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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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二、転校生



「時雨、何度言ったらわかるんだ。その服装を何とかしなさい!」


俺が登校していると、後ろから担任の桃田(ももた)に注意を受けた。

こいつは五十過ぎの、そろそろ加齢臭が漂いそうな男性教師だ。


「うるせぇよ」

「お前な・・もう三年なんだぞ。いつまでそんなに突っ張ってるつもりだ」

「うるせぇっつってんだろ!」


この桃田は、一見、熱血教師のように見えるが、俺は決してそう思ってなかった。

俺は一年の頃からワルのレッテルを貼られているが、この学校の教師は俺に当たらず触らずで接し、とにかく問題さえ起こさなければ事実上「無視」していた。

この桃田も例外ではない。

実際、担任になるまでは話しかけてきたこともないし、気に掛ける風も皆無だった。


それが担任になったとたん、さも俺を思った風にわざとらしく接してくるのが疎ましくてしょうがなかった。

どうせ、てめぇの教師の点数とやらを、気にしてるだけに過ぎねぇ。

他の教師や生徒の目を気にしてのアピールだろうよ。

けっ!むかつく!


「桃田先生、おはようございます!」


後ろから、相変わらず元気な翔の声がした。


「朝桐、おはよう。お前はいつも元気だな」

「たけちゃん、おはよう」

「ああ」


俺は翔の明るさが、鬱陶しかった。

翔の見た目は、中肉中背で顔もそこそこ可愛く、芸能人で例えるなら小池徹平にどことなく似ている。

見た目に加えて、性格の明るさもあり、女子にも普通にモテていた。


「時雨、いいか。明日こそ、その服装、ちゃんとしてこいよ」

「知るかよ」


俺は桃田の顔も見ずに、ぶっきらぼうに返事した。


「先生、僕からも言っときますから」


翔はそう言って、またあの屈託のない笑顔を桃田に向けていた。


「仕方がないな・・」


桃田は俺と翔が、なぜダチなのかを不思議に思っているようだ。

一方で、翔の存在が俺のブレーキ役になっていることに、ある種の安心感を覚えているのだろう。

桃田は諦めたように、さっさと前を歩いて行った。


「たけちゃん、せめてボタンは留めようよ」

「うるせぇよ」

「僕が留めてあげようか?」

「いらねー。俺はこれでいいんだよ」

「まったく・・しょうがないなあ」

「余計なお世話なんだよ」

「たけちゃんって、ほんとはかっこいいのに。ちゃんとしたらイケてるんだけどなぁ」


翔は、いつもこう言って、俺の服装を直させようとする。

俺はそんな手には乗らねぇ。

かっこいいなんて嘘っぱちだ。

細身の長身ってだけで、顔なんてぜっんぜんイケてないし。

ってか、そんなこと俺にはどうでもいい。

とにかく一日でも早く、中学を卒業したかった。


「たけちゃんって、背も高くてイケメンだし、もったいないよ」

「はっ。イケメンじゃねーし」

「イケメンだよ。サッカーの、ほら、内田篤人選手に似てるよね」

「またそれかよ」

「髭を剃ればいいんだよ」

「うるせぇよ」


俺は口の周りに無精髭を生やしていた。

もちろんお洒落の類ではない。

単に髭を剃るのが面倒なだけだ。

そのせいもあってか、私服の時は成人に見られることが多いし、制服を着てても、高校生にしか見られない。

そんなことも俺はどうでもよかった。


俺と翔は別のクラスだ。

翔はダチがたくさんいるが、俺はクラスで孤立していた。

俺に話しかけてくるやつはゼロ。

用があって仕方なく声をかけてきても、目を合わせすらしない。


それが淋しいと思ったこともない。

ってか、話したいと思うやつなんて、一人もいない。

それが男子であれ女子であれ。


とにかく俺は、義務教育だから通ってるだけだ。

翔も俺の傍にいさせてるのは、こいつが俺から離れない、ただそれだけだ。

離れていくことがあれば、俺は止めやしない。

こいつにとっても、ほとんはそれがいいことだと思っていたが、そこは翔の気持ちに任せていた。


「おら、グダグダ言ってねぇで、教室行けよ」

「んじゃ、またね」


俺から離れた翔の周りには、何人かのダチが群がって行った。

ほらな、俺といると誰も寄って来ねぇんだよ。


「あのー」


俺が靴を履き替えようとしていると、後ろから声をかけてくるやつがいた。

振り返ると、昨日、ぶつかって来た女子がそこに立っていた。


「あ・・」

「おはようございます」


そいつは俺に頭を下げて挨拶をした。

こいつ・・ここの生徒だったのかよ。


「昨日はすみませんでした」

「いや、別に」

「その後、お身体の具合はどうですか?」


はあ?お身体の具合って・・ただぶつかっただけじゃねぇか。


「痛くありませんか?」

「痛くねぇよ」

「そうですか。よかったです!」

「ああ」


俺はぶっきらぼうに返事をし、そいつに背を向けて教室へ向かった。

教室は校舎の三階にあり、俺の席は窓際の一番後ろだ。

クラスのやつらには、俺が見えていないかのように見事にスルーだ。

もちろん俺も、クラスのやつらなど見えてはしない。


俺は椅子に座り、右手で頬杖をついて窓の外を見ていた。

鬱陶しいな・・何もかもが鬱陶しい・・


「さて、今日は転校生を紹介する」


桃田が入って来て、開口一番、そう言った。

けっ・・転校生かよ。

クラスのやつらはザワついていたが、俺には関係ねぇ。


「きみ、入りなさい」


桃田がそう言うと、さっきの女子が入って来た。

あいつ・・転校生だったのか。


「みなさん、由名見(ゆなみ)静香(しずか)と申します。よろしくお願いします」


由名見と名乗るそいつは、物おじする様子もなく、はきはきとした口調で自己紹介した。


「由名見さんは、お父さんの仕事の都合でこの街へ引っ越してきた。みんな仲良くするように」

「せんせーい!由名見さんの席、俺の横!横!」


クソバカ男子が、それこそバカみてぇに、手を挙げてはしゃいでいた。


「えっと・・席は・・」


桃田がそう言ったとたん、クラス中の目が俺の横の空席に集まった。

誰もが俺を避け、横はずっと空席になっている。

しかも空席はそこだけだった。


「由名見さん、席は時雨の隣だ。時雨!しばらくは教科書を見せてやってくれ」


桃田がそう言ったが、俺は無視して窓の外を見ていた。

ほどなくして由名見が俺の横に座った。


「時雨くん、よろしくお願いします」

「これ勝手に見ろよ」


俺は引き出しにしまってあった、教科書全部を由名見に渡した。


「俺、それ必要ねぇから」

「でも・・それでは申し訳ないです」

「俺がいいっつってんだから、いいんだよ」

「そうですか。ではとりあえずお借りしますね」


由名見は俺が渡した教科書を受け取り、引き出しにしまった。

桃田もクラスのやつらも、そのやり取りを黙って見ているだけだった。

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