表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちを照らす夜明け  作者: たらふく
15/77

十五、俺を見てくれるやつ

        


俺が事務所で怒って帰った後、柴中からの連絡が途絶えた。

もしやマジで俺のこと、諦めたのか。

だとしたら、集会はどうすんだ。

跡目が参加しなけりゃ、どうにもなんねぇんだろうが。


まあ、元々俺には関係ねぇといえば関係ねぇ。

東雲がどうなろうと、和樹がどうなろうと、知ったこっちゃねぇはずだ。

ねぇはずなんだが・・ほんとにそれでいいのか・・


俺は晩飯を食いながら、そんなことを考えていた。


「健人、食欲がないのか」

「え・・あ・・いや」

「どうしたんだ。なんか上の空だぜ」

「っんなことねぇよ」

「じゃあ、さっさと食えよ」

「うっせーなぁ、わかってるよ」


俺は慌てて飯を掻き込んだ。


「そういえばさ、今日、桃田から電話があったぞ」

「はあ?またかよ」

「お前、俺にプリント渡さなかっただろう」

「プリント・・?」

「なんか知らねぇが、進路相談のプリントらしいぞ」

「そんなもんあったっけなあ」

「どうせお前は見もせずに、捨てちまったんだろうな」

「それがどうしたんだよ」

「だから、保護者が来れるのか、来れないのかの返事をしなきゃいけねぇんだよ」

「ふーん」

「まあ、どうせ俺は仕事だし、休めねぇし、行けないけどな」

「ああ」

「お前、明日、桃田に行けないって返事しとけよ」

「ああ」


それから兄貴は食べ終わり、後片付けを始めた。

何事も、ちゃっちゃとやるねぇ。


「おらーお前も終わったんなら持って来いよ!」


台所で兄貴は叫んでいた。

そういや・・兄貴って淋しいとか、辛いとか思わねぇのかな。

仕事も放り出して、俺のことも捨てて、一人になりたいとか思わねぇのかな。


「なあ兄貴」

「なんだー!」


兄貴は向こうを向いたまま、返事した。


「反故って、どういう意味か知ってるか」

「ああーー?なんだー?聞こえねぇよ」

「反故だよ、反故!」

「ほご、だああ。お前なに言ってんだ」

「ほーーーごーー」

「っんなもん、知らねぇー」


俺はそこで自分の食器を持って行き、兄貴の隣に立った。


「反故だよ、反故」

「知らねぇよ、なんだ、反故って」

「約束を破るって意味」

「へぇー、それを反故ってのか。お前、すごいじゃねぇか」

「そうでもねぇよ」

「おっ、なにか!勉強する気になったか!」

「ねーーよっ」


俺は再びちゃぶ台の前に座り、テレビをつけた。


「あ~~あ」


俺は大きなあくびをし、仰向けになって寝ころんだ。


「おい、風呂行くぞ」


兄貴が上から俺の顔を覗きこんだ。


「俺、今日は行かねぇ」

「どした。体調でも悪いのか」

「いや、ちとめんどいだけ」

「そっか。じゃ、俺だけ行って来るな」


兄貴は洗面器を持ち、汚ねぇ草履をはいて出て行った。

なんか面白れぇのやってんのかな・・

俺はリモコンで、あちこちチャンネルを変えた。

ちっ、くそつまんねー。ろくでもねぇ番組ばっかりだ。


ルルル


あっ、電話だ。

俺は急いでテレビを消した。

ひょっとして柴中か。


「もしもし」

「あ、たけちゃん?」

「なんだ、翔かよ」

「なーーに、なんだはないでしょ」

「で、なんだよ」

「今、いいの?まさくんいるんじゃないの」

「風呂行ってる」

「そっか。あのさ、僕、いいこと思いついたんだけどね」

「なんだよ」

「集会の日のことなんだけど、たけちゃん、このままだと相手にやられてしまうと思うんだよ」

「けっ・・大きなお世話だよ」

「でさ、詳しいことは明日、学校で説明するから」

「ってかさ、俺はもう用無しだと思うぜ」

「どうして?」

「連絡ねーし」

「そっかあ。でもさ、決まったわけじゃないし、作戦は練っておくべきだと思うんだ」

「ふーん」

「じゃあね、切るね」


まったく翔のやつ、なに張り切ってんだよ。

ってか、今更、作戦もなにもねぇだろ。

マジで用無しになったかも知んねぇし、例え行くとしても、俺に何ができるってんだよ。



そして次の日の昼休み、早速、翔が俺のクラスへ顔を出した。


「たけちゃん、外で食べようよ!」

「おめぇは・・ったく、なに張り切ってんだよ」

「いいから、いいから。さっ、行くよ」


俺と翔は校庭のベンチに座り、弁当を食べることにした。


「でさ、でさ。昨日の話なんだけどね」

