃって」

「そうだったんだ・・大変だったね」

「僕、一人でできるって、祖父に啖呵切ったんだけど、結局はこの有様だよ。応援を呼ぶって言ってくれたのにね・・バカだよ僕・・」

「和樹・・あんま、気、張んなって」

「え・・」

「お前さ、跡目ってことで、なんでも自分がやならきゃって思ってねぇか」

「・・・」

「無理なもんは無理なんだよ。そん時は、誰かに助けてもらうんだよ」

「そうだね・・」


「はーい、いらっしゃーい」


お客が来て、翔がそう言った。


「いらっしゃい!いくつですか?」


俺は和樹に代わってそう言った。


「えっと・・二人分」


中学生くらいの男女が、照れくさそうに買いに来た。


「あいよ~~少々お待ちを!」


俺は二つのパックに焼きそばを詰め、ナイロン袋に箸も入れて渡した。


「はい~お二人分で千円です」


その千円は男子が払い、二人は手を繋いで歩いて行った。

ひゃ~~初々しいねぇ~ったくよーー。


それから次の波が来た。

わんさかと押し寄せた客を、翔が上手に並べて、和樹が焼き、俺が詰めて金を貰うという役割分担が、うまく機能していた。


「あっ、まさくん・・」


翔のその声で、俺は兄貴が来たとすぐにわかった。

ヤッベーーー・・

でも・・ここ離れらんねぇしな・・くそっ・・どうしようか・・


「おお、翔じゃないか。お前、こんなところでなにやってんだ」

「えっと・・友達のお手伝いを・・」

「へぇー、お前、露天商に友達なんていたのか」

「ま・・まあ・・」


そして兄貴の順番がきた。


「あっっ!!お前・・」

「へい!らっしゃい!」

「健人・・お前まで・・なにやってんだ」

「友達の手伝いを・・」

「友達ってこいつか」


兄貴は和樹を見て、そう言った。


「ああ・・」

「ふーん・・」

「健人くんのお知り合いですか?」

「いや・・俺はこいつの兄貴だよ」

「そうですか。初めまして、友達の和樹っていいます。健人くんと翔くんに無理やり手伝わせてしまって・・申し訳ないです」


それこそ露天商の「それ」とは程遠い和樹の対応に、兄貴は面食らっていた。


「いえ・・どうぞ、こき使ってやってください」

「ありがとうございます」

「兄貴、何人前だよ」

「ああ・・えっと二人分」

「はい~二人前ね!はいっ、どうぞー」


俺は兄貴に袋を渡し、千円を受け取った。

彼女って・・どの子だ・・?くそっ・・見えねぇ・・


兄貴は店から離れ、女の人と二人で歩いて行った。

くそっ・・後姿だけかよ。

その女性は、細身の小柄で、後姿は「美人」だった。

兄貴との身長の差が、まるで大人と子供みたいに見えた。


それからほどなくして、祭りも終わりに近づき、俺たちは店じまいを始めた。


「きみたちは、もういいよ。後は僕がやるから」

「なに言ってんの。最後まで手伝うに決まってるじゃん!」

「翔くん・・」

「たりめーだ。さっ、片づけようぜ」

「健人くん・・二人とも本当にありがとう・・」


和樹は自分の不甲斐なさを、酷く気にしている様子だった。


「ごめん、ちょっと電話かけてくるね」


和樹はそう言って、俺たちと少し離れたところで電話をしていた。

和樹はすぐに戻り、金が入った箱に手を入れていた。


「これ・・少しだけど、今日のお礼だよ」


和樹はそう言って、俺と翔に一万ずつ手渡そうとした。


「バカ!こんなの貰うために手伝ったんじゃねぇよ」

「そうだよ。僕、お金なんて要らないよ」

「いや、それはできない。祖父からもちゃんとお礼をするように言われたんだ。だから受け取ってくれないか」

「要らねぇ」

「要らない」

「そんな・・僕、困るよ・・」

「あのな、爺さんに言っとけ。バカにすんなって」

「え・・」

「あのな、俺、バイトしたつもりねぇから」

「僕も同じだよ」


和樹は俺と翔にそう言われ、困り果てていた。


「和樹・・ダチってのは、金で動くもんじゃねぇんだよ」

「・・・」

「ダチってのは、ダチが困ってたらなんでもすんだよ。そこに金なんて発生しねぇんだよ」

「だけど・・それじゃ僕の気持ちはどうなるの」

「お前は金を払って満足か?それで気が済むのか」

「そんなことないけど・・手伝ってくれたことへの感謝のしるしだよ」

「お前が俺たちに感謝してるってんなら、それは金じゃなくて、今後も俺たちとダチでいること。それと一人で頑張らないこと。助けてほしかったら俺たちに言うこと」

「・・・」

「それでいいな」

「僕もたけちゃんと全く同じ。友達なら遠慮しないの。わかった?」

「うう・・ううう・・」


和樹は俺たちの前で、初めて涙を見せた。


「泣くんじゃねぇ、お前、親分になんだぞ」

「僕・・今、初めて友達の意味がわかった気がする・・友達って単に仲良く楽しく過ごすことじゃないんだね・・」

「そうだ」

「なんか・・たった今、本当の友達になれた気がする・・」


和樹は今まで、ダチなんて一人もいなかったんだもんな・・

どうしていいか、わからねぇのも無理はない。

でもそれをわからせるのも、またダチなんだよ。

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