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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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二十八、東雲組と店長の関係



俺は翌日、バイトの休みを利用して、商店街へ行こうと決めた。

家に隠して置いてある、「変装グッズ」を持って家を出た。

噂なんて流す気はないけど、とりあえず様子を見たくて行くことにした。

公衆トイレでカツラと眼鏡をかけ、商店街の中へ入った。


するとそこに、爺さんと和樹が並んで歩いているのを見つけた。

しまったな・・タイミング悪過ぎだろ、俺。


このまま帰ろうかとも思ったが、俺はとりあえず二人の後をつけることにした。

商店街の人たちと話す二人を見ていると、普通の客にしか見えない。

普通に、客と店員じゃねぇか・・

こんなところで変な噂を流したところで、俺が変に思われるだけじゃねぇか。


そうだ・・噂は流しといたって、嘘でも言っとくか。


するとほどなくして、二人はある人物と話をしていた。


あっ・・あれはっ!店長じゃないか!!

店長って、今日は休みだったのか・・

でもなんで・・爺さんたちと話してんだ・・

しかも・・とても親しそうに話をしている。


あっ・・店長のあの迫力・・

もしかして、東雲の元組員だったのか?

だとしたら、すごく納得がいく。

きっとそうだ。元組員だったに違いない。


やがて三人は、寿司屋へ入って行った。

昼飯でも食うのか。


俺が入って行くと、きっとバレるだろうな・・

俺は雑貨屋で、グラサンを購入した。

うん・・これだとバレねぇな。


俺は寿司屋の扉を開けた。


「いらっしゃい」


三人はテーブル席に座り、楽しそうに会話をし、俺が入って行ったことにも気がつかない様子だった。

しかも都合がいいことに、他にも客がたくさんおり、俺は目立つ存在ではなかった。

俺はカウンター席に座り、背を向ける形で、三人の会話に聞き耳を立てた。


「何にしますか」


寿司屋の親父が、俺に訊ねてきた。


「あ・・お任せで」

「あいよ」


「あっはっは」


三人が座る席では、時折、笑い声があがっていた。

とても楽しそうだ・・何を話しているんだ・・


「それにしても、東雲さん、和樹くんは元気になられてよかったですね」

「そうなんですよ。これでもう何も案じることはなくなりました」

「よかったですね、和樹くん」

「ありがとうございます」


この会話・・元組員とは思えねぇな・・

なんか、他人行儀っつーか。


「奥さんは、その後どうですか」


爺さんが店長にそう訊ねた。


「もうすっかり良くなりまして、退院も近いかと」

「そうですか。退院されたら全快祝いをしましょう」

「いやいや、とんでもないです」

「そう仰らずに。私たちも嬉しいのですよ」

「ありがとうございます。では家内にもそう申します」


退院・・奥さん・・

なんだ・・どういう関係なんだ・・

俺は目の前に出された「おまかせ」の寿司を、少しずつつまみながら、更に会話を聞いた。


「大垣さん、商売の方はいかがですか」


爺さんがそう言った。


「はい。おかけさまで、順調にいっております」

「それはなによりです」

「最近入ったバイトの子が、和樹くんに似てましてね。世の中、似てる人がいるもんですね」

「ほう。そうなんですか」


ぐはっ・・店長、俺のこと話してるよ・・


「僕と似ているって・・。まさか。その子の名前は?」


和樹がそう訊ねた。


「時雨くんっていいます」

「えっ・・ほんとですか!」

「はい」

「僕、その子と友達なんですよ」

「えっ!そ、そうなんですか!」

「いやはや、偶然というものは本当に起こるのですね」


爺さんが、しみじみそう言った。


「時雨くん、仕事はどうですか」


和樹がそう言った。


「えぇ・・真面目にやってくれています」

「彼はとてもいい子です。僕からもよろしくお願いします」

「そんな、和樹くん。頭をあげてください」


和樹・・俺のために頭を下げているのか・・


「私からもお願いします」

「東雲さん、そんなことをされては、私は困ります。どうぞ頭をあげてください」


爺さんまで、俺のために・・

普通・・親ってこんなんだろうな・・

子供のいないところで、子供のために頭を下げたりするんだろうな・・

俺は二人の気持ちが、痛いように刺さってくる思いがした。


それから三人は店を出たので、俺も間を開けることなく店を出た。

三人は店を出たところで、それぞれ別れていた。


俺はすぐさま、店長の後を追った。

商店街を出たところで、俺はカツラとグラサンを外した。


「店長!」


俺が声をかけると、店長は振り向いて驚いていた。


「時雨くんじゃないか。こんなところでどうしたの」

「店長~~!!」


俺は思わず店長に抱きついてしまった。


「ちょ・・ちょっと・・時雨くん。一体どうしたんだい」


店長は苦しそうに言った。

俺はすぐに店長から離れた。


「あ、すみません。店長、東雲の爺さんと知り合いだったんですね」

「えっ!きみ・・どうしてそれを・・」

「俺・・なんか嬉しいっす、嬉しいっすよ」

「ここではなんだから、あっちへ行こうか」


そして俺たちは、誰もいないさびれた公園へ入り、ベンチに腰掛けた。


「店長、なんで東雲さんと知り合いなんすか」

「もう知られてしまったからには、隠す必要もないから話すけど、きみこそなんで東雲さんのこと知ってるんだい?」

「まあ、いいじゃないすか。いろいろありますって」

「そうか。まあいいけど。きみと和樹くんは友達らしいし」

「そうなんすよ」

「僕はね・・」


店長はそう言って、静かに語り始めた。


「昔・・西雲組の組員だったんだ」

「え・・マジっすか」

「不良だった僕は、西雲に拾われ、半ばヤケクソで組員になってしまったんだ。でも西雲は酷い組でね、人使いが荒いのはもちろんなんだけど、カタギの人と揉めることが多くてね。僕はそれに幻滅して組を出たくて親分に言ったんだけど、絶対に許してくれなくて。で、ある日、東雲さんに会う機会があって、そのこと東雲さんに話したんだよ。すると東雲さんは西雲の親分と景須の親分に掛け合ってくれて、僕はカタギに戻れたんだよ」

