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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
27/77

二十七、え・・いじめ?



「疑念を抱かせるって、具体的にはどうすればいいんですか・・」

「そうだな。まずは、噂を流せ」

「噂・・」

「この地域の人を、甘言で騙してると言え」

「・・・」

「あ?俺の言ってる意味、わかってるか」

「あ・・ああ・・」


俺は後で「甘言」という意味を辞書で調べようと思っていた。


「東雲はこの商店街を潰そうとしている、と言え」

「・・・」

「そのことに、少し触れるだけでいい。少しでいいんだ」

「はい・・」

「噂ってのは、怪しげなことを少し耳にする程度の方が、信憑性があるんだよ」

「・・・」

「わかったな。なるべく早く取り掛かれ」


そう言って成弥は帰って行った。

この程度のことなら、別に俺じゃなくてもいいんじゃねぇのか。

え・・待てよ・・

そうか・・あいつ、面が割れてんだ。

お好み焼き屋のおっさんが「西雲のやつらだ」って言ってたよな・・確か。

だからか・・


東雲が潰そうとしているってさ、おめぇらだろうが、潰そうとしているのは。

それを東雲のせいにしようとしているんだな。

しかし、そんな噂を流したところで、商店街の人たちは信じるのか?


あっ・・

それにしても店長だよ。

あの人、ほんとは何者なんだ。

俺は、それを確かめたくて仕方がなかった。



そして次の日・・


「おはようございます」


俺はいつものように出勤し、店長に挨拶をした。


「おはよう。昨日は悪かったね」


店長は苦笑しながら、済まなさそうに言った。


「あの・・店長」

「なんだい」

「ちょっと訊きたいことがあるんすけど」

「いいよ。何でも訊いて」

「店長って、この店を始める前は、どんな仕事をしてたんすか」

「あはは。訊きいたことってそんなこと?」

「いや・・あの、昨日の店長って、なんつーか、別人だったなって思って」

「僕だって一人前の大人だよ。やっぱり若い子には、ダメなことはダメとわからせないとね」


いやいや、ちげーって。

昨日の店長は、別人だったんだって。


「もしかして・・昔、ヤクザとかやってました?」

「あはは、ヤダな。まさか」


店長は俺の言葉に、笑い飛ばしてそう言った。


「そうっすか・・」

「きみは余計なことに気を回さなくていいんだよ。さっ、仕事、仕事」


店長は俺の肩を叩き、店の外に出て掃除を始めた。

いや・・何か隠してるな・・ぜってー隠してる。

誰かに確かめる方法ってねぇのか。

昆田のババアは・・まさか知ってるはずないよな・・


それから一時間ほどたった後、昆田が出勤してきた。


「店長、昨日はすみませんでした」

「いいえ。急用の方は大丈夫でしたか」

「それなんですよ~、もう大変でしたよ~」

「ほう~何があったのですか」

「いじめですよ、いじめ・・」

「おや。嫌な話ですね。息子さんがいじめに遭ってるのですか」

「いや、うちの子は関係ないんですけど、別のクラスで起こっちゃって。それが問題になっちゃってね。それで緊急保護者会ですよ。夏休みなのに親も大変ですよ」

「なるほど。それは大変でしたね」

「ここだけの話・・いじめられてる子って、ヤクザの子にいじめられたらしくて・・」


なにっ・・ヤクザの子って言ったよな・・


「それ・・どこの学校なんすか」


俺は思わず口を挟んだ。


「え・・E高校だけど」


E高校・・やっぱりだ。

和樹が通っている高校じゃねぇか。

和樹がいじめをやってるっつーのか。

あり得ねぇ・・


「そのいじめてる子って、名前はなんていうんすか」

「・・ん?時雨くん、なんか気になることでもあるの?」


昆田は不思議そうな顔をして、そう言った。


「いや・・よく聞く話だし・・俺のダチも昔いじめられていたし・・」


俺は口から出まかせを言った。


「そうなの。その子、東雲くんっていうんだけど」


やっぱり・・


「いじめって、どんなんすか」

「うーん、詳細はわからないけど、なんでも、かつあげしたり、靴を隠したりしてたらしいのよ」

「そう・・っすか・・」


あり得ねぇ。

和樹はぜってーそんなことするやつじゃねぇ。


「まあ、いずれにせよ、ヤクザの子が同じ学校にいるなんて、怖いわあ」

「・・・」

「息子にも、絶対に関わらないように言ってるのよ」

「さ、話はまた後で。仕事についてください」


店長が制して、俺たちは持ち場についた。

いやいや、あり得ねぇ・・

これも・・何か仕組まれたことじゃねぇのか・・

和樹を追い込む罠じゃねぇのか・・


俺は仕事が終わって、和樹に電話をした。


「和樹、久しぶり」

「健人くん、久しぶりだね。元気だった?」

「まあな・・」

「健人くん、バイトしてるんだってね」

「あ・・うん」


翔が喋ったんだな・・


「でさ、和樹、今から会えねぇかな」

「うん、いいけど。どうかしたの?」

「いや、別に。久々に顔が見たいなと思ってさ」

「いいよ。じゃ、事務所で会う?」

「うん。これから向かうよ」

「わかった」


そして俺は事務所へ向かった。

和樹は何事もないかのように、相変わらず元気な声だった。

昆田の言ってたことは、本当なのか?


