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俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
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十八、成弥との対決



「それでは、若い衆に訊きたい。頭になったらどんな組にしていきたいのだ」


景須のおっさんは、俺と成弥の双方を見て、興味深そうに訊ねた。


「私はこのように考えます」


成弥は自信ありげに、すぐに口を開いた。

隣に座っているギョロ目ジジイも、「待ってました」と言わんばかりだ。


「近頃では、手前勝手に生きる者が大手を振って闊歩しておる時代ですが、我々こそ人間としての生き方を示すべく、代々の習わしであるところの規律や義理を重んじ、目上の者に対して礼儀を尽くす、そのような組にしたいと思っています」

「ほう。良い心がけだ」


ギョロ目のジジイは、勝ち誇ったような表情を見せた。


-----「たけちゃん、よく聞いてね」


イヤホンから翔の声が聞こえてきた。

俺は翔の言葉を待ち、次のように続けた。


「わたくし、四代目と致しましては、東雲の伝統である上下関係を重んじ、規律正しく組を運営することはもちろんのこと、なによりも地域に根差した良好な関係を、今後も維持してまいる所存です」

「なるほど」


これで良かったのか・・


-----「たけちゃん、うまく言えたね」


翔がホッとしたような声で、伝えてきた。


「しかしこれからは、厳しい社会が待ってる。少子化といって年々子供の数が減少している。組員を増やすにも難儀な時代だ」


景須はまた、問題を提起してきた。


「親分が仰せのように、少子化の問題は深刻であると我が方も考えておるところです。つきましては親のいない子供たちを、どのように真っ当な道に導いてやるか、そこが鍵になるとも考えておるところです」


成弥がすぐにそう返答した。


「ほう。具体的にはどうなんだ」

「身寄りのない子供たちに手を差し伸べ、けっして曲がった方向へ進まぬよう、その子たちが望めば当方で引き取ることも可能かと」

「ほう。里親になるってのか」

「仰せの通りでございます」


----「たけちゃん、いい?よく聞いてね」


翔が再びアドバイスを言ってきた。

ちょ・・ちょっと待ってくれ・・

親のいない子を引き取って、ヤクザにするってのか・・あり得ねぇ・・

しかし俺の頭では、うまく纏まらず、言葉にするのは無理だった。

そして翔に言われるがまま、俺は口を開いた。


「確かに景須親分の仰るように、年々、組員は減少するばかりでございます。暴対法が適用されて以後、我々は表立って組を運営するにも不都合が生じております。少子化も大変問題と存じますが、先ほども申しましたように、やはり地域との信頼関係の醸成が、なにより大切なのではと考える次第でございます。また、引いてはそれが後々の組員増員にも繋がるのではないかと」

「ほう。なるほどな」


「それは如何なものかと、当方は思います」


成弥が俺に反論してきた。


「ほう、西雲の若いの。言ってみろ」

「地域云々と申されましたが、それが増員に繋がるのは、果たして何年後のことになりますか。増員より組解散の方が早いと思いますが。そのご懸念はございませんか」


なんだよ・・ご懸念って・・

俺には何言ってるか、さっぱりわかんねぇぞ・・


「どうだ、東雲の若いの」


そして翔のアドバイスを俺は続けた。


「組解散は西雲さんのご心配には及びません。我が方は・・」


えっ・・おい、翔、どうした??

翔がそこまで言ったあと、通話が途切れてしまった。

続きはどうしたんだよ!

そっと携帯を見てみると、電池切れになっていた。


嘘だろ!マジでどうすんだよ。

俺は言葉に詰まり、どうしていいかわからなくなった。


「どうした。東雲の若いの」


景須のおっさんは、怪訝な顔をして俺の言葉を待っていた。

ううっ・・何を言えばいいんだ・・えっと・・


「あのっ!は・・はなはな失礼ござんすが、わ・・私が思うに・・西雲殿の・・えっと・・」


ダメだ・・こんな宇宙人語みたいな言葉、俺には話せねぇ・・

くそっ・・もうこうなりゃ、やけっぱちだ!


「えっと!さっきの成弥の話だけど、俺は間違ってると思うぜ」


俺の変貌ぶりに、景須はもちろん、他の連中も唖然としていた。


「東雲の若いの。間違ってると言ったな。どこがだ」

「身寄りのない子供を引き取って、組員にするって言ってたけどさ、それってヤクザにするために引き取るってことだろ」

「それが間違っていると申されますか」


成弥が反論してきた。


「間違ってるよ。正しい道へ導いてやるってのはいいとしても、んじゃお前今日からヤクザな、みたいなことあり得ねぇんだよ」

「なぜですか」

「そりゃよ、ヤクザ稼業も楽じゃねぇだろけど、まだ右も左もわからねぇ子供に、この世界へ入らせるってのは勝手じゃねぇかよ。悪いのは子供を捨てた親だ。子供たちに罪はねぇんだよ」