「うん」

「たけちゃんが集会に出たとして、その時、僕が影から指令を出すの」

「はあ?指令?」

「そう。僕は中には入れないから、電話で指令を出すんだ」

「お前、なに言ってんの?」

「だからさあ~、相手は理詰めで来るんでしょ。それに対抗するためだよ」

「じゃ、なにか。お前が相手の声を聴いて、その返事を俺がお前から聞くってことか」

「そうそう!」


こいつ、なんか探偵ごっこと勘違いしてねーか。

にしても、嬉しそうに・・まあ。


「そんなに上手くいくかねぇ」

「絶対にいい作戦だって」

「でも失敗したら、俺、殺されるかもしんねぇぞ」

「いや!僕に任せてくれたら、絶対に成功する!たけちゃんを死なせるもんか!」


はあ・・なんか疲れる・・


「でもさ、まだ連絡ねぇし、張り切ったところでボツになるぞ」

「たけちゃんから連絡すれば?」

「はあ??なんで俺が」

「だってさ、このままだと和樹くん、どうなっちゃうの」

「まあなあ・・」


そういや、由名見も「お願いしますね」とか言ってたし。


「和樹くんも、残念に思うんじゃないの」

「っんなこと言ったってよ・・」

「友達なら、助けてあげようよ」

「お前な・・俺の命がかかってんだぞ。それわかってんのか」


俺は、今、自分が発した言葉にハッとした。

俺って、生まれてこなければよかったとか、クソババア、なんで産みやがったんだってキレたけど、俺・・今・・「俺の命がかかってる」って言ったよな・・

俺の人生なんて、どうでもよかったんじゃねぇのか・・

なら、集会で失敗でも何でもして、命をくれてやったっていいんじゃねぇのか。


「たけちゃん、どうしたの」

「え・・あ・・別に」

「ね~、やってみようよ~」

「・・・」

「たけちゃん・・?」

「・・・」

「たけちゃん・・ほんとにどうしたの・・。僕、言い過ぎたかな」

「いや・・違う」

「作戦、練り直す・・?」

「いや・・そうじゃねぇんだ・・」

「え・・」


俺が今、どんな顔してるのかわからなかったが、翔は俺を見て複雑な表情をしていた。


「翔・・」

「なに・・?」

「俺って・・俺の存在って・・なんだ」

「え・・」

「俺がこの世に存在する意味って、あるのか・・」

「なに言ってるの!あるに決まってるじゃん!」

「どうして決まってんだよ」

「じゃ、たけちゃんは、僕がこの世に存在する意味ってあると思う?」

「え・・」

「ある?ない?」

「いや、それは、あるんじゃねぇのか・・」

「じゃ、たけちゃんだってあるんだよ」

「説得力ねぇな・・」

「じゃ、僕が存在する意味があることを説得してよ」

「お前には、両親もいる。ダチもいる。お前の存在が周りの人間を幸せにする。それで十分じゃねぇか」

「説得力、なさ過ぎだね」

「は・・?」

「それを言うなら、たけちゃんだって同じじゃん」

「同じじゃねぇよ!」

「勝手なこと言うなよ!たけちゃんがいなくなったら僕は死ぬほど悲しいよ!」

「翔・・」

「なに?じゃあ、両親がいて、友達もいて、って、それって人数の問題なの?」

「・・・」

「一人でもたけちゃんを大切に思う人がいたら、それだけで存在する意味があるに決まってるじゃん!たけちゃん、おかしいよ!」

「翔・・」

「その理屈なら、たけちゃんにとって、僕の存在なんかないのと同じだよ!僕のことなんて大切に思ってない証拠だよ!」


そこで翔は、大泣きしだした。


「泣くなよ」

「僕、たけちゃんのこと嫌いならとっくに離れてるよ。誰が好き好んでこんな不良と一緒にいるもんか!」

「・・・」

「たけちゃん・・もう自分をいじめるの、やめようよ。素直になれって言わないよ。だけど自分をいじめちゃダメだよ」

「・・・」

「それにさ、まさくんだって、和樹くんだって、たけちゃんを大切に思ってるじゃないか。自分を見てくれない人を見るより、自分を見てくれる人を見ようよ」

「なんだよ・・それ・・」

「まだわかんないの!バカ!たけちゃんは生まれて来た意味があるって言ってるの!」

「ふっ・・まいったな・・」

「ごめん・・言い過ぎた・・」

「翔・・俺、柴中に連絡するよ」

「えっ・・」

「それで、和樹のために、できるだけのことをやってみる」

「ほんと!?僕も全力で協力するからね!」

「ああ」


それから俺たちは弁当箱を開け、お互いにおかずを交換し合って食べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