ほどなくして、俺は事務所に着いた。

すると和樹はもう来て待っていた。


「健人くん、元気そうだね」

「ああ・・和樹も元気そうだな」

「うん。さ、座って」


俺は和樹の向かい側に座り、何から切り出そうかと考えていた。


「バイトどう?」

「ああ・・まあ、ぼちぼちだな」

「そっか。慣れるまでは大変だよね」

「まあ・・な・・」


和樹の表情は、全くいつもと変わりがない。


「あのさ・・」

「なに?」

「和樹さ・・」

「なんだよ~」

「その・・学校で・・なんかあったんじゃないのか・・」

「え・・」


和樹の表情は、少し暗くなった。


「俺、ちょっと小耳にはさんだんだけど・・」

「いじめのこと?」

「えっ・・ああ・・まあ・・」

「すごいな・・健人くんの耳にまで入ってたんだ」

「うん・・バイト先のおばゃんの息子が、和樹と同じ高校行ってるらしくて・・」

「そっか・・」

「でも俺は信じねぇ。お前がいじめなんてやるはずがねぇ」

「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

「で、実際のところはどうなんだ。俺、お前が嵌められたと思ってんだよ」

「僕も最近、変だなと思うことがあってね」

「・・・」

「あ、はっきり言っとくけど、僕はいじめなんてやってないよ」

「そんなもん、わかってらぁ」

「実は・・」


和樹はそう言って、静かに話し始めた。


「夏休み前のことなんだけど、変なビラが学校で撒かれてね。僕がいじめをやってるっていう・・。それで実際にいじめられたっていう子も現れてね。別のクラスの子なんだけど、僕はその子のことなんて全然知らないんだよ。もちろん話したこともないし。なのにその子、あ、その子、島田しまだって名前なんだけど、僕に脅迫されたとか、教科書に「バカ、キモイ、死ねよ」と落書きされたとか嘘をついてね。実際に教科書には酷い言葉が書かれてあって。全部、僕がやったって言い張ってね。僕が何度違うって言っても誰も聞いてくれなくて。やっぱりヤクザの子だからってことで、色眼鏡で見られてしまって・・」

「っんだよ、それ!」

「まあ、今は夏休みだし、とりあえずは何もないけど、また二学期が始まったら冤罪をふっかけられるんじゃないかな」

「許せねぇな。その島田ってやつ、どんなやつなんだ」

「見た目は、いかにもいじめられそうな・・そんな雰囲気かな・・」

「そうか・・」

「しかも、嘘をつくようには見えないから、みんな島田のこと信じてるみたいだよ」

「爺さんはなんて言ってるんだ」

「祖父も、いじめを否定してくれたんだけど、先生は信じてないみたいだよ」

「そっか・・」


和樹は・・ヤクザの子でもなんでもねぇんだよ・・

こいつは、捨て子なんだよ・・

本当なら、今回のことだってなかった事件なんだよ・・

普通の家に育っていたら、なかったことなんだ・・

こいつ・・平気な顔してるけど、何重にも渡って被害を背負ってんじゃねぇか・・


「それより、勉強頑張ってる?」

「え・・ああ、まあな・・」

「期末もいい成績だったし、このままいくと、きっといい高校に入れるよ」

「そうかな・・」

「そうだよ。また二学期に入ったら、特訓だね」


そう言って和樹は、優しく微笑んだ。


「あ・・そう言えば、翔くんとなにかあった?」

「え・・」

「この間、電話したら、なんか元気がなくてね。で、訊いたら、たけちゃんとケンカしたって」

「余計なことを・・あいつ・・」

「どうかしたの?」

「いや・・まあ、よくあることだよ」

「そっか。僕でよければ仲介しようか」

「いや・・いい」

「そっか。でもなにかあったら言ってね。いつでも協力するからね」

「ありがと・・」


翔とのケンカ、か・・

ちげーんだ。このことは誰にも言えねぇことなんだ。

翔にも・・ましてや和樹になんて、ぜってー言えねぇ・・

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