「だから、引き取って正しい道へ導いてやると言ってるのです。でなければ、その子たちはますます曲がった人間になりますよ」

「そんなこたぁ俺が一番よく知ってらあ!お前みたいなボンボンにゃ、到底わからねぇよ!」


成弥はそこで、はぁ~~・・とため息をつき、呆れた顔をしていた。


「若輩者の私が、東雲の親分さんにこんなこと申すのは甚だ無礼かと存じますが、四代目がこのようでは・・組の存続を維持し続けるのは、もう無理なのではないかと」

「いや、私はそうは思いませんよ」


爺さんは、余裕の笑顔でそう言い返した。


「続けなさい、和樹」

「ああ・・」

「よろしいですね、景須親分」

「もちろんだ。続けろ」


俺は景須にそう言われ、続けた。


「俺が言いたいのは、子供には子供の人生ってもんがあるんだよ。それを最初から、ヤクザにするために引き取るってのは間違ってるっつってんだよ」

「じゃあ、組の存続はどう考えているのですか」

「それはさっきも言っただろうが。お前、聞いてなかったのかよ」

「さっきから、お前だのなんだのと、無礼な四代目だ。礼儀を弁えられない者には、頭になる資格すらないように思えるが」

「お前こそ、親のいない子供のことなんて、なんもわかっちゃいねぇ!里親っつったってな、そんな簡単なもんじゃねぇんだ。子供はな、お前らのロボットじゃねぇんだよ!」

「なっ・・」

「それとな、西雲かなんか知らねぇが、俺たち東雲のシマをぶっ潰そうったって、そうはいかねぇからな」

「なにっ!」

「俺は今日、たった今、ここで確信した。ぜってーお前らみたいなやつらに、あの商店街の人たちを泣かせるようなことはさせねぇ!」


「東雲の若いの。そこまでだ」


景須のおっさんが、俺を制した。

俺の息は少し上がり、自分を抑えるのが苦しいほどだった。

俺・・ひょっとして、とんでもねぇこと言ってしまったんじゃ・・


「どうだ。西雲の若いの」

「ど・・どうと申されますのは・・」

「東雲の若いのの言い分にも、一理あると思わねぇか」

「は・・はぁ・・でもそれでは・・今後のことが・・」

「お前の言い分もわかる。どっちがどうってことじゃねぇ。お前はお前でちゃんと考えてのことだともわかる。東雲の若いのは、途中で礼儀を欠いたかも知れん。しかしな、それは大した問題でもねぇ。要は話の中身だよ。でもま、若い衆が組のことを想い、互いに意見交換できたのは収穫だな。で、どうだ。東雲も西雲も跡目として俺はいいと思うんだが」


景須のおっさんはそう言い、誰も異論を挟む者はいなかった。



やがて俺たちは料亭を後にした。

あっ!翔だよ、あいつ、どこにいるんだよ。


「時雨くん」


振り向くと、爺さんが優しい顔をして微笑んでいた。


「よく頑張ってくれましたね。ありがとう」

「い・・いえ、俺は別に・・」

「やはり自分の言葉で話す方が、気持ちが伝わりますね」

「は・・はあ・・」

「景須の親分も、少々面食らってはいましたが、あのお方は人の気持ちを汲み取ることに長けた方です。もちろん礼儀も重んじられますが、今日のとこは若い二人に免じて許されたのだと思いますよ」

「なんか、すみません。俺、バカだから・・」

「いいえ。きみは勉強さえすれば立派な大人になりますよ」

「え・・」

「だって考えは間違っていないのですから」

「そ・・そうすか・・」

「本当に助かりました。礼を言います」


爺さんは俺に頭を下げた。


「えっ・・こんなところで頭を下げるとヤバイんじゃ・・」

「あはは。心配ご無用。もう誰もいませんよ」

「はあ・・」

「それで、後日、改めてお礼をしますので、是非、自宅へ来てください」

「そ・・そうすか・・」

「では、これで」


爺さんはそう言って、車に乗って走り去って行った。


「おめぇ、やるじゃねぇか!」


柴中が俺の背中をバーンと叩いて来た。


「いってぇなぁ!」

「わはは。いやあ~~一時はどうなるかと思ったけどよ、これで坊ちゃんは跡目として認められた。組も安泰だ」

「そっか」

「俺からも礼を言う。ありがとな」

「ったくよーー、調子狂うぜ」


「たけちゃん・・」


そこに翔が現れた。


「ああっ!」


俺は思わず叫んだ。


「ほう。ダチか」

「あ・・うん。翔ってんだ、こいつ」

「おお、おめぇが翔ってのか」

「はい、僕、朝桐翔って言います!僕のことご存じなんですか?」

「坊ちゃんから聞いてるよ」

「和樹くんですねっ!僕、和樹くんと友達なんですよ~~」

「ははっ。そうらしいな。坊ちゃんお喜びだったぜ」

「そうなんですね~~嬉しいなあ~~」


翔・・お前ってほんとに偏見とか無いんだな・・

こんなプロレスラーみたいなやつ目の前にしても、引くってこと知らねぇっつーか。


「おめぇも乗れ」


柴中は翔にも車に乗るよう、そう言った。


「いいんですか~~やったー!」


俺と翔は、後部座席に並んで座り、街まで送ってもらった。


「んじゃ~また連絡すっからよ」


柴中はそう言って車を走らせた。


「あっ!そうだ。途中で電池が切れちゃってよ。俺もう、ビビったぜ」

「そうそう!僕も音が聞こえなくなって、どうしようかと思ったよ。中へ入るわけにもいかないし・・もうヒヤヒヤだったよ」

「だろうなあ。でも俺さ・・」


そこで俺は、さっきのことを翔に話した。


「わあ~~すごいじゃーん、たけちゃん。かっこいい!」

「いやもう、冷や汗もんだったぜ」

「だろうね~、見たかったなあ」

「バカ。見世物じゃねぇーっつーの」

「でもよかったね。これで和樹くんも喜んでくれるね」

「ああ」

「たけちゃん・・」

「なんだよ」

「ねぇ・・高校へ行こうよ」

「えっ・・」

「今から勉強すれば、絶対に行けるって」


俺は翔にそう言われて、前みたいに突っぱねる気にはなれなかった。

なんだ・・うぜーとか思わねぇ・・

勉強なんてクソだと思ってたのに・・

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