「そうだったんすか・・」

「本当なら、落とし前をつけさせられるところだったんだけど、それも免れたんだ」

「なるほど・・爺さんらしいな・・。で、奥さんってのは?」

「え・・きみ、もしかしてさっきの寿司屋にいたの?」

「まあまあ。それで?」

「僕の家内が入院している病院と、和樹くんが入院していた病院が同じだったんだよ」

「そうすか~」

「これも偶然なんだ。で、病院で久しぶりに再会したってわけなんだよ」

「いや~ほんと、偶然ってあるんすね」

「ほんとだね」

「だからかあ~、この間の高校生たちに、ものすごい迫力で圧倒してましたもんね」

「あはは。まあね。でもこの話は絶対に内緒だよ」

「当然っす!」

「僕は一生、東雲さんに足を向けて寝られないよ。あの人には本当に心から感謝しているよ」

「うん。わかるっす」


俺は、店長になら、成弥のことを話してもいい気がしていた。

店長は、曲がりなりにも西雲の組員だったんだしな・・

あっ・・でもそうなると・・身代わりの話もしなくちゃいけねぇことになる・・

やっぱり話すの無理か・・


「それより、きみはどうして東雲さんたちを知ってるの?」

「うーん、それはなんつーか・・」

「僕も話したんだから、きみも話してくれないと」

「そうっすねぇ・・」


俺は少しずつ、話し始めた。

すると身代わりの話は、店長も知っていた。

和樹が入院していた時に、その話を聞いたそうだ。


「それなら話が早いっす。実は俺・・」


そこで俺は、成弥のことを全部話した。


「まったく・・成弥はまだそんなことやっていたのか」

「え・・まだって?」

「あいつは本当に性根が腐ったやつでね。僕が組にいた頃は、まだ小学生だったんだけど、親の躾が悪いから、もうやりたい放題。組員にも足蹴にするやつなんだよ。実際、僕も酷い目に遭ったよ」

「そうっすか・・」

「時雨くん、成弥の子分になんてならなくていいから」

「え・・でもそれじゃ、身代わりのことバラされてしまいますよ」

「あはは。あの成弥が言うもんか。きみを子分にしたってことも、きっと親分は知らないよ」

「そ・・そうなんすか」

「言えば、大目玉をくらうに決まってるから、言えるはずがないんだよ。だからきみは、成弥の言うことなんて聞かなくていいよ」

「そうなんすね!ああ~~よかった!」


俺は心底、ホッとした。

誰にも話せないでいた俺は、店長がいてくれて、本当によかったと思った。


「今日は、店長もお休みなんすね」

「うん。さっきここに来る前、家内のお見舞いに行ってきたところだよ」

「そうだったんすか。でも奥さん、もうすぐ退院なんですよね」

「うん。長かったけどね。やっと退院だよ」

「奥さんって、どこが悪かったんすか」

「ガンなんだよ」

「え・・」

「でも、もう治ったから大丈夫」

「そ・・そうすか・・」

「あはは。そんなに深刻な顔しないでね」

「あ・・すみません」

「それより、明日からもよろしくね」

「はい。俺、一生懸命働きます」


そして俺と店長は、そこで別れた。

それにしても、俺は成弥から解放されたんだ。

ああ~~よかった。


あっ、そうだ。久しぶりに翔に電話でもしてみっかな。

俺は上機嫌で翔に電話をかけた。


「もしもし、翔?俺、たけちゃんだよ~」

「たけちゃん・・」

「っんだよ、シケた声すんなっての」

「なんで電話して来たの」

「なんでって、そりゃ声が聴きたかったからに決まってんじゃねぇか」

「・・・」

「おい、翔。なんで黙ってんだよ」

「たけちゃんって勝手だね」

「へ・・?」

「僕に、まとわりつくなって言ったの、誰だっけ」

「あ・・悪かったよ・・」

「なんかご機嫌な感じだけど、いいことでもあったの」

「いや・・別に・・」

「まあ、いいけど。それでなんか用?」

「お前・・なに言ってんだよ」

「もう僕は、たけちゃんと友達やめるから」

「え・・」

「あんなこと言われてまで、友達でいる気、全くないから」

「お前・・マジで言ってんのか」

「そうだよ」

「ちょっと待てって・・」

「なんだよ」

「だから、悪かったよ。謝るよ」

「・・・」

「翔・・黙んなって・・」

「・・・」

「翔!」

「じゃあさ・・花火大会・・一緒に行ってくれる・・?」

「たりめーじゃねぇか!!バカっ!」

「もう、僕に、まとわりつくなとか言わない?」

「言わねぇよ!」

「僕に勉強、教えてほしい?」

「ほしーーよっ!」

「じゃ許す」

「ったくよ・・バカか、お前は」

「あはは。こないだの仕返し成功~~!」

「は・・はあ??」

「じゃ、また花火大会の当日に連絡するね。たけちゃん!」


そう言って翔は電話を切った。

ったくよ・・子供かよっ!

でも俺は、そんな翔が、かわいいと思った。

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