桜
人は身勝手だ。
私に想いを託し、別れ、そして死んでゆく。
再会を約し、想い人を慰め、戦地へ赴く。
私の元で出会うことを誓い、私を想い浮かべながら散ってゆく。
酒を酌み交わし、舞い踊る人々。
私の下で、私を愛でずに、かつての人の想いも無にして、無関係だと狂奔する。
それが毎年の慣わし。
かつての姿をした老人が、想い出の詰まった旗を手に私の元に集う。
いや、彼だけが杯を手に、一人酒を注ぎ、地面に垂らす。
私はそれを、啜って生きる。
そして酔った彼が唄を謳う。
忘れられた唄を私は一人聴いている。
逝く者。残る者。
想い人との約束を胸に秘め、私の元にやってくる娘が一人。
夕闇は過ぎ、夜になっても娘は去らない。
私の元に残されるのは涙の雫。
私はそれを、啜って生きる。
私は想いを託されるもの。
私は想いを伝えるもの。
ただ、人々の行く末を見守り、呆れ、またあるときは涙する。
私は残される。
私に想いは託される。
私自身の想いは何処に?
いや、私は伝える者。
私は記憶を繋ぐ者。
また人がやってきた。
託される想い。
紡がれる新たな想い。
今年はどんな歌が聞けるのか。
そうとも、今年は──。
そう、どんな花を散らして魅せようか。
人々に、どんな想いを伝えよう。